授業実践

【日本とつながりの深い国々】韓国を理解するための問いを作り、韓国の子どもと話し合おう!

2024.02.27
この授業実践の関係者

授業実施者:金鍾成,草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
学校技術支援担当(東広島市内小学校):大岡慎治,清政亮,國重和海,後藤伊吹,新谷叶汰,露口幸将,村上遥大
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,川本吉太郎,久我祥平,和田尚士
事務局機器担当②(上黒瀬小学校):重野 聖怜,田中崚斗,鶴木志央梨,松原信喜,山本亮介,吉田純太郎
研修参加:牧はるか,大畑香澄,山本健人,小田原瞭雅,林千里,見田幸太郎,中島理志

2024年2月27日,東広島市内小学校3校3学級(上黒瀬小学校,木谷小学校,福富小学校)の6年生(46名)が参加し,「日本とつながりの深い国々」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「韓国を理解するための問いを作り、韓国の子どもと話し合おう!」と題して,隣国である韓国の子どもとの対話を通して,日本と韓国の地理,歴史,言語・文化,政治,経済の「似ているところ」や「違うところ」,「つながり」を探究しました。こういう経緯で,今回は東広島市内の児童だけでなく,韓国から5名の児童も参加してくれました。

導入:子どもたちの自己紹介と対話の契機づくり

本授業は,参加してくれた韓国の児童の自己紹介からスタートしました。それぞれ,名前や住んでいる場所,日本のイメージなどを紹介してくれました。その後,「韓国の児童たちが全員私服であり,家からZoomに入室していること」の疑問をもった草原先生から,韓国の参加者に「今,学校はないの?」という質問が投げかけられました。韓国の児童からは「1月に小学校を卒業したばかり,2月は新学期にむけた休みの時期。3月に中学校に入学する予定」との返事が得られました。このお話を受けて日本の児童たちは「日本と韓国に違いがあること」に気付くだけでなく,今まさに国境を越えて韓国の児童とつながって学習していることを実感しました。韓国の児童の自己紹介が終わった後は,日本の児童による韓国のイメージの発表が始まりました。日本の児童たちは,キムチ・ラーメンといった食文化やK-POPといった芸能などを韓国のイメージとして発表しました。日本の児童たちの韓国のイメージを聞いて,韓国の児童からは,「食べ物だけが韓国じゃない」「もっと韓国を知ってほしい」という意見が出ました。このような活動を通して,次第に日本と韓国の児童たちが対話する雰囲気が生まれました。そして金先生から,「外国のことを知るためには,外国の友だちと対話をし,質問しながら理解を深めることが大事なこと」「今日は,韓国の児童に質問しながら韓国への理解を深める良い機会であること」が共有され,学習のめあてとして,「韓国を理解するための問いを作り、韓国の子どもたちと実際に話し合おう!」が立ち上がりました。

前半:日本と韓国の「似ているところ」と「違うところ」

上のめあてに応えるために,授業の前半では,日本と韓国の学校生活や生活を比較していくことにしました。具体的には,次の4つの活動が展開されました。
第1に「比較」という方法の共有です。ここでは草原先生が日本の児童たちに「比較をするとはどういうことなのか」を説明します。比較の視点として「似ている点」と「違う点」に注目したらよいと述べ,比較を引き出す見方・考え方の共有が行われました。
第2に,写真の読解です。日本と韓国の①教室の写真,②給食の写真,③浴室の写真,④伝統的な衣装の写真を比較することで,普段の生活の中にある日本と韓国の類似点と相違点を読み取らせました。日本の児童からは「韓国の教室には黒板の上に国旗が飾られているけど,日本の教室には国旗は飾られていないな」「韓国の給食ではヤクルトがでるようだけど,日本の給食ではヤクルトではなく牛乳がでるよな」「韓国の浴室にはトイレがあるが,日本の浴室にトイレは無いな,浴室とトイレは分かれていることが多いな」「韓国の伝統的な衣装は鮮やかな衣装だけど,日本の伝統的な衣装(着物)は控えめな色だな」などの気付きが出てきました。
第3に質問の創出です。日本と韓国の写真を比較し気になったことを韓国の児童に質問するために,質問を考えます。まずは草原先生から,「質問を作る際には,「いつ・どこで・誰が・何を・どうした?」や「なぜ?」などの疑問詞を使うといいよ」とのアドバイスが行われました。その後,日本の児童は,これらの疑問詞を使ってたくさん質問を作った後,韓国の子どもに問いたい質問を3つに絞っていく活動を行いました。その結果,「なぜ韓国の教室には国旗が飾られているの?」「その国旗はどんな時に使うの?」「韓国の小学校では給食に牛乳が出ないの?」「浴室にトイレがあって,どんな良いことがある?どんな悪いことがある?」「韓国では,伝統的な衣装をいつ着るの?」などの問いが提起されました。
第4に対話の実施です。先ほど日本の児童が出した質問を,実際に韓国の児童に聞いてみました。その際に,各学級はGoogle翻訳と金先生の通訳を使って韓国の児童と対話します。まず日本側の質問をGoogle翻訳に打ち込み,韓国語に翻訳された画面と音声をZoomで画面共有します。それを韓国の児童に聞いてもらい,韓国の児童は韓国語で回答します。それを金先生が日本語に翻訳して,日本の児童に伝えます。その回答を聞いて更に聞いてみたい質問があれば,金先生に伝えて,翻訳してもらうことを繰り返しました。上の問いに対しては,例えば,「教室には国旗が飾られている理由はわかりません。でも,学校行事(入学式や卒業式,運動会など)では,国旗を見て国歌を歌います」「韓国の小学校では昼休みの時間に牛乳が出ます。しかし牛乳をもらうためには,事前に学校に牛乳代を払う必要があります。全員が牛乳を飲めるわけではありません」「浴室にトイレがあって良いことは,1回で用事を済ますことができることです。一方で悪いことは,入浴中に匂いが気になることです」「伝統的な衣装は,成人式などで着る人が多いです」といった回答が返ってきました。日本側からの質問が終わると,次に韓国側からの質問が始まりました。韓国の児童からは「私たちは,昔,日本が韓国を占領したと習いました。その歴史は日本の授業でも習いますか?」「日本と韓国では独島(竹島)の領土問題がありますが,それを知っていますか?」「その問題についてどんな意見がありますか?」といった質問が日本の児童に投げかけられました。日本の児童からは「日本の授業でも,昔,日本が韓国を植民地にしたと習います」「竹島は今韓国に占領されているということを習いました」「竹島って何かわからない」などの応答があり,それを金先生が韓国の児童たちに翻訳し伝えました。
以上の対話を通して,児童は日本と韓国の「似ているところ」「違うところ」の理解を深めることができました。ここで韓国の児童は授業から退出しました。お礼の拍手でお別れをしました。

後半:日本と韓国の「つながり」への注目

授業の後半では,日本と韓国との「つながり」に注目にして,韓国の理解を深めていくことにしました。具体的には,次の4つの活動が展開されました。
第1に「つながり」を見つける方法の共有です。ここでは金先生が日本の児童に「つながりとは,「日本(韓国)で生まれたものが韓国(日本)で流行っていたり,モノや人の移動がいったりきたりしていること」と説明しました。
第2に,教科書の読解です。日本と韓国の①文化的な「つながり」(日本の有田焼・小鹿田焼は,朝鮮半島から伝わった陶工技術で作られており,文化的な「つながり」が古くからあること),②経済的な「つながり」(日本と韓国には30以上の航空路があること,日本と韓国の貿易額は年々上昇していること)が記された教科書を読み,日本と韓国の「つながり」を読み取らせました。児童からは「日本と韓国は近い」「日本と韓国を行き来する飛行機がたくさんある」「日本と韓国は貿易を通して深くつながっている」「焼き物の技術など,昔から韓国とのつながりがある」「日本の漫画やアニメが韓国で流行し,韓国の音楽やドラマが日本で流行している」といった気付きが見られました。
第3に,日本の専門家との対話です。ここでは草原先生からは,日本と韓国のつながりは,①交通の「つながり」(飛行機や船が日本と韓国を行き来していること),②歴史の「つながり」(昔,日本が韓国から学んだり,日本が韓国を攻めたりしたこと),③文化の「つながり」(日本の漫画やアニメが韓国で流行したり,韓国の音楽やドラマが日本で流行したりしていること),に分類できることが示されました。この話を聞いて,子どもたちは自分の気付きがどの「つながり」に分類できそうかを考えていました。
第4に,韓国の専門家との対話です。車ボワン先生(延世大学教育研究所)から,日本の児童たちの気付きに対する意見を聞きました。車先生は,①現在に生きる日本と韓国の子どもが,同じ時間に「つながって」学習できたこと,②日本と韓国では距離があるけれども,オンライン空間の中で「つながって」学習できたことの意義をお話されました。この話を聞いて,日本の児童は,授業の内容だけでなく,授業の方法にも日本と韓国に「つながり」があったことを認識しました。
以上の学習を通して,児童は日本と韓国の「つながり」に関する理解を深めることができました。金先生は,最後に「今日の対話を通して学んだことは何か」「韓国の子どもに伝えたい一言は何か」を問い,振り返りを促しました。日本の児童からは「言語以外にも「こんなところも違うんだ」と思ったところがいくつもあって,対話することがとても楽しかった」「韓国の人たちの時間をとってもらい,質問に答えてもらえたり,興味をもって聞いてもらえたりしたのが嬉しかったです」などの声が聞かれました。

6年生を対象とした授業は初めての試みとなります。国境を越えた対話的な授業も初めての試みでした。今回の授業で得た成果や課題を踏まえ,今後も広域交流型オンライン学習の新たな展開に努めてまいります。

この記事を書いた人
広島大学教育ヴィジョン研究センター
デジタル・シティズンシップ・シティ運営メンバー

広島大学教育ヴィジョン研究センター内のデジタル・シティズンシップ・シティ運営メンバーで、プロジェクトの実行運営を担当しています。