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概要
2025年6月4日,東広島市内小学校2校8学級(原小学校,龍王小学校)の3~5年生224名と,広島市立基町小学校の4年生1学級17名,鹿児島市立桜峰小学校の5~6年生2学級11名,スペシャルサポートルーム,フレンドスペース,スクールSの子どもたちが参加し,「多文化共生」をテーマとする遠隔授業を実施しました。
授業の主題は「外国の言葉が上手とは?―話し上手・聞き上手ってどんな人?―」。多様な言語文化的背景をもつ人々とのコミュニケーションの在り方について考察しました。参加校には外国語を話す児童が在籍しており,特に基町小学校はその割合が高く,日常的に多文化環境が形成されている点に特色があります。進行は広島大学の南浦涼介准教授と草原和博教授が務めました。


導入:外国の言葉を話すのは誰しも不安…?
授業冒頭では,子どもたちが外国語に対してどのような経験や印象をもっているのかを確かめるため,事前アンケート結果を共有しました。「日本語・英語以外を話せる」と回答した児童はすべての学校におり,特に基町小ではその割合が高いことがわかりました。
次に,大人が話せる言語と自信の程度について担任教師にインタビューを行いました。桜峰小の先生は,英語・韓国語が◎,中国語が△と答えました。龍王小の先生は,英語が△と答えました。ALTラナさんは,英語とタガログ語とスペイン語と日本語が話せるけど,日本語は苦手,とくに「自分にとって外国語の日本語を話すのは苦手」と言い,「相手に失礼にならないかと緊張する」と述べました。大人でも外国語を話すことには不安を感じることが明らかになりました。
この流れを受け,児童にも「英語を話す自信があるか」のアンケートを実施。「自信がある」70%,「あまり自信がない」30%という結果から,子どもも外国語を話すときに不安を感じる傾向があることがわかりました。ここで,授業のめあて「外国語が『上手』な人ってどんな人だろう?」が提示されました。


展開1:外国の言葉が話し上手な人ってどんな人?
授業の前半では,外国の言葉が「上手」な人について,話す側の視点から考えました。題材は新幹線の英語アナウンスの2種類の音声(①流暢な自動音声,②たどたどしいが自分の声で話す車掌)です。児童の選好は,①が62.2%,②が37.8%でした。理由を尋ねると,①を支持する児童は「聞き取りやすいから」,②を支持する児童は「乗客に合わせて話していて親切だから」と述べました。このように,子どもたちのなかでは,上手について意見が割れているようでした。
ここで,南浦涼介准教授は,車掌さんが自分の声で話すようになったのは最近のこと。スラスラで聞きやすい自動音声があるならそれでもいいはずなのに,なぜ車掌さんは(それほど流暢ではない)自分の声で話すのだろう?と問いかけました。子どもの議論をAIに分析させると,「緊急時に自分で判断して対応できるから」「乗客に伝えたいという気持ちがあるから」といった意見が出ていました。
こうしたやりとりを通じて,授業の前半では,話し手の上手さは,「流暢さ」だけでなく,「柔軟さ」や「気持ちを伝える姿勢」にもあることに気づくことができました。




展開2:外国の言葉が聞き上手な人ってどんな人?
授業の後半は,外国語が「上手」な人について,聞く側の視点から考えました。登場したのは,フィリピン生まれで基町小に昨年転校してきたばかりのAさん。彼が校内放送に取り組む様子を手掛かりに,「外国の言葉が上手な人」について考察しました。まず,「自分がAさんだったらどう感じるか」を予想しました。原小と桜峰小の児童は「緊張する」「話せないかもしれない」との声が寄せられました。実際のインタビュー映像で,Aさんは「日本語で放送できて嬉しい」「話すときの気持ちはふつう」と語っていました。
次に,Aさんの放送を,教室の子どもたちはどのような気持ちで聞いているかを予想しました。児童らは,「失敗しても大丈夫って応援していると思う」「応援しているし,心配もしている」と答えました。実際に基町小の児童にインタビューしてみると,「もうすぐ下校時間だな,気づかせてくれてありがとう」「上手になってきたなあ」と思いながら聞いていると述べ,基町小においては「当たり前」の光景であることが見えてきました。
ここで,なぜAさんにとって校内放送することは「普通」で「うれしい」ことで,聞く人にとってもそれが「当たり前」になっているのかを,基町小の校長先生に尋ねました。校長先生は,「基町小に通う子どもたちは半分以上の外国から来たお友だち」で「いろいろな委員会の仕事を外国から来た友だちと分け隔てなくやっている」「放送も友だちと一緒に練習したり応援したりしているので,A君も緊張せずに放送できているのだと思う」と述べました。このようの基町小では,外国から来た子どもの放送を聞くことも,日常の風景になっていることが分かりました。
こうした展開を通して,授業の後半では,聞き手の応援する姿勢や多様性を是とする学校文化も大切であることが明らかになりました。

どう思っている?

「うれしい」「普通」なの?
終結:外国の言葉が「上手」な人ってどんな人だろう?
授業のまとめとして,子どもたちは,「外国の言葉が「上手」な人とは○○○な人である」という文章を考え,発表しました。参加学級から示された文章は,以下の通りです。
【話す側の視点】
・たどたどしくても頑張っている人
・恐れずしゃべることができる人
・相手と会話のキャッチボールをするために伝えようとする人
・みんなと仲良くできる人
【聞く側の視点】
・頑張ってねと応援できる人
・聞く人の気持ちを考える人
【話す・聞く両方,その他】
・たくさん練習や努力をしている人
・思いやりを持っている人
・自分の仕事を全うできる人
・天才な人 など
最後に,南浦涼介准教授は「(この授業のように)マイクを持って画面の向こうの人に話しかける時はドキドキするね。しかし,話すときは自分の気持ちを一所懸命伝えようとするし,聞くときは相手が話し出すのをジッと黙って待っていたりする。こういう態度が上手な人かもしれない」と述べました。また,草原和博教授は「聞き手は粘り強く相手に耳を傾け,話し手は相手を思って話しかける姿勢が大事」とまとめました。本授業を通して,基町小学校のような環境をつくり出すことの意義についても考えることができました。


学びの意義と今後への展望
本授業実践では,「外国の言葉が「上手」な人ってどんな人?」という問いを通じて,子どもたちが言語的文化的な多様性について主体的に考えるきっかけとなりました。特に印象的だったのは,東広島市や鹿児島市の児童が「(放送で)緊張しているだろう」と想像したAさんが,「嬉しい」と語った場面です。学校文化の違いが子どもたちの認識に鮮やかなコントラストをもたらしました。さらに児童らは,外国語の「上手さ」を「正確さ」や「流暢さ」という視点だけでなく,「思いやり」や「寛容さ」といった視点からも捉えることができました。これは,本授業が多文化共生社会をつくる担い手としての姿勢を育む場になったことの証です。引き続き,本プロジェクトでは,他者と共に生きる力を育む公教育をデザインしていきます。
授業実施者Ch1:南浦涼介,草原和博
授業実施者Ch2:三井成宗,近藤郁実,瀧本耕平
授業補助者:各小学校での授業担当教員
龍王小学校からの中継:露口幸将
学校技術支援担当(東広島市内小学校):神田颯,露口幸将,上中蒼也,梶山彩佳,後藤嘉希,手嶋高嶺,横田亜美,森涼夏,井手歩実,小島拓歩,圓奈勝己,新谷叶汰
学校技術支援担当(鹿児島市内小学校):川本吉太郎
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,岩切祥
事務局機器担当②(広島市立基町小学校):宇ノ木啓太,中西美里,西川俊
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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