授業実践

【情報を伝える仕事】未来とつながる情報-新聞・インターネットの情報は無料だろうか!-

2023.12.13

指導案・教材・YouTube動画

概要

2023年12月13日,東広島市内小学校2校4学級(中黒瀬小学校,豊栄小学校)の5年生(104名)と札幌市立白楊小学校1学級の5年生(35名)が参加し,「情報を伝える仕事」をテーマとする遠隔授業を実施しました。地元のフリーペーパーや様々なインターネットサービスに注目した学習を通じて,①情報産業を成立させている広告料と使用料の概念を認識すること,②広告の社会的な価値を多面的に評価できる(無料で情報提供する,購買意欲をかきたてる)ことの2点をめざしました。

なぜこんなに情報たっぷりの新聞が,無料でもらえるの?

1時間目は,情報産業の媒体として「フリーペーパー」に注目しました。
前半は,フリーペーパーについて知る活動です。東広島市では,プレスネット社が「ザ・ウィークリー・プレスネット」を発行しています。地域のニュースや新店情報等が盛りだくさんの地元密着型のフリーペーパーです。しかし,今回授業に参加した校区では,必ずしも全戸に配布されていないことが分かりました。そこで児童1人に1部を渡し,実際に十数ページにわたる同誌を開いて斜め読みするところから授業を始めました。児童は,実際に何が載っているかを調べていきました。マクドナルドの広告は児童の目を引きます。さらに,プレスネット社のホームページも参照することで,発行の①頻度と②部数,配達の③範囲や④方法,⑤価格(無料)といった同誌の特徴を整理していきました。プレスネットのことを詳しく知るにつれて,児童からは「なぜ無料なの?」「なぜ木曜日発行なの」といった疑問があがってきました。なお,東広島市の児童は,他地域のフリーペーパーについても理解を深めました。白楊小学校の児童から札幌市の「ふりっぱー」を紹介してもらい,暮らしに役立つ無料のフリーペーパーが各地で発行されていることを実感しました。以上の活動を踏まえて,1時間目の学習課題「なぜこんなに情報たっぷりの新聞が,無料でもらえるのだろう?」が設定されました。
1時間目の後半は,この学習課題に応えていきました。課題に対する予想を立てさせると,「地域の情報をみんなに知ってほしいから,市や県が,新聞を作るのに必要なお金を出しているのではないか(お金は市長のポケットマネーかもしれない)」,「いや(会社が)ボランティアで新聞を作っているから無料なのではないか」といった答えが返ってきます。こうした児童の仮説を,プレスネット社と一緒に検証していきました。プレスネットの社員さんの給料は広告料から出ていることを確かめた上で,さらにその実態を調べていきます。例えば授業者が「プレスネットさん,この不動産屋さんの広告はおいくらですか?」と尋ねると,「全12段(丸々1ページ)ですから約94万円です!」と教えてくださります。広告を取り上げ,その値段が発表されるたびに,額の大きさに驚き,スピーカーからは「えー?!」の声が響きます。こうして広告料金表と紙面を相互に参照しながら,同誌に広告を掲載するには,数十万円から百万円程度のお金がかかることを認識していきました。すなわち,プレスネットは,独自の取材した記事だけでなく,広告を掲載することで発行できています。これらの事実から,自治体の補助金や会社のボランティアに代わる説明の視点として,「広告料」概念を構築できました。

ぜこんなに情報たっぷりのインターネットが,無料で使えるの?

次に2時間目は,情報産業の媒体として「インターネットサービス」に注目しました。
前半は,インターネットサービスを無料で使える理由を探究しました。事前アンケートの結果によると,9割を超える児童がYouTubeやGoogleを使ったことがあると回答しています。今やインターネットは,児童にとってテレビやラジオ,新聞よりはるかに身近な存在です。これらサービスもフリーペーパー同様に無料で利用できます。そのわけを考えるために,学習課題として「なぜこんなに情報たっぷりのインターネットが,無料で使えるのだろう?」が設定されました。児童は,1時間目に獲得した概念を活用して,「インターネットサービスも広告料で成り立っているのではないか」と予想を立てました。
次にこの仮説を確かめるために,2時間目前半は「広告探し競争」を行いました。参加した4つの学級それぞれが,Yahoo,Google,YouTube,Amazonのホームページを分担し,各コンテンツの中に隠された広告を,児童と大学生で競争して見つけていきます。なお,白楊小学校の児童は,広島大学と中継をつないでオンラインで大学生と広告探しをしました。大学生との真剣勝負は,仮説を検証過程として機能しています。各教室でのゲームの成果は,次のとおり報告されました。
・Yahoo!:トップページに掲載されている広告を探しました。ニュース記事一覧の中に広告が隠れていたり,ページ側方に広告が掲載されていたりしていました。ゲームを通じて,このページには,多様な広告が,手を変え品を変え,繰り返し表示されることに気づきました。
・Google:「塾」を検索し,その結果ページに潜む広告を探しました。Googleは,広告が「スポンサー」という名目で表れていることもあり,広告探しは当初難航しました。しかし大学生がその意味を解説することで,広告探しはスピードアップしました。また,東広島市にある塾が,たくさん表示される傾向にも気づきました。
・YouTube:人気のHIKAKINの動画を再生し,そこに表示される広告を探しました。動画を見ようとすると,まず広告を数秒に渡って見ないといけません。早く動画を見たいのに広告が邪魔する煩わしさを覚えながら,児童はゲームに取り組みました。
・Amazon:ミニカーの検索結果の画面に隠された広告を探しました。Amazonは検索結果を踏まえて,子どもが好きそうな商品を表示し,購入を勧めてきます。なかには怪しそうな商品が紛れていることもありました。実際に販売ページに遷移して,その商品の値段や出荷元を批判的に確かめる児童もみられました。
2時間目の後半は,広告の意味や功罪を考えていきました。事前アンケートの結果によると,広告を「便利」な情報源と感じる児童が約57%いた一方で,「邪魔・飛ばしたい」と考える児童も約56%に達して,数字は拮抗していました。児童には,このデータが授業者から共有されました。さらに,インターネットの閲覧に広告は絶対必要かの問いに,ある大学生は「自分はYouTube Premiumに入って使用料を毎月払っているから,広告は表示されません」と答えました。インターネットサービスは,広告主が払う「広告料」だけでなく,使用者が払う「使用料」でも成り立っていることに気づきました。それを踏まえて,本時の終結で,あらためて「広告はあったほうがよいか?」を考えることとしました。
この問いに対する児童の考えをオンラインで集約したところ,「広告があったほうがよい」が27.9%,「広告はないほうがよい」が28.7%と,再び拮抗しました。しかし「どっちかなやむ」と回答した児童も43.4%に達します。約半数の児童が答えを決めかねている様子が円グラフによって視覚的に描き出されました。意見を決めかねる児童に対して,北海道の白楊小学校の児童が声を上げます。冒頭で紹介した「ふりっぱー」に意見広告を投じる計画を紹介しました。児童からは,除排雪(交通事故を防ぐために,雪を道路脇によけたり,堆積場へ移送したりしないといけない)の協力依頼を「ふりっぱー」に掲載したい旨が述べられました。この願いに対して,授業者は「そのためには,たくさんのお金を払わないといけないよ」と揺さぶりをかけます。
こうしたやりとりを得て,児童の考えは深化しました。再び同じアンケートをとると,「広告はあったほうがよい」が47.1%,「広告はないほうがよい」が34.7%となりました。「どっちかなやむ」の割合は18.2%へ減少しました。児童は広告の是非について意思をはっきり表現できるようになったことが,参加者全体で確認できました。また広告の必要性をめぐっては,「情報産業が無料サービスを続けるためには,広告は必要だ」,「私たちが広告を飛ばせないのはめんどうなので,広告はいらない」「欲しくないも物も欲しくなってしまうので,広告はいらない」など,多様な見解が共有されました。

授業を振り返って

「情報を伝える仕事」の実施は今回2回目です。今回は北海道の白楊小学校が参加してくれました。これによってフリーペーパーの共通点に気づいたり,意見広告の可能性に気づいたりすることができました。情報リテラシーも,学級間の対話を通じて高め合うことができました。引き続きEVRIと東広島市教育委員会は,オンラインの特性を生かした新しい学びを提案し,実践してまいります。なお,東広島市以外の自治体・学校の参加も歓迎します。いっしょにオンライン授業をしませんか。ご関心があれば,お問い合わせください。

この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
プレスネットからの中継:川本吉太郎,鶴木志央梨,和田尚士
広島大学からの中継:小田原瞭雅,黒岩佳太,後藤伊吹,藤原武琉
学校技術支援担当(東広島市内小学校):内田智憲,大岡慎治,小野創太,露口幸将,林知里,牧はるか,村上遥大,山本健人
学校技術支援担当(札幌市立白楊小学校):玉井慎也
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,清政亮,久我祥平,髙須明根
事務局機器担当②(中黒瀬小学校):重野聖怜,田中崚斗,山本亮介,吉田純太郎

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!