指導案・教材
概要
2023年10月20日,東広島市内小学校8校17学級(西条小学校,寺西小学校,志和小学校,平岩小学校,高美が丘小学校,板城西小学校,豊栄小学校,風早小学校)の5年生(566名)が参加し,「自動車工場」をテーマとする遠隔授業を実施しました。マツダの自動車工場と県外や外国の自動車工場を比較することで,自動車工場の立地やその条件について探究しました。
航空写真をみてどんなことに気付く?
1時間目は,マツダの宇品工場(広島県)と防府工場(山口県)の航空写真をみて気づくことを話し合う活動からスタートしました。2つの工場の航空写真を比べることで,いずれも海の近くにあり,道路に囲まれた広い土地に建設されていることが共通点として浮かび上がりました。このような比較を通して,児童は自動車工場が建設されている土地の広さに感心する一方で,海の近くに工場が建設されている理由も気になってきました。そこで進行役の草原教授から,「自動車工場は,なぜ海の近くにあるの?」という学習課題が示され,探究する場がつくられました。
工場から自動車を運び出すのは、・・・。工場まで部品を運ぶのは、・・・。
この学習課題に答えるために,まず草原教授から2つのクイズが示されました。1つ目は,「工場から自動車を運び出すのに1番使われているのは何だろう?」です。児童は「トラック,船,飛行機」の選択肢から答えを選びます。2つ目は,「工場まで部品を運んでくるのに1番使われているのは何だろう?」です。児童は「トラック,船,鉄道」の選択肢から選びます。この2つのクイズに答えることで,まず海の近くにある自動車工場を機能させている物流の構造を確認します。クイズの後に答え合わせを行い,製品の出荷には「船」が,部品の調達には「トラック」が使われていることを知りました。
この事実から,「なぜ船やトラックが使われているだろう」との問いが導かれました。参加した17学級は,「船」を使う理由を考える学級,「トラック」を使う理由を考える学級に分かれて話し合います。各学級の代表者が仮説を発表した後,マツダで働く石神さんに話を聞きながら仮説を検証していきました。自動車の出荷に「船」を使う理由については,自動車の80%近くはアメリカやヨーロッパに運ばれるため(輸出されるため),重いものを一度にたくさん運ぶことができる船を,工場から自動車を運び出す手段として使っているとの解説がありました。さらに部品の調達に「トラック」を使う理由については,小さな部品の90%以上は広島県・山口県に集まった協力工場に頼っているため,道路を使って工場まで直接部品を運び込めるトラックを使っているとの解説がありました。また,部品の一部は貨物列車や飛行機でも運ばれていることが補足されました。
以上の説明を聞いたうえで,児童は学習課題の「自動車工場は,なぜ海の近くにあるの?」に対する答えをつくっていきました。「海の近くに工場を建てると,海(船)をつかって自動車や部品を運ぶのにも,陸(トラック)を使って自動車や部品を運ぶにも便利だから」と整理したところで,1時間目は終わりました。時間が許すかぎり,マツダの石神さんへの自由質問の時間も設けられました。
自動車工場が本当に海の近くではないといけないの?
2時間目は,1時間目のまとめを行うとともに,草原教授が「自動車工場が本当に海の近くではないといけないのか?」と児童に尋ねることから始まりました。アンケートを行うと,1時間目の学習を踏まえて,40%弱の児童が「海の近くでないといけない」,50%以上の児童が「どちらかというと海の近くがいい」と答えました。そこで草原教授は,2時間目の学習課題として「自動車工場は必ず海の近くでないといけないの?」と揺さぶりをかけ,自動車工場についてさらに深く探究していきました。
この学習課題に答えるために,草原教授はトヨタの元町工場(愛知県)やフォルクスワーゲンの工場(ドイツ)の写真が示します。この2つの工場は,どちらも海から離れたところに建設されています。そのため,これらの写真を見た児童は,「自動車工場は海の近くに建てなくてもいいのかな?」や「自動車の輸送はどのようにしているのかな?」と疑問を持ち始めました。そこで地理学の専門家である広島大学の由井教授の話を聞くことしました。由井教授は「自動車はトラックや鉄道でも運べるので,工場は必ずしも海の近くでなくてもいい,内陸でも構わない」「自動車会社ははじめから自動車を作っていたわけではない,昔は織機や飛行機などのモノづくりをしていた」「自動車を作る基礎となるような技術をもった人や工場が集まっていることも大事」と説明されました。自動車工場が内陸にも立地できる可能性が示唆されたところで,草原教授は「私たちの住む東広島市に自動車工場を建てることができるだろうか?」と尋ねます。児童は,これまでに学んだ①広く平らな土地があるかどうか,②トラックや船・鉄道などでの輸送に便利かどうか,③技術をもった働ける人口がいるかどうか,の3つの観点で東広島市を調べていきました。児童はこれら3つの視点から10点満点で東広島市への立地の可能性を採点するとともに,学級としての採点結果をレーダーチャートに表現していきました。チャートができたところで参加学級は6つのブレイクアウトルームに分かれ,3学級ごとにチャートを見せ合いながら意見交換を行いました。意見交換後の報告では,「東広島市は②高速道路などの輸送手段には恵まれ,③働ける人も多く,酒造りの技術やサイエンスパークなどもあるので,自動車工場はできるのではないか」,「東広島市は①広く平らな土地が少なく,②大きな港もなく輸送の便がよくなく,③働く人も少ないので,自動車工場はできないのではないか」という報告がありました。とくに③の視点では学級ごとに評価が割れて,全体としては「自動車工場はできない」と判断する学級が多い結果となりました。
まとめ:専門家の説明
授業の終結では,児童の発表を聞いていた専門家からコメントをもらいました。由井教授からは「自動車を安い値段で売るためには,安い賃金で働いてくれる人が必要。だから今では自動車工場の多くが外国に建てられている」「自動運転のような高価な自動車ならば日本でも作れるけど,普通の安い車は日本で作っても,賃金が高すぎで儲からない」と解説を受けました。石神さんは,由井教授の説明を受けて,マツダはベトナムや中国,タイに自動車工場を立てていることを,写真を示しながら紹介しました。また輸送の大半に船を使って環境に配慮していることアピールされました。2人の専門家の説明を聞いて,児童は自動車工場と地域との関わりを,さらに多面的に考えるようになりました。
授業を振り返って
自動車工場をテーマとする授業の実施は,昨年度に続いて2度目でした。昨年からアップデートした今回の授業では,輸送手段だけでなく,平地の面積や技術・人口の集積,そして世界の賃金格差の視点からも自動車工場の立地を探究していく授業となりました。本授業を通して,児童は東広島市の地理的な特徴だけでなく,グローバルな経済構造にも目を向けるきっかけを得ることができました。ブレイクアウトルームや中継を取り入れることで,異なる学校・学級の児童が同じ東広島市の産業開発の課題をめぐって対話したり,専門家と交流したりする場も生まれました。そこには,デジタルな公共空間の萌芽が見られました。
EVRIは,今後も引き続き広域性と地域性を活かした社会科らしい授業を開発,提案してまいります。
授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
マツダからの中継:両角遼平,山本亮介
学校技術支援担当(東広島市内小学校):内田智憲,小田原瞭雅,小野創太,小野郁紀,黒岩佳太,清政亮,澤村直樹,藤原武琉,村上遥大
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,田中崚斗,山本健人
事務局機器担当②(高美が丘小学校):大岡慎治,川本吉太郎,久我祥平,吉田純太郎
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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