授業実践

【先端研究開発を考えるオンライン探究学習】レアアースについて,高校生は何を知るべきか・考えるべきか?-教科書を書き足そう・書き換えようプロジェクト-(1)

2026.08.25

指導案・YouTube動画

授業の概要

2026年8月25日(火),全国の高校3校48名(広島県立広島国泰寺高等学校,長崎県立佐世保南高等学校,熊本県立済々黌高等学校)をオンラインで接続した遠隔授業を実施しました。授業のテーマは「レアアースについて,高校生は何を知るべきか・考えるべきか?-教科書を書き足そう・書き換えようプロジェクト-」です。キーワードは,「RRI(Responsible Research and Innovation)」。研究開発の過程に市民の感覚や意見を取り入れ,研究者と市民がともに研究・イノベーションのあり方を考えていくという発想です。本授業は,このRRIの考え方に基づき,レアアースに関する教科書記述の追記と書き換えを通じて,高校生が海洋に関する先端研究開発の意義や課題を市民として評価するプロジェクト型の学習です。

本授業では,内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期課題「海洋安全保障プラットフォームの構築」との連携により,JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)の専門家との対話や地球深部探査船「ちきゅう」に関するクイズ・解説を行いました。また,実際に教科書を編集している東京書籍の担当者にも出演いただき,高校生・海洋研究者・教科書出版社の三者が対話する場を設けました。授業の進行は各学校の担当教員が務め,広島大学の草原和博教授が全体進行を行いました。

導入:高校生が研究者のRRIに協力する?!

授業の冒頭では,今回の探究学習の目的が示されました。草原教授は,「今回の目的は,海洋研究者のRRIに,私たち高校生が協力すること」と述べ,高校生も市民の一人として研究開発に関わることを促しました。

ここで,昨年度の授業に参加した高校生の声がJAMSTECにどのように受け止められたのか,JAMSTECの方々に尋ねました。JAMSTECからは,「昨年度は,もっと情報発信をしてほしい,という声が多く寄せられた」「公開できる情報に限界があるが,今年1月の南鳥島沖でのレアアース泥の採鉱試験について,できる限り情報発信に努めてきた」との説明がありました。

続いて草原教授は,生徒たちに「学校でレアアースについて習ったことはある?」と問いかけました。一部の生徒から「中学校の社会科で習った」という声があったものの,多くの生徒は「習ったことはない」と回答。教科書出版社からは,「現行の高校教科書では,地理や公民,化学などでレアアースが取り上げられているものの,まだ扱いは大きくない」と説明がありました。

そこで提示された学習課題が,「レアアースを扱った『教科書』の『見開き半ページ(1頁)』のコラムをまとめよう!」です。高校生は「教科書の読み手」から,「教科書の書き手」へ。さらに,草原教授が生徒たちの提案をJAMSTECのウェブサイトなどで紹介できるか尋ねると,JAMSTECからは「紹介できる可能性はある」との回答がありました。草原教授は,「JAMSTECの皆さんがこれなら載せられると思えるくらい,科学的に正しく,意義のある内容を提案してほしい」と呼びかけ,レアアースをめぐる探究がスタートしました。

「ちきゅう」から学ぶ海洋先端研究開発!

まず生徒たちは,レアアースについて理解を深めるため,地球深部探査船「ちきゅう」に関するクイズにチャレンジしました。「ちきゅう」は,南鳥島沖で進められているレアアース泥の研究開発にも関わる地球深部探査船です。JAMSTECの方に答え合わせ・解説をしてもらいながら,「海底下3,000mまで掘削した実績があること」「アジマススラスタと呼ばれる6つのスクリューで,波の中でも船の位置を保ちながら作業できる技術が使われていること」「ライザー掘削と呼ばれる技術によって,泥水を循環させながら海底を掘削していること」を知りました。

このように,専門家と教室がオンラインでつながることで,生徒たちは,ニュースや資料だけでは分からない研究開発の実態に迫っていきました。

あなたの「推し記事」を紹介しよう!

生徒たちは授業前の課題として,JAMSTECの資料,新聞・ウェブ記事,研究論文など,複数の資料をもとにレアアースについて調べてきました。事前課題では,「レアアースについて分かったこと」を整理するだけではなく,「高校生はもっと何を知っておくべきか」「何を考えるべきか」「何を議論した方がよいか」を考えることが求められました。授業当日は,各校の代表生徒が,特に関心を引かれた「(高校生向け)推し記事」を紹介しました。

高校生による「推し記事」紹介

・これからの社会では資源を確保することが難しくなるから,資源をどこから供給しているのか,どこが多くの資源を所有しているのかを知るべき(佐世保南高校)
・2026年にJAMSTECがレアアース泥の採鉱試験に成功したこと,日本がレアアースの大部分を中国からの輸入に依存していることは知るべき(済々黌高校)
・レアアースの採掘・精錬を中国が大きく担っていることを知るべき。また,採掘や精錬に伴う深刻な汚染リスクを,中国に押し付けているのではないか(佐世保南高校)
・日本がレアアースを輸出できるようになると,むしろ国際環境に悪影響が出るのではないか(国泰寺高校)
・レアアースという貴重資源は外交を有利に進める上で切り札となるのではないか,日本の環境規制は厳しすぎるのでないか(済々黌高校)
・日本も資源を自国で確保できれば経済安全保障に大きく貢献できるが,それには環境や生態系への悪影響が潜んでいるのではないか(国泰寺高校)

各校の発表を受けて,生徒は再び「教科書のコラムに載せたいこと」をTSUNAGUに入力。生徒の意見をワードクラウドとして可視化すると,「国際関係」「環境破壊」「ライザー」「生態系」「安全保障」「外交カード」「貿易摩擦」などの言葉が浮かび上がりました。同じ「レアアース」というテーマでも,国際関係,科学技術,安全保障,環境,経済など,見る角度によって異なる問いが生まれていることが見えてきました。

教科書には,何を優先して載せるべき?

ここから授業は,「高校生はレアアースについて何を学ぶべきか」を考える段階へと進んでいきました。まず草原教授は,教科書(コラム)に載せるべきことを決める際の視点を3つ紹介しました。

教科書(コラム)に載せるべきことを決める際の視点

A:最新の科学的な知見を入れる
B:国家・社会に対する教訓を入れる
C:私たちにとっての論点・争点を入れる

3つの視点を踏まえ,生徒たちは希望する教科・科目ごとにブレイクアウトルームに分かれ,教科書コラムの原案づくりに取り組みました。学校の枠を越えて,「この教科でレアアースを扱うなら何を載せるべきか」を話し合います。各ルームでは,生徒を中心に,各校の教員やJAMSTEC関係者も加わり,大学のファシリテータの支援のもとで議論を進めました。例えば,歴史・公共のグループでは,「C:私たちにとっての論点・争点を入れる」という観点を重視し,「環境破壊」と「資源の確保・安全保障」をどのように両立させるかを教科書で考えさせる論点としてまとめていました。こうして,各グループは次回の教科書コラム完成に向けた原案をまとめました。

終結:レアアースを教科書化する視点を学ぶ!

最後に,東京書籍の担当者から,生徒たちの教科書コラム案に対してアドバイスをいただきました。「テーマを明確にすること」「教科のどの部分に位置付けるのかを考えること」に加え,「レアアースについて知るだけではなく,そのコラムを通して生徒が何を学ぶのかという教育的な視点も大切にしてほしい」と助言がありました。

また,JAMSTECからは,レアアースだけを見るのではなく,他の資源開発と比較しながら考えることの重要性が示されました。例えば,深海生態系への影響については実例が少ないため, 別子銅山など陸上の鉱山開発の事例を手がかりに考えることもできるのではないか,との提案がありました。

TSUNAGUによる各グループの議論の要約からは,「いい所だけでなく悪い所も知るべき」(地理),「レアアース採掘後の環境や生態系への影響についても考えるべき」(化学・生物),「評論文をのせて,最後に問いを置き,生徒が自ら調べるきっかけにしたい」(英語・国語)といったアイデアが共有されました。最後に,草原教授は,「知の消費者から知の生産者へ変わっていこう」と呼びかけ,授業を閉じました。

まとめ

本実践は,生徒を「知の消費者」ではなく「知の生産者」に位置づけました。本実践が目指すのは,高校生が「市民」として先端研究開発の意義や課題を考え,その評価に関与していくことです。専門家の科学的な知見を聞くだけでなく,専門家に問いを返し,他校の生徒の調査結果を聞き,ともに議論する。そして,何を知るべきか,何を考えるべきかを選び取り,教科書に載せる「知」として編集していく。こうした対話と編集の積み重ねを通して,高校生が研究者のRRIに参画する場をつくりました。

次回9月24日の授業では,今回作成した原案をもとに,高校生,JAMSTEC関係者,高校教員,ファシリテータが対話しながら,レアアースについての「教科書コラム」を完成させます。続報もぜひご覧ください。

この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各高等学校での担当教員
JAMSTECからの中継:正出七瀬
学校技術支援担当(国泰寺高校):神田颯
学校技術支援担当(佐世保南高校):三井成宗
事務局機器担当①(広島大学):宇ノ木啓太,草原聡美
事務局機器担当②(済々黌高校):川本吉太郎
議論ファシリテータ:𠮷田純太郎,宮本侑弥,正出七瀬,神田颯,三井成宗,小島拓歩,川本吉太郎
開催報告担当:宮本侑弥
協力:JAMSTEC(出演:菊池一成様・山本啓之様・二村智之様),東京書籍(出演:石川寛輔様・鈴木陸人様)

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!

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