授業実践

【事故や事件からまちを守る】東広島市に新しく交番か駐在所をおくならば,どこ?

2022.11.16
目次

2022年11月16日,東広島市内小学校8校16学級(郷田,高屋西,御薗宇,高美が丘,福富,豊栄,木谷,風早)の3年生(399名)が参加し,「事故や事件からまちを守る」をテーマとするオンライン授業を実施しました。今回の授業では,警察署・交番・駐在所の機能や分布の違いを踏まえ,東広島市における交番・駐在所の配置案を児童らが議論し,提案しました。

導入部では,児童らの警察に関する素朴な認識(=警察官は警察署にいる)を揺さぶりました。授業はまず「財布を拾ったけど,どこへ届けたらいい?」という発問からスタートしました。ある児童は「広大前交番に持っていけばよいのではないか」と提案します。これを受けて,児童らは「あそこは警察署だったっけ?」「交番かな?」といった疑問を口々にしました。警察署と交番の違いがよく分からないことが確認できたところで,授業者は「約40%の児童は学校の近くに警察官がいることを知らない」という事前アンケートの結果を共有しました。これらのやりとりを受けて,1時限目のめあてとして「東広島市内で,警察官はどこにいる?(警察署だけか?)」が設定されました。

続く展開部は,2つのパートで展開していきました。
第1パートでは,警察機関の機能と分布について確認しました。初めに,授業者から東広島市における警察関係施設の分布図が示されます。「地図を見て『気づき』を探そう」との指示を受けて,児童らはこれをじっくりと読み解きました。読み取りの結果,「地図の真ん中(=市内中心部)あたりに交番がたくさん集まっている」「交番が市内の色々なところにあるのに,警察署は1つしかない」「交番や駐在所が全くない地域がある」といったことを発見していきました。これを受けて,次に警察署・交番・駐在所それぞれの仕事の違いについて学習します。タブレットを用いた○×クイズ(=東広島警察署に刑事はいるか,交番は24時間空いているか,駐在所に警官は住んでいるか,等)によって,各施設の役割についてある程度の見当を付けたのち,警察官へのインタビューを通じてこの見当を具体的に検証していきます。聞き取りを通じて,児童らは次のような認識を得ました。
・警察署は,地域全体を統括している。事件を捜査したり,交通の取り締まりをしたり している。
・交番は,個々の地域を担当している。警察官は交代制で働いており,(昼夜を問わず)住民からの相談や事故・事件に対応している。
・駐在所は,個々の地域を担当している。警察官は駐在所に家族と住み込んで(昼間をメインに)働くことで,地域の安全を見守っている。

第2パートでは,東広島市における交番・駐在所の数の変化について確認しました。先の学習を踏まえて,授業者はあらためて警察関係施設の分布図を示し,児童らに「変だな」「おかしいな」と感じるところを出すように促しました。児童らからは「交番が地図の真ん中(=市内中心部)にばかり集まっているのは変だな」,「警察署が1つなのに,交番がたくさんあるのは変だな」といった数や分布に関する疑問が示されました。中には,地図の空白地帯(=山間部)を指差しながら「今はないけれども,昔はここにも交番や駐在所があったのではないか」という仮説を唱える児童もいました。こうした児童の疑問を受けて,警察関係施設の増減を確かめることにしました。警察官へのインタビューから,1999年に1つの交番が増設されたものの,2002年には市街地のパトロールを充実させるために7つの駐在所が廃止されたことが説明されました(先の児童の仮説は正しかったことが分かりました)。

これらの学習を踏まえて,最終課題の「東広島市の交番や駐在所をていあんしよう」に取り組みました。児童らは,東広島市内における刑法犯認知件数(過去15年の変化,交番・駐在所別の件数の違い)のデータを読み取りながら,課題に答えていきました。
具体的には,交番や駐在所を増やすべきか,減らすべきか。あるいは既存の交番・駐在所を移設したほうが良いか。これらを論点に議論は大いに白熱しました。それぞれの学級の主張は大きく次の3つに類型化できます。第1に周辺部の増設パターン。自分たちの住んでいる町には交番・駐在所は1つしかないので,もう1つ増やしたいというものです。木谷小が提案しました。第2に都市部増設パターン。西条駅前や広島大学の周りは市内でも特に事件がたくさん起こっているので,ここに交番や駐在所を作るべきだというものです。豊栄小や高美が丘小,高屋西小が提案しました。第3に,都市部への移設パターン。自分たちの住んでいる町では年間を通じて数件しか事件が発生していない。つまり自分たちの住んでいる町は安全だから,広島大学や西条駅の周辺に引っ越したほうがよいというものです。郷田小や風早小が提案しました。もちろん正答はありません。この提案活動を通じて,治安を守る施設の空間的な偏りや,それを是正する視点,またその利害の対立にも気づいたものと解されます。

以上のとおり,本授業は,単に「警察官の仕事を知る」ことに留まりません。児童らは警察署・交番・駐在所の異同を調べることで,組織的・広域的な治安維持のシステムを探究できました。また,効率と公正(事件・事故の多発地域に重点配置するVS市内どの地域にも隈なく配置する)の社会的な見方・考え方をうまく働かせながら,意見を集約し,社会に提案することができました。
今回は実現できませんでしたが,本授業は,さらに学校間・学級間で意見を集約したり,県警に意見を提案したりする活動へ発展する可能性も秘められています。

なお,本実践は,東広島警察署の全面的な協力を得て実施することができました。データの提供や中継では格段の便宜を図っていただきましたことに深く感謝申し上げます。

この授業の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
東広島警察署からの中継:近沢菜々子,両角遼平,山下弘洋
学校技術支援担当:宮本勇一,大岡慎治,神田颯,佐藤莉沙,玉井慎也,永田誠弥,森俊輔,森本敬仁,八木謙樹
事務局機器担当①(広島大学):大坂遊,草原聡美,藤井冴佳
事務局機器担当②(郷田小学校):川本吉太郎,正出七瀬,吉田純太郎

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!