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【みなみうら奮闘記vol.3】授業を見に行ってみた─「教えてセンパイの授業!」のすごみ

2024.08.02

南浦 涼介(広島大学)

センパイのオンライン授業を見学にいってみた

実際に授業をするにあたって,当然だが,これまで行っている授業を見るというのはとても重要だ。

草原先生から「授業を見ずに授業をするのは教育実習生が観察実習をせずに授業するのと同じくらい不安だ」とのこと。適確な比喩だなあと思いつつ,実は広域交流型オンライン学習の時間と自分の大学の授業時間が完全に重なってしまっているところがあり,時間の捻出に苦労していたのだ。なんとか時間をやりくりできて,イザ,見学に。ということで,志和小学校で草原先生が授業をするものを見にいくことに。

空間をこえる「よさ」を活かしたオンライン授業

このときの授業は,「特色ある地域と人々のくらし─土地でできる作物を決めるのは自然の力,人の力?」というものだった。オンライン授業の「よさ」をフルに活かしたもので,北海道釧路市立別保小学校,鹿児島県徳之島町立花徳小学校も参加し,東広島市内の小学校の5年生7校14学級と合わせたとても大規模なものだった。 

北海道の釧路,本州中国地方の東広島,奄美群島の徳之島と南北に細長い日本の特徴をうまく使いながら,それぞれの街で「何が栽培されているか」「それはなぜ栽培されるのか/されないのか」を考えていく授業だった。具体的には米,じゃがいも,リンゴ,バナナがそれぞれの場所で取れるのか取れないのかを探りながら,「取れると思ったのに取れないのはなぜ!?」から「取れないと思うのに取れている! なぜ!?」を考えていきながら,そこに介在する「人のくふう」「人の意図」が見えてくるというニクい仕掛けだ。(それにしても徳之島のバナナが美味しそうだ) 

オンライン授業が「空間を活かす」という点で面白いことの1つには,たしかに社会科のこうした「地域性」の交差を簡単にできるようにできることがある。どうしても「教室」や「地域」の外以上には出られないことが多いという社会科の制約を軽々と超えていくこのしくみはとっても魅力的だ。 

合計400名を越える小学生たちが,画面越しに交流しながら,当初「それぞれの作物が取れるのは地形や暑さ寒さだ」説(自然要因)だったのが,「徳之島は米作りをしていたけれど国策で辞めてバナナになった」や,「東広島は気候的にバナナが取れやすいわけじゃないけれど,ハウスであえて育てることで,もうけをつくれる」など,人の意図や人為的くふうを捉えていく中で,「作物が取れるのは地形や気候だけじゃなくて,人の意図やくふうがある」説(人間要因)を取り入れて行くのは見事だった。

授業を円滑に運営するための蓄積と「チーム力」

もちろん,それをするには授業教材の魅力のみならず,それを動かすためのチーム力が不可欠になる。それぞれの学校やインタビュー場所でカメラをはじめとした機器を扱うスタッフ,学校との連携をするためにつなぎを行っている教育委員会事務局の方々の事前の打ち合わせが欠かせないものになっている。 

それぞれの教室の担任の先生の動きと連携しながら授業時の画面の向こうと目の前の教室を実際に動かす草原先生の呼吸。このあたりは,おそらくこれまでに(僕からは見えないのだけれども)失敗を含み込みながら長い時間をかけて培われてきたノウハウであり,またそれを最初のスタート時点から一緒に奔走してきた教育委員会事務局のみなさんや学生スタッフの人たちの文化財産で,そういう結束性によって成り立っていることを非常に感じ取れた。 

オンライン授業を構想・実践していくことの魅力と不安

さて,「多文化共生」の授業。社会科と違ってここまで空間を大規模に交差することがいつも向いているわけではない中で,いろいろな空間をつなげていくことで何が生まれるか。それを考えつつ,自分にこのスタッフを動かしながら進めて行くことができるかどうか。 

それを考えながら,これまで一人,あるいは複数名,せいぜいゲストスピーカーと共同でというくらいで「授業をする」だったところに,チームで動きながら進めて行くことという視点が入ってきたことで,面白いなと思うと同時に,捌ききれるかなかなか不安も感じた。同時に,「一緒にゼロからつくってきた世界」ではなく「ある程度できあがった世界」(つまりゼロからではない)中に「参入する」ということの難しさを実はじっとりと背中に感じていた。  そして,授業づくりも本格化する。

この記事を書いた人
Ryosuke Minamiura
南浦 涼介

2023年の春に広島大学にやってきました。「先生」の仕事は23年目,大学の先生の仕事は14年目,広島大学の先生の仕事は2年目の古米のような新米です。授業や多文化共生の教育の仕事が大好きですが,ラーメンも好きです(最近控え中)。