授業実践

【お店で働く人々】お買い物でこまっている人たちに役立つお店を提案しよう

2023.06.14
目次
この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
ショージ寺家駅前店からの中継:大岡慎治,村上遥大
コンビニエンスストアからの中継:川本吉太郎,黒岩佳太
移動販売車とくし丸からの中継:片岡望咲, 野津志優実,両角遼平
学校技術支援担当(東広島市内小学校):海老名和華,小野郁紀,近藤郁実,重野聖怜,澤村直樹,山本亮介
事務局機器担当①(広島大学):小野創太,草原聡美,髙須明根
事務局機器担当②(福富小学校):内田智憲,田中崚斗,吉田純太郎

2023年6月14日,東広島市内小学校5校8学級(吉川小学生,三ツ城小学校,福富小学校,入野小学校,風早小学校)の3年生(197名)が参加し,「お店で働く人々」をテーマとする遠隔授業を実施しました。スーパーマーケット・コンビニ・移動販売車という販売の目的・対象・方法を異にする小売店の特質を考える活動を通して,東広島市内の「お買い物で困っている人」に役立つお店の提案を目指しました。

授業は3段階で展開しました。
導入部は,問題意識を共有し,学習課題を設定するパートです。
初めにお買い物に困っている方へのインタビュー動画が示されました。動画では,福富町に住む周藤さんが,買い物をする上で困った経験を語ります。①福富町にはスーパーマーケットがないため買い物は隣町まで行かないといけない,②急ぎの支払・納税があるときは車を走らせて隣町のコンビニまで行く,③車が1台しかなく,子どもが小さかった頃は,大量のオムツやミルクをバスで買い出しに行くのが大変だった,このような苦労話に耳を傾けることで,児童は,東広島市内には,小売店がないためにお買い物で困っている人や地域(買い物弱者・フードデザート)が存在することを認識しました。
そしてこの問題が,福富町に限らず東広島市の山間地や沿岸部でも広く生じていることに気づかせるために,児童には①東広島市のスーパーマーケットの分布図,②東広島市の地域別・年齢別の人口を示した棒グラフ,の2つの資料を提示しました。児童は,①の分布図でスーパーマーケットの多い地域と少ない地域を〇で区分したり,②のグラフで特に人口や高齢者人口の割合が多い地域を読み解いたりしていきました。2つの資料を往還することで,人口が少ないところほどスーパーマーケットも少ないこと,スーパーマーケットの少ない地域ほど高齢者の割合も高いことを発見しました。そこで「お買い物に困っている地域の学校は手を挙げて」と問うたところ,福富小学校や吉川小学校の児童が多く挙手し,対照的に三ツ城小学校や入野小学校の児童は買い物に困らないとアピールしました。同じ東広島市でもお買い物のしやすさには格差があることを児童らは経験的に理解しました。以上の活動から,2時間を貫く学習課題として「お買い物でこまっている町に役立つお店をてい案しよう!」が導かれました。

展開部は,スーパー・コンビニ・移動販売車の小売店としての特質を認識するパートです。
進行役の草原教授は,東広島市内に展開する3つの小売店をしっかり調べた上で,先の学習課題に応えていこうと呼びかけます。児童は,お店の紹介動画(各6分程度)を視聴して,お店を実際見学しているような気持ちになっていきます。児童には,お店を観察する視点として,①商品の数や種類,②お客の数,③よく利用するお客(顧客・商圏),④開店時間,⑤売り方(販売戦略)の工夫,の5点を提示し,これらの視点から3つの小売店を比較することを求めました。観察の結果,以下の特質がみえてきました。
・スーパーマーケット(ショージ寺家駅前店)
①商品の数や種類:国内外から野菜だけでも300種類が揃う
②お客の数:平日で1日あたり約1,000人が来店する
③よく利用するお客:店の周辺半径2km圏内に住む人がよく来店する
④開店時間:9時から22時まで開いている
⑤売り方の工夫:関連陳列をしている(例:野菜コーナーでドレッシングを売る)
・コンビニエンスストア
①商品の数や種類:お弁当や飲み物など3,000種類の商品を置いている
②お客の数:1日あたり約800人が来店する
③よく利用するお客:近場もいるが,車で立ち寄る運転手さんも多い
④開店時間:24時間年中無休で開いている
⑤売り方の工夫:サービスも充実している(ATM,税金や公共料金の支払いなど)
・移動販売車(西條商事とくし丸)
①商品の数や種類:お惣菜や生鮮食品など300種類の商品を載せる
②お客の数:1日あたり約40人が利用する
③よく利用するお客:毎日決まった人が使う,お年寄りの利用者が多い
④開店時間:1か所あたり5~10分しか停留しない
⑤売り方の工夫:利用者の希望に応じて品ぞろえ。スーパーより割高。高齢者への声かけ
各動画を視聴した後には,店員さんへの質問タイムを設けました。児童からは,動画だけでは分からない沢山の疑問が寄せられました。例えば「スーパーマーケットが毎日オススメ商品を決めるのはなぜ?」「コンビニではどのようにして商品がなくならないようにしるの?」「移動販売車でお菓子は売っていますか?」などの質問です。これに対し,担当者は「周りの他のスーパーと比べたとき自分たちの店を(値段で)選んでもらえるように,また献立のヒントを提供するために特売品を決めている」「コンビニでは1日あたり3~6便の補充トラックが昼から夜までやってきている」「みんなの好きなチョコレート・ポッキーも売っていますよ」などの回答が得られました。質疑応答を通じて,児童はさらに小売り店への認識を深めていきました。

終結部は,お買い物で困っている人に役立つお店を提案するパートです。
まず各学級単位で買い物に役立つお店を1つ決めて,そのお店の魅力を紹介するキャッチフレーズづくりに取り組みました。スーパーマーケット・コンビニ・移動販売車のなかから1つを選び,そのお店の特質をよく表した言葉を考えます。各学級が選んだお店とそのキャッチフレーズはGoogleジャムボード上で共有されました。最終的には参加8学級のうち,1学級がスーパーを,2学級がコンビニを,残る5学級が移動販売車を推薦しました。キャッチフレーズでは,「商品の数がNo.1!(スーパーマーケット)」「すぐに買える,種類が多い,サービスがある(コンビニ)」「家まで来てくれてべんりだね!!(移動販売車)」など,いずれも各小売店の魅力が十分に表れたものが揃いました。ホスト校の福富小は,最終的には多数決で「コンビニ」を選びましたが,児童の意見は拮抗し,決定には時間を要しました。そこで草原教授は,同校で(コンビニ以外の)「スーパーマーケット」や「移動販売車」を推した児童に声をかけて,それを選んだ理由を聞いて他校に紹介しながら,各小売店の強みや弱みと見極めることの難しさを伝えました。
学級単位でお困りに役立つお店を決めた後は,個人別にオススメの小売店を選びます。Googleフォーム経由で児童は「これぞ」と思うお店に投票していきます。投票の結果,約1/4の児童がスーパーマーケットとコンビニを,約半数の児童が移動販売車を「お買い物に困っている人に役立つお店」として選んだ結果が共有されました。授業の最後に,あらためて周藤さんが登場し,児童らの提案に直接コメントしました。具体的には「今まで知らなかった移動販売車の良さを知ることができた。しかし,支払いはコンビニでしかできないし,特売品はスーパーにしか売っていないし……」と,消費者の複雑な心境を吐露していました。

本時の山場は,学級や個人単位で,どの小売店が買い物弱者にオススメかを考える場面です。3類型のどの小売店にも一長一短があるため,児童らは葛藤します。学級内でも意見が割れるし,学級間でも意見が割れました。このように意見の多様性や対話の大切さを,そして社会の中で課題解決をしていくことの難しさや喜びを実感できるのが,広域交流型オンライン地域学習の醍醐味です。
「お店で働く人々」の授業は,本企画が始まってから3回目の実施となります。毎年,実践の成果を踏まえて改善に努めています。成果を活かして,来年度の向けたアップデートにこうご期待ください。

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!