授業実践

【外国人市民】特色ある地域と人々のくらし-東広島市を外国人市民にとってくらしやすいまちにするには?-

2024.02.21
この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
東広島市役所からの中継:清政亮,野津志優実
アメリオワークスからの中継:和田尚士
学校技術支援担当(東広島市内小学校):天野珠希,大岡慎治,小笠原愛美,小野創太,小野郁紀,黒岩佳太,澤村直樹,重野聖怜,田中崚斗,鶴木志央梨,藤原武琉,見田幸太郎
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美, 髙須明根,中島理志
事務局機器担当②(板城小学校):松原信喜,両角遼平,吉田純太郎 ,大部悠莉,川本吉太郎

2024年2月21日,東広島市内小学校7校13学級(寺西小学校,郷田小学校,板城小学校,原小学校,豊栄小学校,河内小学校,風早小学校)の4年生(314名)と鹿児島県徳之島町立花徳小学校1学級の3・4年生(17名)が参加し,「外国人市民」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「特色ある地域と人々のくらし-東広島市を外国人市民にとってくらしやすいまちにするには?-」と題して,児童らが外国人市民の声を手がかりに,まちづくりの施策を構想し,それを市長に向けて提案しました。

導入:「多文化共生のまち」東広島市を理解する

本時は,東広島市が「多文化共生のまち」であることを確認するところからスタートしました。市政50周年記念ホームページや統計資料を参照しながら,外国人市民に関する基礎的情報(①~④)を整理しています。
まずは①言葉の定義です。「多文化共生」とは何か。この語の意味をめぐって各学級で話し合いをしました。その結果,寺西小学校の児童から「(多文化共生とは)いろいろな国から来たいろいろな文化を持つ人たちがいっしょに暮らすこと」との解釈が提示され,本時における「多文化共生」の語用についての共通理解が形成されました。次に②人口です。東広島市に住む外国人市民は約8,800人で,人口比でみると広島県内の市町で一番多いことを確かめました。そして③出身国です。統計グラフを読み取りながら,東広島市には,中国(3,202人),ベトナム(1,739人),フィリピン(551人),インドネシア(454人),韓国(408人)等から来た外国人市民が多く暮らしていることを確認しました。また各国の位置を黒板上の白地図に書き込むことで,外国人市民は日本の近くの外国(アジア)から多く来ている傾向性に気づきました。最後に④居住目的です。永住を除けば,留学(≒勉強)や技能実習(≒仕事)のために来ている人が多いことを知りました。さらに,参加学級のなかからカンボジア・中国出身の児童に挨拶をしてもらうことで,家族滞在として来日している外国人も一定数いることを実感しました。
以上①から④までの情報から,児童らは「ほかの国から日本に来て,すぐに日本語を勉強できるのかな」「東広島市は,広島市みたいに外国人が住みやすい町なのかどうかわからない」といった疑問をもちました。そこで今回の授業では,学習のめあてを「東広島市は外国人市民にとってくらしやすいか?言葉の心配はないのかな?」に設定しました。

展開1:外国人市民の声を聴こう!

この課題に応えるために,授業の前半部では外国人市民の声を聞く活動を行いました。名前,出身国,居住目的,暮らしの上での悩みの4点に注目して,児童らは,留学生・技能実習生の声に耳を傾けました。
留学生として登場したのは,インドネシアから来たレズキさんです。板城小学校から生出演して,児童らに直接(または画面越しで)自らの暮らしぶりをプレゼンしました。東広島市は緑が豊かで暮らしやすい一方,街灯が少なく夜間は不便さを感じること。市内には,お祈りをする場所が少ないことや,ハラルを取り扱うスーパーが増えたら便利に思うということを語りました。さらに,この話を踏まえて,児童からはレズキさんへの質問が飛び交いました。
技能実習生として登場したのは,ベトナムから来たヤウさんら3名です。昨年度の授業と同様に,インタビュー動画を視聴することで生活実態を把握しています。病院で病気の症状を伝えたり,漢字で書かれた薬の注意書きを読んだりすることが難しいこと。モノの値段が上がるのに給料があがらないことを説明してもらいました。また,1つの部屋に2人で寝泊まりをしているように生活空間が狭いことをT3が補足しました。
以上の聞き取りを通じて,児童らは,外国人市民が①言葉のみならず,②生活(衣食住),③文化,④お金の問題で困っていることを理解しました。また,T1は,これら①から④が関連づいた課題(住×お金=家が狭い,食×文化=ハラルフードを売っているお店が少ない)があることも指摘しました。

展開2:外国人市民にとって暮らしやすい方略を考える!

授業の後半部では,技能実習生や留学生の声を踏まえて,東広島市を外国人市民にとって暮らしやすい町にするための方略を検討しました。後半部の冒頭には,特別ゲストとして高垣広徳・東広島市長が登場し,児童らを激励していただきました。昨年度の授業で小学生が提案したことが市政に反映されていること,今年度の提案も楽しみにしていることを述べると,児童らは提案に向けてやる気を一層高めました。そして各学級では次々にアイデアが提案されました。各学級からの提案は,Googleスプレッドシート上にて集約・整理されました。
なお,学習に際しては,外国人市民に対する政策に詳しい様々な専門家からアドバイスをいただきました。例えば,東広島市市民生活課の鈴光知恵さんは,英語・中国語を運用できる職員の配置,タブレット端末を用いた翻訳,19の国・地域の言語に対応した電話通訳支援,市のホームページでの5言語+やさしい日本語への対応といった市の取組を紹介しました。外国人人材を企業に紹介している亀井芽里さんは,ご自身の取組を児童に紹介しました。具体的には,外国人が住む寮で日本語教室を開催していること,SNSで外国人市民に向けて生活情報を発信していることをお話しされました。韓国から来日して東広島市で暮らす金鍾成准教授は,世界各国の取組を紹介しました。例えば,外国人市民に対する誤解・偏見をなくするためのアメリカの取組や,外国人市民が地域社会の安全のためにパトロールする韓国の企画を紹介しました。

◎児童が提案したアイディア

児童らはこうした助言をもとにして,次のようなアイデアを提案しました。
・お祈りの場所が少ない→コンビニやスーパー,町の中心にスペースを作ってもらう
・ハラルのお店が少ない→市がハラル専門店をつくる,移動スーパーで食べ物を届ける,ハラルを日本人に知らせるチラシやHPをつくる
・家の周りが暗い→街灯をつくる,歩道に反射材をつける,送迎バスや寮をつくる
・病気を伝えにくい・薬の注意書きを読むのが難しい→薬箱にQRコードを付けて飲み方が分かるようにする,病院にも翻訳機をおく,翻訳スタッフを病院につける

まとめ:専門家からのフィードバック

提案を受けて,専門家は児童らのアイデアをそれぞれの立場から評価しました。市役所の鈴光さんは,政教分離のために市が特定の宗教だけを特別に扱うことは難しいこと(スーパーなど民間であれば児童らのアイデアは実現できるかもしれない),病院でのコミュニケーションをとるためのアプリを開発中であることを述べました。外国人と接する機会の多い亀井さんからは,アプリを用いた翻訳だけでは限界があり,病院や薬局のスタッフがやさしい日本語を用いることの重要性を提起しました。金准教授からは,児童のアイデアを一定程度認めた一方で,提案の背景に「外国人に対して何かやって『あげよう』」,「外国人は『可哀そう』な人々だ」といった意識が隠れていないかと問題提起しました。そのうえで,国籍や文化の別を越えて,いっしょにまちづくりを行うことが必要だと述べました。

留学生や技能実習生への聞き取り,学級内での議論といった2時間の学習を通して,外国人市民への児童の理解は深まりました。とりわけ教室内の緊張感が高まったのは,金准教授の最後のコメントでした。「アイデアはどれも素晴らしいと思いましたし,ぜひ実現してほしいです。ただ……」。この瞬間,自分たちの考えが評価されて安堵していた児童の顔は,にわかに真剣な表情へと変わりました。外国人市民のナマの声が,自己省察とまちづくりへの関心を一気に高めた瞬間でした。ここに,多様な背景や専門性を持つ市民が授業に参画する広域交流型オンライン学習の魅力があります。引き続き本企画では,教室や年齢,仕事の垣根を越えた学びを提供してまいります。

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!