授業実践

【現代社会の見方・考え方】より良い話合いはデジタルか,それとも対面か!?

2025.07.10

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概要

 2025年7月10日,東広島市内中学校4校5学級(志和中学校,福富中学校,豊栄中学校,河内中学校)の3年生97名に加え,北海道洞爺湖町立洞爺中学校の3年生1学級10名,鹿児島県徳之島町立尾母中学校の3年生1学級2名,スペシャルサポートルーム,フレンドスペース,スクールS,島われんきゃハウスの子どもたちが参加し,遠隔授業を実施しました。今回の授業の主題は,「現代社会の見方・考え方-より良い話合いはデジタルか,それとも対面か!?-」。対面およびデジタルでの話合いそれぞれの良さ・課題について「効率」「公正」の観点から検討し,より望ましい合意形成のプロセスを構想しました。授業の進行は,広島大学の川口広美准教授と草原和博教授が務めました。

導入:より良い話合いとは?

 授業は,地域の避難所にペットを連れて行くことの賛否を問うアンケートから始めました。結果は,賛成88.8% vs 反対11.2%。賛成派が圧倒的に多いものの反対派も一定数あり,意見は対立していました。
ここで川口准教授は,意見の対立をどのように解決すべきかを問いかけました。子どもたちからは,「多数決」「じゃんけん」「話合い」などの意見が出ました。
 続けて,川口准教授は「話合い」の重要性を確認しながら,「どうすればより多くの意見を集められるだろう?」,と問いかけました。子どもたちは「紙のアンケート」「インタビュー」「インターネットのフォーム」など,多様な方法を提案してくれました。その後,実際にデジタルで話合いをしている事例の紹介動画を視聴。紹介されたのは,「Decidim」という住民合意形成プラットフォームでした。Decidimは,“いいね!”やチャットを使った意見の収集や議論をオンライン上で実施できるシステムです。
 対面でもデジタルでも話合いができると分かったところで,アンケートを実施しました。「皆さんの市では,デジタルと対面のどちらで話合いをした方がいいと思うか」です。授業を見に来た大人にも聞いてみたところ,結果は次のようになりました。

アンケート結果

子ども:デジタルが良い53.7%,対面が良い27.4%,まよっている18.9%
大 人:デジタルが良い66.7%,対面が良い0%,まよっている33.3%

子どもも大人も,過半数が「デジタルが良い」としていることが分かったところで,本時の学習課題「より良い話合いはデジタルか,それとも対面か!?」が示されました。

展開1:対面での話合いの良さと課題とは!?

 授業の前半では,芦屋市で実施されている「対話集会」を手がかりに,対面での話合いの良さと課題を検討していきました。まず,市民と市長・教育長が参加した対話集会の様子を動画で視聴しました。動画を見みると,保護者などの市民が市長・教育長と直接会って話合いをしていることが分かります。ここで,教室に授業参観に来られていた市役所の関係者に東広島市にも同様の企画があるか尋ねたところ,答えはイエス。「市長とおしゃべりカフェ」という話合いの機会が設けられていることを教えていただきました。
 ここで川口准教授は,先のアンケート結果ではデジタルの方が良いと思われていたにもかかわらず,なぜ芦屋市では対面での話合いをしているのか,またその課題は何かと問いかけました。子どもからは,「チャットだときつい表現に誤解されてしまうことがある」「表情が見えたほうが話しやすい」といった良さ,「対面だと集まるのが大変」「対面で話すときは緊張してしまう」といった課題を指摘しました。AIで各教室の意見をまとめたリストの中には,「特定の人だけが意見を述べてしまう」といった弊害も指摘されていました。
 ここで,実際に芦屋市役所の内野さんに,実際の「対話集会」の良さや課題について聞いてみました。「対話集会は芦屋市をより良くするために実施しているもの」「一方向的な市長からの説明や市民からの要望ではなく,双方向的に市長と市民が対話する場」「特定の時間に特定の会場に行かないといけないという制約がある」「オンライン会議システムを併用している」と教えていただきました
ここで,これまでの議論を踏まえて,草原教授が合意形成に必要な視点をまとめました。

「効率」と「公正」

効率:無駄がない,一気に…できる,時間やお金がかからない
公正:みんな参加できる,誰も不利益を被らない

授業の前半に即して考えると,「答えがすぐ出る」ことは効率の観点,「特定の人の意見に偏る」「話すのが苦手な人でも仕草で伝えられる」ことは(不)公正の観点を強調していると指摘しました。前半のまとめとして川口准教授は,デジタルでの話合いの是非も,「効率」「公正」の観点を意識しながら考えていってほしいと述べました。

展開2:デジタルでの話合いの良さと課題とは!?

 授業後半では,加古川市で実施されている「Decidim」を手がかりに,デジタルでの話合いの良さと課題を検討しました。「Decidim」の機能について確認した後,東広島市でも加古川市のような取り組みがあるのか,再度市役所の関係者に尋ねました。「一方向的だが,ホームページで担当課に問い合わせをするフォームはある」と教えていただきました。
 ここで,川口准教授は,「対面での話合いにはたくさんの良さがあるのに,なぜ加古川市はデジタルでの話合いをしているのか,またその課題は何か」と問いかけました。子どもからは,「行政や上の人だけではなく,より広い一般の方の意見を集められる」「会場の準備などの手間がかからない」「遠くに住んでいる人でも意見を言いやすい」といった良さ,そして「直接話すよりも意図が伝わりづらい」「機械を扱うのが苦手な人は参加できない」「匿名だと無責任な発言が増えるかもしれない」といった課題が指摘されました。
 ここで,加古川市役所はデジタルでの話合いの良さと課題をどのように捉えているかを確かめるために,「加古川市版Decidim」に関する市役所のプレゼン動画を視聴しました。動画では,「意見にコメントや“いいね!”がもらえることで聞いてもらえている感覚がある」「書き込みが市の政策に反映されることで,市政への参画や地域への興味が高まる」「市役所と市民がまちの課題を共有し,協働しながらまちづくりができる」といった良さを挙げていました。他方,課題としては「行政は間違うことがないという思い込みがある」「お金を出せないので,やる気を出してもらうのが難しい」などを挙げていました。
 ここで,草原教授がこれまでの議論をまとめました。草原教授は,例えば「入院している人」「車いすの人」「車に乗ることができない高齢者」「日本語でのコミュニケーションが苦手な外国人」にとってはデジタルでの話合いの方が参加しやすいと,多様な立場の人を巻き込むことができる公正さを指摘。また,川口准教授は,り多くの意見を一度に集めることができるというところに効率性があるということを指摘しました。

展開3~終結:「話合いタイムライン」をつくろう!

 最後に,望ましい話合いのプロセスを構想する「話合いタイムライン」を制作しました。子どもには,以下の場面とポイントを参考に,Googleスライド上で作成することを指示しました。

「話合いタイムライン」作成の場面とポイント

場面:「みなさんのまちの避難所でペットを入れるべきかどうか」について,半年後までに,合意形成をする必要があります。
ポイント①:「自分のまちにとって」を意識する
ポイント②:「対面」or「デジタル」を考える
ポイント③:「誰が」「どこで」を示す

作品を完成させた後,東広島市(志和中)・北海道洞爺湖町(洞爺中)・鹿児島県徳之島町(尾母中)の子どもが,自分たちのまちで話し合いをどのように展開するかというタイムラインとその理由を発表しました。

生徒が発表した「話合いタイムライン」

尾母中:
(プロセス)「町民全員に体育館で対面にバスで集まってもらう→デジタルで意見を集める→住民投票→決定」
(理由)なるべく全員が一度に集まることを大切にしたから
洞爺中:
(プロセス)「デジタルで全員から意見を集める→対面で子どもや自治会長・議員と会議→デジタルで意見を集める→観光客にもアンケート実施→決定」
(理由)多様な人からの意見収集に配慮したから
志和中:
(プロセス)「1から5か月目にデジタルと対面を併用して意見を集める→6か月目に集めた意見をAIにまとめさせる」
(理由)デジタル・テクノロジーを活用した意思決定を強調しました。

このように,どのグループも,対面とデジタルの話合いを組み合わせ,また「効率」と「公正」のバランスを踏まえた合意形成までのプロセスを構想していたのが印象的です。
 授業のまとめとして,草原教授は「効率と公正という基準の組み合わせ方は1つではない」「まちの状況次第で変わる」ことを強調。各市町のデータを提示しながら,「人口が少ないまちならば,対面の方が効率かも」「人口密度の大きいまちだと,集まったほうが効率的かも」「予算の少ないまちは,デジタルプラットフォームを準備することは難しいのでは」と述べました。また人口ピラミッドを提示しながら,洞爺湖町・徳之島町は高齢者が多いので,デジタルでの話合いは,むしろ公正ではないかも」と指摘。このように,「まちの特性によって効率や公正のあり方は異なるということが共有されました。
 最後に,授業を,川口准教授は,こう締めくくりました。「効率だけではなく,公正さも併せて,2つの観点からよりよい社会をどうやってつくっていくかを学んでほしい」と。

デジタル化が進む社会での,よりよい対話を求めて

 今回の授業は,デジタル化の進行という社会の変化を踏まえて,市民対話のあり方を構想しました。自分たちのまちにふさわしい合意形成の方法とプロセスを構想することで,まちの特性や課題を見直す契機となりました。さらに,NICEプロジェクトが構築したいデジタル公共圏の在り方自体を考える授業ともなりました。
 引き続きNICEプロジェクトでは,どこでも,誰でも,共に学ぶことのできる新しい授業のあり方を提案してまいります。

この授業の関係者

授業実施者Ch1:川口広美,草原和博
授業実施者Ch2:瀧本耕平,中西美里
授業補助者:各中学校での授業担当教員
学校技術支援担当(東広島市内中学校):井戸浩太,圓奈勝己,上中蒼也
学校技術支援担当(洞爺湖町内中学校):玉井慎也
学校技術支援担当(徳之島町内中学校):川本吉太郎
事務局機器担当(東広島市立志和中学校):神田颯,宇ノ木啓太,草原聡美

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!