授業の概要
2025年10月14日(火),全国3校(広島県立広島国泰寺高校,長崎県立佐世保南高校,熊本県立済々黌高校)をオンラインで接続した遠隔合同授業が実施されました。本授業は,「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」事業の一環として行われ,3校47名の高校生が参加しました。授業のテーマは「深海をなぜ調査?どんな意義・価値があるの?-海に眠る資源:レアアースをめぐる論点・争点-」。先端研究開発に関するELSI(倫理的・法的・社会的課題)をめぐって他者と対話する力を育成することをねらいとしました。本授業は,内閣府戦略的イノベーション(SIP)第3期課題「海洋安全保障プラットフォームの構築」(海洋SIPチーム)との連携により,9月16日の第1時の続編として実施。海洋資源の調査・開発について学んだ生徒が,研究機関JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)に対して海洋開発の在り方について意見を述べる過程として構想されました。授業全体の進行は,広島大学の草原和博教授が授業の全体進行を務め,各校の進行は担当教員が務めました。


導入:ELSI,科学者の倫理と責任
授業の冒頭で,探究を支える中心概念「ELSI(倫理的・法的・社会的課題)」を提示しました。草原教授は,前時を振り返りながら,学習課題「危険な深海に潜って調査することにどんな意義・価値があるのか?あなたは深海調査を行うことに納得?」をなぜ考える必要があるか,についてあらためて問題提起しました。宇宙衛星の打ち上げやビッグデータの活用の事例にELSI概念を解説し,科学者の倫理と責任に私たち市民も向き合い,共に考察していく必要性を指摘しました。
展開:意見書を使った専門家との対話
生徒たちは,前回の授業から今回の授業までの間に,3つ(細かくは5つの)のグループ(深海の調査・開発について,①推進派,②やや推進派,③やや抑制派)に分かれて,他校と合同意見交換会を実施。各グループは,そこで共有された主張とその根拠をまとめた意見書を作成して,本時に臨みました(意見書作成会議の様子はコチラ)。各グループは,順次JAMSTECにむけて意見書を発表するとともに,専門家からフィードバックをいただきました。生徒たちが練り上げた意見書に対して,JAMSTEC側は事実誤認を指摘したり,科学的知見に基づいてアドバイスを行ったりするなど,生徒の意見に真摯に応答しました。また生徒は,立場を異にする他グループの発表に対して,フォーム経由で意見や質問を投稿しました。例えば,ある生徒は「やや推進派」の発表に対して,「長期的な目で見て発生した利益はどのように使われるべきか」と利益分配の論点を提起しました。一方,JAMSTECの専門家は「やや抑制派」の生徒の発表に対して「深海の放射性物質は極めて少ない。海中のレアアースと陸のレアアースでは性質が違う」と反論しました。
このように多様な意見をもつ市民(高校生),専門知を持つ科学者・技術者が,同じデジタル空間上に集い,対話することができました。




【生徒からの質問・意見例】
・将来的に利益があるとしても,多額の初期費用はどのように準備すればよいか。
・長期的な目で見て,発生した利益はどのように使われるべきか。
【JAMSTECからのフィードバック】
・「潜水艦」とJAMSTECのもつ「有人潜水艇」の話が混ざっている。費用データは不正確。
・しんかい6500を頻繁に製造は誤り。30年前に製造されたものを更新しながら使っている。




【生徒からの質問・意見】
・底から泥を掬い上げる技術を利用して,プラスチックごみも回収してはどうか。
・専門技術を学ぶ学校を増やせばよいのではないか。
・公海に関するルールなど制度面に目を向けたことが良い。
【JAMSTECからのフィードバック】
・海底のレアアースには,有害金属の溶質はほとんど含まれない。
・クジラなどの海洋生物は音響を使ってコミュニケーションを取っており,海洋の騒音問題はかなり前から問題視されている。この点には,もう少し注目した方がいい。
・公海開発の「2年ルール」について,ルールを定める親規定がまだ決まっていないので,調査を始めることができない状態にある。


終結:専門家への提案
3つのグループが意見書の発表を終えたところで,各校の生徒に感想を述べてもらいました。生徒は,「私は推進派だったのですが,「やや推進派」や「やや抑制派」の意見を聞いて,深海調査に対する問題を発見でき,自分の意見をより多角的に見ることができました」(国泰寺),「最初は「やや推進派」だったんですけど,「推進派」の意見を聞いて具体的な数値や実例が上がっていて,「推進派」もいいなって思うようになりました」(佐世保南),「最初,他国と差をつけられる,自国で安定して資源を調達できるっていうのはすごく良いことだと思ってたんですけど,他国と差をつけることで,かえって衝突の原因になったり,他国のヘイトを買って,不利な立場になることも将来的にはあり得ると思いました。自分がメリットだと思っていたとことのデメリットを発見できたのは大きかったです」(済々黌)と述べました。このように異なる立場の生徒や専門家の見解に触れる過程で,自己の意見の相対化が進んでいく様子が見て取れました。
授業の終盤には,生徒たちは海洋調査における提案書を作成し,JAMSTECに提出しました。生徒たちからは,「誰にも分かりやすい動画やサイトを制作して正しい情報(有人潜水艇と無人探査艇の違いなど)を発信してほしい」(推進派),「(公正な)国際的なルールを制定し,自国の利益のみならず,世界中に貢献できるようにしてほしい」(やや推進派),「深海の生物の生息地や種の減少がないように留意した上で開発をしてほしい」(やや抑制派),「争いを生まないための国際ルールの話し合いをもっと進めてほしい」(やや抑制派)といった提案がなされました。
高校生からの提案に対してJAMSTECの専門家は,「正しい情報を出してほしい,対話の場を設けてほしいという提案を参考にしながら,情報を発信していきたい」と応答しました。最後に草原教授は,「今回の学習でもっと探究したいと思ったことを今後に生かしてほしい」「今日のキーワードはELSI。科学技術の発展を市民としてしっかり見守ることに努めてほしい」と述べ,本時を締めくくりました。




市民と専門家の関係性を再構築する
本実践は,ELSI(倫理的・法的・社会的課題)をキーワードに深海調査という先端技術開発の意義や課題を探究しました。高校生がJAMSTECに意見する場と機会をデジタル空間上に創出することで,市民と専門家の対話的関係を構築することができました。ELSIは,専門家だけの問題ではありません。市民が積極的に監視・関与することで,科学技術のよりよい社会実装を実現できます。デジタル・シティズンシップ・シティ(DCC)では,引き続き市民と専門家をつなぎ,公共的な課題について対話する場をデザインしてまいります。




授業実施者:草原和博
授業補助者:各高等学校での授業担当教員
JAMSTECからの中継:川本吉太郎
学校技術支援担当:三井成宗,神田颯
事務局機器担当①:宇ノ木啓太,上中蒼也
事務局機器担当②:草原聡美
議論サポーター:田中崚斗,𠮷田純太郎
協力:JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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