指導案・教材
概要
広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)及び広島国際空港株式会社(HIAP)は,2024年3月16日(土)に「学びの拠点プロジェクト」セミナー(広島空港はどんな「空」の「港」なの?-オンラインで学ぼう!広島空港の仕事-)を共同で開催しました。広島県内外の小学生と保護者ら24名が,広島空港やそこで働く人について理解を深めました。
HIAPでは,「ネットワークの基盤」,「地域における拠点」,「サービスの拠点」,「安全・安心の拠点」としての機能を有す広島空港を,学校教育の「学びの拠点」として位置付け,学校や地域の教育力向上及び広島空港の機能活性化を通して,地域創生を図っています。このような活動の一環として,今年度初めて実施されたのが本セミナーです。EVRIが広域交流型オンライン学習企画等を通じて培ってきたノウハウ(教材開発・授業づくり・オンライン配信)をフルに活かしたハイフレックスセミナーを展開しました。セミナーの進行はEVRIの草原和博教授が務めました。
広島空港とほかの交通拠点を比べよう
セミナーは大きく3部構成です。第1部は,広島空港の機能を他の交通拠点と比べながら理解するパートです。広島空港(空の港)と広島駅(陸の港)や利尻空港(小さな空の港)を比較することで,広島空港の特色を浮かび上がらせます。広島駅の様子は事前に作成した紹介動画で,広島空港の様子は現地からの生中継で,そして利尻空港の様子は生中継と動画を併用して,それぞれ紹介しました。
参加者には,3つの港を観察する視点として,①1年間で●●を使う人の数,②●●に来る乗り物の種類,③●●を出発する乗り物の行き先,④●●から東京に行くまでの時間,⑤乗り物に乗るまでの時間,⑥●●の中や周りの施設,の6つの視点を提示し,それぞれの視点から3つの交通拠点を比較することを求めました。各交通拠点を調べた後には,「広島駅と広島空港は似ているか?似ていないか?」,「広島空港と利尻空港は似ているか?似ていないか?」を問い,交通インフラとしての共通点と相違点を探究していきました。比較を通して,以下の特色と実態が見えてきました。
①年間におよそ2800万人の利用者がいること。
②電車や新幹線だけでなく,バスやタクシーも駅にやってきていること。駅の近くにはレンタカー屋もあること。広島駅を降りれば,広島電鉄が走っていること。
③電車に乗れば近くの町(東広島・福山等)へ,新幹線に乗れば県外(東京・大阪・福岡等)に行けること。
④東京に行くのに,新幹線だとおよそ4時間かかること。
⑤出発する約5分前までに改札口を通っておけば電車や新幹線には乗れること。
⑥切符売り場・改札口のほか,コンビニ・お土産屋・衣服や化粧品を販売する店・本屋・薬屋なども充実していること。
①年間およそ300万人の利用者がいること。
②飛行機だけでなく,バスやタクシーも空港にやってきていること。空港の近くにはレンタカー屋もあること。
③県外(札幌・仙台・羽田等)だけでなく,外国(韓国・中国・台湾)にも直接行けること。
④東京に行くのに,およそ1時間30分かかること。
⑤国内線の場合は1時間前,国際線の場合は2時間前には空港に到着しておくことが望ましいこと。
⑥チェックインカウンター・保安検査場のほか,お土産屋・レストラン・本屋などもあること。
①年間およそ5万人の利用者がいること。
②プロペラ機に加え,バスやタクシーも空港にやってきていること。空港の近くにはレンタカー屋もあること。
③観光客が多い夏場は丘珠空港へ1日1便,新千歳空港へ1日1~2便飛んでいること。冬場は丘珠空港へ1日1便しか飛んでいないこと。
④利尻空港から東京には直接飛ぶことはできないこと(札幌で乗り継ぐ必要があること)。
⑤1時間前には空港に到着しておくことが望ましいこと。
⑥チェックインカウンター・保安検査場のほか喫茶店と展望デッキがあること。
なかでも個性的な利尻空港は参加者の関心を大いに引きました。早朝4時から除雪車を使って滑走路を整備していること,住民は「離島住民割引制度」を使って通常の半額で飛行機に乗ることができること,ボーディングブリッジが無いため飛行機にはエプロンエリアを歩いて乗ることなど北海道の離島空港ならではの特色に,参加者は興味津々でした。児童からも「今度,利尻島に行ってみたい!」との声があがりました。
広島空港で働く人の仕事について学ぼう
第2部は,広島空港で働くスタッフの仕事を理解するパートです。特に空港スタッフのなかでも国際空港だからこそ働いているスタッフとして,税関と動物検疫所の担当者をお招きしました。そして「もしも私たちがいなかったら…」の焦点を当てて,お話いただきました。参加者は,そんな「もしも」を想像しながら,お話を聞くことにしました。
税関の職員からは,空港で荷物をチェックしたり,税金を集めたりするのが仕事であること。もし税関職員がいなければ,拳銃や麻薬など危険なものが日本に入って来たり,税収が少なくなったりする可能性があることをご説明いただきました。動物検疫所の家畜防疫官からは,外国からきた動物や畜産物が病気を持っていないか検査するのが仕事であること。もしも家畜防疫官がいなければ,日本に病気やウィルスが入って来て,肉や卵の値段が高くなる可能性かあることをご説明いただきました。お二人の講話の後には,HIAPの山中さんから,まとめのコメントを頂きました。広島空港は今後2050年に利用客数586万人(現在の約2倍)を目指していること。そのためにも空港で働くスタッフを増やしたい(将来空港で働いてほしい)という願いを述べられました。
これからの広島空港について考えよう
第3部は,広島空港の労働力の機械化・自動化について議論するパートです。山中さんの言葉に異を唱えるところから始まります。米国出張中で日米の空港を利用してきた大学院生の田中さんは,スタッフを増やさずともロボットに仕事を任せればよいと問題提起しました。例えば,利用した空港には,自動の荷物検査機,移動が不自由な方や高齢者をゲートまで送り届ける自動運転車,知りたい情報を打ち込めば答えてくれるコンピュータ,空港内を警備するAIロボット,ロボットが飲み物や食べ物を提供してくれるカフェなどが活躍していること,だから人間をこれ以上雇う必要はないと実体験をもとに提案しました。
この提案を受けて,HIAPの職員と広島大学の学生が,空港の機械化の是非をめぐって意見を開示しました。機械化賛成派の2名は,「チェックインや保安検査を機械がしている空港では,搭乗手続きがスムーズで便利だ」,「重い荷物を人間が運ぶのは苦労が多い」,「チケットをちぎるといった単純な仕事は機械に任せた方が良い」,「機械は能力に差がないので,誰にも同じサービスを提供できる」との意見が示されました。一方,機械化反対派の2名は,「飛行機にあまり乗ったことがないので,チェックインや保安検査は人にしてもらうと安心」,「人間は急なトラブルにもすぐに対応できる」といった意見が示されました。
以上の議論を聞いていた参加者には,最後に「(山中さんが言うように)広島空港にはもっと人間のスタッフが必要か?」の質問が投げかけられました。Goggleフォームで投票すると,「絶対に必要」が35.7%,「たぶん必要」が35.7%,「いなくてもいい」が28.6%となりました。結果は拮抗しました。空港のスタッフ増強と機械化・無人化をめぐって意見は分かれました。草原教授は,2050年に向けて広島空港はどのように発展していけばよいか,空港の人と一緒に考えてほしいと述べて,本セミナーは終了しました。
今後もEVRIは,学校,自治体や企業と連携したプロジェクトを実践してまいります。東広島市以外の機関も歓迎いたします。ご関心があれば,お問い合わせください。
草原和博(広島大学・教授)
玉井慎也(北海道教育大学釧路校・教育学部・講師)
川本吉太郎(広島大学・教育ヴィジョン研究センター・研究員)
吉田純太郎(広島大学・教育ヴィジョン研究センター・教育研究推進員)
田中崚斗(広島大学・教育ヴィジョン研究センター・教育研究推進員)
大岡慎治(広島大学・大学院人間社会科学研究科・大学院生)
國重和海(広島大学・大学院人間社会科学研究科・特別専攻科生)
瀬川正義(北海道教育大学釧路校・教育学部・学部生)
山本亮介(広島大学・教育学部・学部生)
見田幸太郎(広島大学・教育学部・学部生)
清政亮(広島大学・教育学部・学部生)
新谷叶汰(広島大学・教育学部・学部生)
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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