アクティビティ

【みなみうら奮闘記3-6】3周目の実践をおえて

2025.07.02

南浦 涼介(広島大学)

東広島市外の参加者が多い「多文化共生」授業

2025年1月29日,雪の心配もあったのだけれど,幸い雪の心配も無く,東広島市の北にある豊栄小学校で多文化共生編の第3回の授業がはじまった。

T1が2人(僕と草原先生),東広島市内の参加校は豊栄小学校と小谷小学校東と,広島市からの参加校はそれほど多いとはいえない。ただ,今回はむしろ東広島市外からの参加もたくさんあったのが特徴的だ。(そしてこれが,しばらく「多文化共生編」のある種の特徴とも課題とも言えるものになっていく・・・)

鹿児島県鹿児島市の桜洲小学校,桜峰小学校はどちらも桜島にある小学校。そして広島市の基町小学校が参加した。これまで「多言語お知らせ」をめぐって,いろいろと準備をしてきたわけだけれども,こうしたテーマは,実際いろいろな地域の学校が重なっていくからこそ面白いものでもある。

実際の授業の展開や報告はコチラ↓↓↓

実際の授業は,上のリンクによくまとめられている。「お知らせには何語があったらよいか」という問いに対して,「親戚にポルトガル語を話す人がいるから,ポルトガル語を入れたい」という子どもの意見があるなど,自分たちの身近な関係とつなぎ合わせながら考えてくれたのは印象的だった。

というのも,よく,外国につながる子どもたちの教育の場では,当事者としての外国につながる子どもたちが自分の身近な関係として,外国の人とのつながりを意識したことばがでることがある。これはもちろん,その子どもの持つ「つながりの資本」としてとても大切なことだ。

一方で,今回のような教室全体の子どもたちが共生的な学びをしたときに,自分自身の身近な外国とのつながりを思い起こす言葉が見られることも当然あるはずなのだけれども,そうした機会は多くないようにも感じられる。その点でこうした気づきが授業の中で子どもたちから出たことはとても嬉しい事態だった。

今後の課題:東広島市外からの参加も多いからこそ・・・

一方で,東広島市の外からの参加が多かったことによる,「難しさ」も感じられるようになった。

今回,この「奮闘記」でも綴ってきたように,教材研究をしっかりおこなった。ただ,結果的に今回の教材はその中心に「東広島市」の事柄が置かれたことが,いくつかの難しさを作ってしまったとも思う。

実際の参加校が東広島市外で多かった中で,教材の中心が東広島市(の中心部の事例)になってしまったのは,子どもたちにとって微妙な距離感を生んだのではないかとも思っている。

もちろん,実際の参加校が決まる前に授業は作っておかないといけないので,仕方のない面もあるのだけれども。

ただ,事後の参加校の先生方も含めた振り返りの会では,学校によっては「このバス(のんバス)は,うちの地域を走っている『おまるめ山バス』とおんなじだ!」など,地元のバスと関連づけながら進めてくれたことをうかがった。

こうした「関連づけ」がよりよく出来るような内容も必要だし,もっといえば,それをもとに各学校から「おしらせ」を持ち寄ってきてもらうのも大事かもしれないと思った。

その点で,今回の授業ではいくつかの「持ち寄り」の活動ができたのもよかった。1つは,1時間目の中で「町のお知らせには何語があるといいと思うか」というのを,スプレッドシートを用いて各クラスの意見を集約するしくみ。(これは半年後の今,AIによる集約という別の形で実現がしやすくもなっている)。

もう1つは授業の最後に看板を実際に作るという活動の部分で,Googleスライドを用いて作成したものを鑑賞する活動(これは,前回の「外国の言葉が上手とは」の標語づくりでもおこなった)。こうした「持ち寄り」活動を入れていくことは,市域を越えてかかわり合うときに,教材と子どもたちの遠近を超えて意味をつなげあう大切なしくみになっているともいえる。実際,社会科の活動ではこれらが効果的に組み合わさっていることが多い。 多文化共生の場合,社会的事象と異なるため,「持ち寄る」が必ずしもいつもできるわけではない。これまでにあったように,異なることば,異なる声を聞き合う関係はとても大切なのだけれども,こうした「社会」的な視点で考えるときにお互いの意見や考えを重ね合わせていく方法は模索していきたいと思った。

授業からうまれた、いくつかの素敵なコト

最後に,2つの新しい授業から生まれた素敵なことを紹介したい。

1つは,今回の授業は広島大学の学部1年生の学生もクラスの支援者(T3)=授業参加者として参加していた。つまり,内容の重ね合わせだけでなく,小学校3年生から大学生までが関わる異年齢が重なった。

多文化共生というテーマは,往々にして外国人との共生の話題がクローズアップされやすいし,この授業もそうだ。でも,この授業ではこんなふうに,年齢を超えて,学校種を超えた参加が自然に発生している。

2つめに,参加した外国につながる子どもの多い小学校で,この授業の後に,保護者に配布するプリントの多言語化が進んだことだ。

中国語版はこれまでも用意していたのだけれど,あらたに「英語版」をつくってみると,それによってベトナムから来た保護者やインドネシアから来た保護者からも「わかる!」という声が生まれたそう。

実は私たちの学校にもいろいろな多言語があることを,子どもたちや先生方が再発見するきっかけになったそうだ。

2024年度の実践を駆け抜けてきたけれど,こうした点をふまえながら,改めて2025年度に向きあっていきたい。

この記事を書いた人
Ryosuke Minamiura
南浦 涼介

2023年の春に広島大学にやってきました。「先生」の仕事は23年目,大学の先生の仕事は14年目,広島大学の先生の仕事は2年目の古米のような新米です。授業や多文化共生の教育の仕事が大好きですが,ラーメンも好きです(最近控え中)。