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【2025.03.20】【イベント開催報告】「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」2年次報告会を開催しました

2025.03.20
  • 発表

2025年3月20日(木・祝)に、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」2年次報告会を、北海道釧路市生涯学習センター「まなぼっと幣舞」およびZoomウェビナーのハイフレックスで開催しました。大学教員や学校教員、学生を中心に91名(対面33名、オンライン58名)の皆様にご参加いただきました。

はじめに 研究開発責任者よりご挨拶

まずは開会に際して、本研究開発責任者の草原和博教授(広島大学)より、参加者の皆さまへのご挨拶がありました。
今次報告会のねらいとして、1年間のデジタル・シティズンシップ・シティ(DCC)の取組を総括的に振り返り(第1部)、とくに北海道をフィールドに挑戦的・先駆的に行った広域交流型オンライン学習の実践を現場の先生方にご報告いただくこと(第2部)。さらに、それらの成果発表を踏まえた関係者(ステークホルダー)との対話(パネルディスカッション)を通じて、次年度以降のカリキュラムや運営体制を検討すること(第3部)。ひいては、DCCの全国展開の可能性やその意義と課題を展望することが述べられました。


その後の報告会は、大きく3部構成で実施されました。

第1部 DCCの成果と課題

第1部は、本研究開発2年次目の成果と課題の発表です。

(1)概要-遠隔授業のデザインと子どもの学び

「(1)概要-遠隔授業のデザインと子どもの学び」は、森田聡氏(東広島市教育委員会)、川本吉太郎特任助教(広島大学)吉田純太郎氏(広島大学大学院・博士課程後期)が報告しました。
はじめに、DCCの取組(広域交流型オンライン学習。以下、広域交流)のカリキュラムづくりのデザイン原則や実施体制などが紹介されました。広域交流は、広島大学(研究機関・研究者)と東広島市教育委員会(教育行政・指導主事)と学校(教師)の三者協働により成立していること。その中での市教委のかかわりや教員が授業に参加するまでのフロー(教員による自律的な手挙げ参加→事前研修としての説明会の実施→授業本番→事後協議会での振り返り)が説明されました。
次に、今年度の広域交流の参加実績として、2024年度には20回の授業を実施し、延べ106校・169学級、児童生徒4,086名、学生支援者254名が参加したことが報告されました。
最後に、授業に参加した児童のアンケート調査の分析結果が共有されました。広域交流に参加した児童の満足度は極めて高いこと。広域交流を通じて、児童が多様な他者を認識し、オンライン授業を通して高い社会参画意識が醸成されていること。不登校傾向にある児童生徒に対しても、自己表現の場としての観点から、一定の効果がみられることなどが挙げられました。

(2)不登校傾向の児童生徒の支援体制の構築

「(2)不登校傾向の児童生徒の支援体制の構築」は、三井成宗特任助教(広島大学)が報告しました。
今年度の取組状況として、東広島市の教育支援センター「フレンドスペース(FS)」や校内教育支援センター「スペシャルサポートルーム(SSR)」、広島県の教育支援センターである「SCHOOL“S”」からの参加があったことが紹介されました。
なお、20204年11月からは、不登校児童生徒に特化した副音声方式のチャンネル2を開始しました。はじめは、県の指導主事による授業進行・解説を行なっていたものの、子どもたちの授業への参加状況に応じた柔軟なフォローが必要であるとわかり、12月からは三井特任助教と大学生サポーターによる運営を始めるなど、安定的かつ効果的な配信に向けて試行錯誤を続けてきた経緯が説明されました。
さらに、2月にはメタバースを活用した授業配信を実施したことも述べられました。メタバース授業に関して、デジタル(バーチャル空間)を活用した新しいタイプの授業に高い関心を寄せる子どもがみられる一方で、バーチャル空間のアバターでは授業進行者の表情がわかりにくいため、リアルの方が良いなどの感想も寄せられました。このように、一年間の取組を通じて、学習者のニーズに応じた多様な教育機会の提供・保障に向けた成果や今後検証すべき課題が明らかになりました。最後に、次年度以降のさらなる発展可能性として、広島県さらには全国の子どもたちへの拡張可能性について言及されました。

(3)市民の学習参加及び国内外の参加体制の構築

「(3)市民の学習参加及び国内外の参加体制の構築」は、小迫賢志氏(東広島市立高美が丘小学校)、滝沢潤教授金鍾成准教授(広島大学)が報告しました。
まずは、滝沢教授より、他自治体への展開状況について報告されました。今年度は広島県内の複数自治体、さらに北海道・鹿児島県・高知県からの参加がありました。また、北海道における有志教員ネットワークにおける挑戦的な実践開発を行うなど、多くの自治体や学校に興味・関心をもっていただいている現状が報告されました。
次に、小迫氏より、参加校の校長の立場から、本プロジェクトに子ども/教師/管理職が参加する意義について述べられました。そのうえで滝沢教授より、授業を参観した保護者・地域住民・市議会議員のアンケート結果からみられる広域交流の意義や、そこから展望される「ネットワーク型公教育」制度の構築の必要性が論じられました。
続いて、金准教授からはDCCの海外展開に向けた韓国での広域交流の実践報告と、次年度の実施を計画している米国カリフォルニア州の教員チームおよび韓国の教員チームによるプロポーザル内容が紹介されました。投げ込み型の単発で終わらないことや、授業だけで完結させない、より児童生徒が主体的に参加する授業づくり・ネットワークづくりが進められていることが報告されました。

(4)遠隔授業支援アプリ「TSUNAGU」の開発

「(4)遠隔授業支援アプリ「TSUNAGU」の開発」は、渡辺健次教授隅谷孝洋教授宇ノ木啓太研究員(広島大学)、横山大城氏・植田達也氏(ソフトバンク株式会社)が報告しました。
遠隔授業支援アプリ「TSUNAGU」には、次の二つのプロダクトがあります。
一つ目は、遠隔授業AI学習支援システムです。本プロダクトでは、離れた教室の議論を収音・集約し,意見の分布や傾向を可視化することができます。今年度の実証実験の結果および開発実績について、詳細な報告がなされました。今年度の改修ポイントとして以下の3点が挙げられました。すなわち、①ワークの入力方式を拡充したこと(=課題特性に応じて収音分析・結果表示方法を4つに類型化)、②容易な情報確認(=AIチャット機能の搭載、グラフィカルな情報解析・分析結果の可視化、学年段階に合わせた漢字変換機能など)、③安全性・利便性の向上(=収音時にミュートを選択できる機能、収音した単語数などの可視化、収音した音声データを即時的に匿名化する機能の追加)です。その他、韓国語での収音分析の実証なども述べられました。次年度以降の開発目標として、利用者を意識したシステムのWEBアプリ化や多言語対応への挑戦が挙げられました。
二つ目は、遠隔授業マッチングアプリです。本プロダクトでは、遠隔授業をしたい学校・先生・企業をマッチングし、ニーズに応じてより簡便に、いつでも・どこからでもつなぐことができるワンストップサービスを目指します。報告会では、実際のアプリの使用方法を解説しながら、マッチングアプリの特徴や機能性について紹介されました。

(5)遠隔授業コーディネーター(T1)の役割

「(5)遠隔授業コーディネーター(T1)の役割」は、南浦涼介准教授川口広美准教授(広島大学)が報告しました。
川口准教授は、自身のT1経験の省察を通じて、T1の基本的な役割として次の6つを挙げました。

T1の基本的な役割

1.子どもたちが現実の社会問題について真剣に話をできる授業をデザインし実行する
2.様々な背景の子ども、地域,大人・当事者を巻き込めるようにする
3.学習者の当事者性と地域特性を引き出す
4.T2教員間のコミュニティ形成を促し、授業の参加そのものに支援機能をもたせる
5.学習指導要領が指示する単元(中項目)の導入、まとめ、または発展として位置づける
6.先端の知見を織り込んで開発する。また指導主事の先生らの意見や各校の情報を踏まえて計画を修正・改善する

次に、南浦准教授は、「多文化共生」授業を3回実践した自身の経験を振り返りました。南浦准教授は「みなみうら奮闘記」において、T1の視点から自分自身の悩みや葛藤,喜びのリアルを綴り「授業者の目線」を共有しています。「奮闘記」を読む視点として次の4つが提案されました。

「みなみうら奮闘記」を解釈するための4つの視点

1.通常の授業との違いからくる模索過程
2.「多文化共生」授業の考え方の構築過程
3.人との関係性・連携の視点
4.回を重ねる中での「次の挑戦」の連続性

(6)第1部の質疑応答

第1部の質疑応答では、西村訓弘氏(ポスコロSIP・プログラムディレクター)より、「どのような未来市民Xを想定して、DCCは実践・開発を行っているか」という質問が出されました。日本全体として少子化・人口減少が加速度的に進行し、デジタル化への社会的受容度が高まっている現実を理解したうえで、未来の教育に必要なことや未来社会だからこそ教育でできるようになることは何か、未来の市民が備えるべき資質“X”とは何なのかが議論されました。DCCだからこそ達成できることや貢献できることを明確に見据えて、研究開発を進めていく必要性が確認されました。

第2部 北海道DCC実践報告

第2部は、北海道でのDCC実践報告です。今年度は4回の実践を行いました。

(1)北海道の市町,魅力さがし隊(小4)

「(1)北海道の市町,魅力探し隊(小4)」(12月12日,2月21日実施)は、佐々木悠真氏・小野優斗氏(札幌市立白楊小学校)、江渡明香氏(釧路市立清明小学校)が報告しました。本授業の詳細は、こちら1回目2回目)からご覧ください。
佐々木氏は本実践を振り返り、特筆すべき点として、①同一単元内で2度の遠隔授業の実践を行なったこと、②校内の教員同士でメンタリング体制を構築して実施したことの2点を挙げました。
①に関して、二度にわたって他の学校の子どもたちをつなげたことにより、継続参加による子どもたちの学習意欲向上を図ることができたこと。学校を越えた人的ネットワーク(江渡氏やニセコ町役場)を活用した授業づくりが進められたことで、教師としての遠隔教育に関する視座を高められたことが述べられました。②に関して、すでに遠隔教育の授業づくり・実践を経験した同じ社会科を専門とする同僚(小野氏)とメンター(小野氏)/メンティー(佐々木氏)の関係性を構築して授業づくりに臨んだことで、教師自律型の広域交流を展開することができたとの振り返りがありました。
さらなる充実に向けた今後の課題としては、遠隔授業実践者の共同体を構築することで、継続的なメンタリングシステムの体制づくりを進めることや、単発の実践ではなくカリキュラムベースで遠隔授業を位置づけていく必要性が述べられました。

(2)湿原の太陽光パネルは環境を守るのか,壊すのか(小5・中3)

「(2)湿原の太陽光パネルは環境を守るのか,壊すのか(小5・中3)」(12月19日実施)は、中村亮太氏(釧路町立別保小学校)、佐藤健翔氏(浜中町立霧多布中学校)が報告しました。本授業の詳細は、こちらからご覧ください。
はじめに中村氏は、本授業がすでに関係性を構築した教員(中村氏・佐藤氏)同士で連携・協働した「異質な他者と交流する場」を企図した小・中の異年齢同士による総合学習の実践であったと振り返りました。
授業では、公共的課題「湿原の太陽光パネルは環境を守るのか?壊すのか?」をめぐって、小・中学生がそれぞれの立場や意見、その根拠を発表しました。両氏は、共通のテーマを異年齢で交流して学んだことの意義を、小学生が多角的・多面的な意見に触れることで、元々の立場が揺さぶられ、結果として考察を深めることができていたことや、中学生が年長者として、地域課題の解決に向けて「責任を伴った公正・公平な提案」を目指そうとしていた点に見出していました。
今後の課題として、T1(中村氏)からは、学習者の状況や授業進度、ICTの利活用法を理解したうえで授業当日の子どもたちの反応,教師間の掛け合いを想像できるようになることが述べられました。T2(佐藤氏)からは、広域交流の意義を「子どもの資質・能力の向上」と「教員の資質・能力の向上」の両面から説明でき,実践の準備(授業開発/校内研修)を自律的に企画・運営し,子どもや大人(産官学関係者/地域住民/他の教員)を巻き込んでいく力を醸成することが挙げられ、このような力量を形成するための体験的な研修機会が求められると述べられました。

(3)離島空港の役割はなにか,拡張すべきか(小4・小5)

「(3)離島空港の役割はなにか,拡張すべきか(小4・5)」(3月3日実施)は、宇ノ木研究員、佐野留奈氏(奥尻町立奥尻小学校)が報告しました。本授業の詳細は、こちらからご覧ください。
発表では、適宜佐野氏から奥尻小の子どもの様子が伝えられました。奥尻小の子どもたちは、「どうして北海道と広島でこんなにも飛行機に乗る回数が違うのだろう?ととても驚いていた」「広島空港の航空管制官などのインタビューにテレビで見たことある仕事の人だ!と盛り上がっていた」「空港拡張については、全員反対だった。大きくすると赤字になるなどの意見が出ていた」「広島の子も反対派が増えていて、嬉しいと声があがっていた」など、授業に真剣に臨んでいる様子が伝えられました。
後半は、本授業の実施プロセスを宇ノ木研究員が報告しました。本授業に向けて、複数回にわたって空港や教育委員会などの関係者と打ち合わせをしたこと。事前に利尻富士町・奥尻町を訪れ、初参加の学校(教員)に向けて対面で説明をしたこと。実際に広島空港や利尻空港を訪れ、リハーサルをしたこと。各学校が不安なく参加できるようスタッフを派遣したこと。前日に関係スタッフで最終確認の打ち合わせを行なったことを報告しました。
最後に本授業への参加の手ごたえと課題が佐野氏より述べられました。手ごたえとして、インターネットで情報があふれる社会の中で、情報を選択する力だけでなく対話して自分の目で見て考えることが大切なこと、このオンライン授業の参加を通じて、子どもたちがもっと表現したい、もっと伝えたいとなってきていることが挙げられました。課題として、交流機会を増やすことで対話のキャッチボールをしたいこと、もっとたくさん質問をして学びを深めていきたいことなどが述べられました。

(4)第2部の質疑応答

第2部の質疑応答では、西村氏より佐野氏へ「広域交流への参加は楽しかったですか?」との素朴な質問が投げかけられました。佐野氏は、自身のこれまでの経験や奥尻小学校に赴任するまでの経緯、教師として大切にしたい想いを振り返ったうえで「とても楽しかったです!」と答えました。その回答を受けて西村氏からは、「大人がワクワクする環境をつくっていくことが変革には肝要である」と述べ、関心を持った教師が継続的に広域交流に参画していくことや、その機会をひらいていく意義をとなえました。

第3部 パネルディスカッション~DCCのミライを語る~

第3部では、「DCCのミライを語る」をテーマにパネルディスカッションを行ないました。
パネリストとして次の6名が登壇されました。なお、話題提供者兼コーディネーターは草原教授が担いました。

ご登壇いただいたパネリスト

西村訓弘(三重大学・SIPポスコロ・プログラムディレクター)
影山吉則(伊達市教育委員会 教育長)
徳満謙三(東広島市教育委員会 情報教育推進 室長)
玉井慎也(北海道教育大学釧路校 講師)
小野優斗(札幌市立白楊小学校 教諭)
佐々島忠佳(北海道教育大学釧路校2年次生)

まずは、各パネリストより第1部・第2部の感想をいただきました。

2年次報告会参加の感想

  • どれも中身のある深い実践を報告していただいた。NEXT GIGAのひな型、あるいはプラットフォームになりうる取組である。学校や地域の枠を超えて展開されていることがDCCの強みだと考えている。(影山氏)
  • 日本の縮図のような都会も田舎も両面備える東広島市では、DCCの取組は大変効果的であると考えている。(徳満氏)
  • デジタルがもつ力の大きさを考える良い機会となった。子どもたちの声を大人や地域に届けるツールとしてのデジタル、オンラインの可能性を感じている。(玉井氏)
  • 札幌市のような都市部では、ICTを校内で完結させるものとして捉えがちである。ソトとつながるツールとしてのICTの可能性を伝えていきたい。(小野氏)
  • これまで広域交流には観察者として5回、授業支援者として5回参加している。観察者視点では「自分ならこうやって授業する・・・」と考えることが多かった。サポーターとしては、自分が担当する教室内に注力して、子どもたちや教師の支援に取り組んだ。(佐々島氏)
  • DCCに関わる当事者たちが楽しそうに生き生きとしている。このポテンシャルをどのように社会に実装させるか。これが私の仕事である。(西村氏)

続いて、各パネリストに草原教授より個別の質問が投げかけられました。

草原:DCCは伊達市の教育課題にどのように貢献しうるか?今後、何を期待するか?

影山氏:伊達市では、ふるさと創生教育「だて学」を実践し、地域課題の発見や具体的な解決策の模索を行なっている。このタテのつながりを発展させるとともに、他自治体などヨコの広がりをDCCに期待したい。他者と出会うことで子どもたちは爆発的に成長することができるし、それにかかわる教師ももちろん成長する。DCCをプラットフォームとして、全国・全世界とつながり、「だて学」を広め、深めていきたい。当面は伊達市内の小規模校2校を拠点校としてDCCに参加・連携していきたい。

草原:東広島市では広域交流が5年目に入る。具体的な手ごたえは?どう変容しているか。

徳満氏:DCCの成果は具体的な数字に表れている。令和4年度は市内23校が参加し、令和5年度は26校、令和6年度は30校と年々増加してきている。このことが学校現場が魅力を感じている何よりの証拠ではないか。広域交流は大学・教育委員会・学校の三位一体で取り組むものである。三者がしっかりとタッグを組んでいるからこそ実現している取組であると感じている。それぞれの強みを生かすことができている。

草原:繰り返し参加している学校は何を求めているのだろうか?

徳満氏:社会科を専門としない教員にとって、広域交流は教材分析やカリキュラム開発、授業づくりを学ぶ良い機会となっている。参加を通じて、研修的な成果をもたらしている。

草原:現行の大学の教員養成、教員研修のカタチに、DCCはどのようなインパクトを持つだろうか?

玉井氏:北海道教育大学釧路校では、過去15回の実践で21名の学生が参加している。これからも継続的に参加を促していきたい。これまでの釧路校の遠隔教育やへき地教育研究の蓄積を生かしながら、共有財産として他大学と連携していきたい。DCCを通じて、大学生も自らの大学を越えて交流できる機会としていきたい。

草原:広域交流への参加を通じて子どもたちがどのように変化したか?

小野氏:広域交流は、子どもたちが学ぶ空間が変化する。教室をこえて、より現実社会に近づく体験をすることができる。即時的価値として、多様な他者とリアルな対話ができることが挙げられる。継続的価値には遠隔授業の経験を通じて、子どもの思考が社会に開かれているように感じている。

草原:学生として、今後広域交流でやってみたいことは?

佐々島氏:最初は自分ではなかなか広域交流のような授業はできないと思っていた。一方で、最近はたくさんの実践に関わることで、より積極的に参画したいと考えるようになってきた。今後は、実践者(T1)側として広域交流の授業づくりに挑戦してみたい。

草原:DCCの取組がポスコロSIPにどのように貢献できそうか?

西村氏:ポスコロSIPは「個々の多様な個性が発揮され、それによって社会が発展すること」を目指している。ポスコロSIPでは未来社会だけでなく、今、現に生活している大人たちも変えていきたい。そのなかで何を変えるのか/変えられるのか/変えるべきなのかをPDとして考え続けていきたい。そのうえでDCCには、未来社会を生きる市民Xをどのようにして育てるか。必要な能力を身につけさせる教育ではなく、その個性を自ずから発揮するための能力を発現させるような教育に期待したい。そのためにもDCCの意義や価値を本質的に解明することをお願いしたい。

おわりに 総括コメント

最後に、報告会のまとめとして、総括コメントを西岡加名恵氏(京都大学・ポスコロ・サブ課題Aサブプログラムディレクター)と寺坂公佑氏(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局企画官)よりいただきました。

西岡加名恵氏(京都大学・ポスコロ・サブ課題Aサブプログラムディレクター)より

西岡氏は、DCCのプロジェクトの特筆すべき点は「未来社会を構築する営みを子どもや大人を巻き込んで展開されている」ことにあると述べられました。そのうえで、とりわけ以下の3点で優れていると評されました。

  • 子どもたちをリアルな社会に直面させ、子どもたちの学びへの構えを変容させている。
  • 社会の様々な関係者を巻き込んで展開されており、それが属人的(場当たり的)でなく、きちんと制度化されている
  • デジタルとリアルのベストマッチングが図られており、リアルのためにデジタルを活用し、デジタルのためにリアルを活用している。

そのうえでサブ課題AのSPDとしての課題として、「育もうとしている子どもたちの姿をより精度を上げてえがかなければならない」ことを述べ、サブ課題Aとしての研究開発チーム間連携を推進していく必要性が語られました。

寺坂公佑氏(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局企画官)より

寺坂氏は、行政(内閣府)にいる立場として、これから新たに策定される第7期科学技術・イノベーション基本計画においては、「総合知」、すなわち社会課題を解決していくための力が求められるだろうと述べられました。そのうえで、「総合知」を涵養するための根底をなす取組として、DCCが位置づけられるのではないかと評されました。
加えて、学習指導要領の改訂にかかわって、深い学びの見取りが重要視されるなかで、その議論にもDCCはマッチしていること。また様々なアクターを巻き込んで展開している点からは、現行の内閣が推進する「地方創生」にも整合していると述べ、今後の展開への期待が寄せられました。

これからも本プロジェクトでは、DCCの全国展開、社会実装に向けてチャレンジを続けてまいります。ご期待ください。(2025年度の授業の年間スケジュールはコチラ
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年次報告会を通じて、DCCの展開可能性とそのためになすべき課題が明確になりました!