2024年5月14日,北海道教育大学釧路校小ホールにて,玉井慎也氏(北海道教育大学釧路校・講師)が担当する授業「初等社会科教育法AC」の第5回が行われました。今回の授業では,広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)が実施している「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校(通称:NICE)」が教員養成のための教材として取り上げられました。さらに,ゲストティーチャーとして吉田純太郎(広島大学大学院生・元教育研究推進員)も登壇。受講生90名がNICE事業の概要と特質について理解を深めました。
今日のデジタル社会において「なんのためにICTを用いるのか」「どのようにICTを活用すれば教科の授業をより効果的に実践できるか」について考えることは,小学校教師を志す学生にとって避けて通れない課題になっています。法令でも「各教科の指導法」で「情報通信技術の活用」に関する事項を取り扱うことが定められているところです(教育職員免許法施行規則)。こうしたなか,ICTを上手く使うための「鏡」として,玉井氏が注目したのがNICE事業でした。昨年度まで事業の推進に携わった吉田が約30分間授業をすることで,①受講生のICT活用能力を向上させること,②今後の北海道での事業展開を見据えて,NICE事業に対する学生の興味・関心を喚起することの2点を図りました。以下は,吉田による授業の具体的なやりとりです。
まず前半は,学生が予め作成してきたミニレポートに対してフィードバックを行いました。
玉井氏は今回の授業に合わせて,①「お買い物に役立つ,スーパー・直売所・コンビニの魅力を表したキャッチフレーズをつくろう!」(2022年6月15日実施)を視聴すること,②授業のなかで「すごいなあ」「難しいなあ」と思った場面をそれぞれスクリーンショットで記録し,その理由を説明することの2つを事前課題として課していました。学生の主な回答は次のとおりでした。
Ⅰ.複数の学校の児童が同時に学習をするところがすごい
Ⅱ.Googleフォームを用いて,児童の意見を収集し,瞬時にその結果を表しているところがすごい
Ⅲ.学校の外に出ることなくオンラインで社会科見学を行っているところがすごい
ⅰ.複数の学校で学習内容や進捗を揃えることは難しそう
ⅱ.議論や発表を通じて,児童一人ひとりの意見を拾うことは難しそう
ⅲ.五感を活かして社会科見学を行うことは難しそう
これらの回答を受けて,吉田は,授業の同じ場面を見ても評価が分かれていること(Ⅰとⅰ,Ⅱとⅱ,Ⅲとⅲは表裏一体の関係にあること)を指摘しました。ここからNICE事業に対する評価が二極化していることを感じとった吉田は「このような授業をあなたはやってみたいと思うか?面倒くさそうと思うか?」を受講生に問いました。挙手をさせてみると,約20%の学生が「やってみたい」に手を挙げました。一方で残る約80%の学生は「面倒くさそう」との感覚を率直に表明しました。こうした受講生の認識をもとに「社会科授業でなぜわざわざICTやオンラインを使う必要があるのか」との授業目標を設定しました。
後半では,上記の目標に応えるために,NICE事業の特徴を吉田が説明しました。事例として取り上げたのが「自然災害からくらしを守る―防災訓練だけでくらしを守れるか!?―」(2023年9月13日実施)です。東広島市内の学校に加えて,鹿児島の硫黄島学園,北海道の霧多布小学校を繋いだ実践です。3地点を接続することで児童の防災意識を深化させること(災害は土石流や洪水だけではないし,防災のための備えも多様である)ができるようになっている授業の構造を,受講生に説明しました。
そのうえで,防災実践を踏まえて①ICT機器はむやみやたらに使えば良いというものではない,②どのようにすれば社会科らしい深い学びが実現できるかの視点に立って,目的に合致したツールを選択することが必要であること,③NICE事業では,多様な学校が教室空間を越境して公共的課題の対話を行うためにICT機器を活用しようとしていること,を述べました。③を提示することで,受講生の「なぜ社会科授業でなぜわざわざICTやオンラインを使う必要があるのか」という疑問に応えることを目指しました。
質疑応答の時間や授業後のやりとりでは,「NICEのことを初めは難しそうな授業だと思っていたが,授業を受けて自分もぜひやってみたいと思った」との感想が受講生数名から寄せられました。ただ,通常とは異なる授業形態に対して,教師の負担感や子どもの主体的参加の視点から,難しさを感じるところは大きかったと推測します。
EVRIでは,引き続きこれらの課題解決に取り組むともに, NICE事業に関する説明・研修等の場を設定させていただきます。
(個人・団体を問わず)ご関心を持たれた方は sipstaff-evri[*]ml.hiroshima-u.ac.jp までお問い合わせください。([*]を半角@に置き換えた上、送信してください)
(文責:吉田純太郎)