授業実践

【地理的な見方・考え方】地理的な見方・考え方とは何か,それをどのように働かせることができるか

2024.05.14

指導案・教材・YouTube動画

概要

2024年5月14日,東広島市内中学校4校4学級(志和中学校,福富中学校,豊栄中学校,河内中学校)の1年生(102名)が参加し,「地理的な見方・考え方」をテーマとする遠隔授業を実施しました。
蕎麦屋,韓国,修学旅行先など様々な社会的事象を手がかりに,地理学者が働かしている見方・考え方を習得し活用することを目指しました。

授業全体の進行を金鍾成准教授が,解説を草原和博教授が務めました。

授業は子どもが持っている地理に対するイメージを可視化することから始まりました。
生徒たちは地理と言われて日本地図や世界地図,さらに大陸や海洋などを学ぶことが地理であると考えていました。
そこに、金准教授と草原教授は、地理的に見る・考えることも地理の学びであると言い、本時の目標である「地理的な見方・考え方を学び活用しよう!」が共有されました。

本時は,大きく2段構成で展開していきました。

地理的な見方・考え方が「わかる」

第1次は,地理的な見方・考え方がわかる段階です。東広島市内のとある蕎麦屋が取り上げられました。まず初めの問いとして「あなたが蕎麦屋を開くならどこに開く?」という問いを生徒たちに投げかけました。生徒からは,たくさんの人が集まるところや平地で交通の便がいいところなどが出されました。そこで,田園の中にポツンと一軒ある蕎麦屋いくつかの資料を用いながら,紹介しました。

具体的には,①蕎麦屋の外観・内装を映したスライドショーの映像,②店の立地がわかる航空写真,③店の外に置いてある石(小学校跡と刻まれている),④実際に提供されている蕎麦の写真,の4点です。
生徒はこれらを見て,自分自身のイメージと実際のある蕎麦屋の立地のずれを不思議に思いながら,自分自身の予想と実際のある蕎麦屋の立地のずれを不思議に思いながら,気になったことを「問い」に表す活動に取り組みました。
生徒は,Google スプレッドシートを通して問いを提出しました。各学級では,問いの一覧を眺めながら,他校に紹介したい「これぞ地理的な問い」問いを3つ選び,ジャムボードに入力しました。その後,地理の専門家として草原教授からそれぞれの問いについて答えてもらいました。それぞれの問いの回答の後,地理的な見方・考え方を草原教授が解説していきました。ここでは,それぞれの見方・考え方をイラストにて表現したカードを用いて解説がなされました。

【地理的な見方・考え方】とは

①位置(どこか)
②場所(そこには,何があるか)
③人間と環境の相互作用(そこにあるものには,どのような関係にあるか)
④移動(そこにあるものは,他の場所とどのように結びついているか)
⑤地域(そこはどのようなところか。どのように変わってきており,どのように変わっていくか。)

生徒たちは地理的な見方・考え方の解説をもとに4校から出てきた計12個の「これぞ地理的な問い」を分類しまし、その結果を理由とともに発表しました。草原教授は、専門家として生徒たちの分類を評価したのち、すでに生徒たちは見方・考え方をある程度持っているが、それを意識的に発揮してはないと語りました。その後,今回獲得した5つの地理的な見方・考え方を意識的に活かすことで,新しい地理の世界が見えることが共有されました。

地理的な見方・考え方を「活かす」

第2次に,地理的な見方・考え方を「活かす」段階です。異なる地理的な事象として「韓国」を題材に,第1次に獲得した地理的な見方・考え方を活用しました。まずは,これまでの生徒たちのもっている知識を用いて,「韓国とはどんな国?」という問いに答えることで,生徒たちがもつ韓国のイメージを表現できるようにしました。次に小学校の社会科の教科書を資料として用いながら,韓国をより深く理解するための問いづくりを行いました。ここでは、地理的な見方・考え方を活かして問いをつくることが目指されました。
生徒からは「なぜ韓国には辛いものが多いのか(地域)」「どうして貿易・交流が多いのか(移動)」のような問いが作られました。これらの問いには韓国出身である金准教授から解説がなされ,地理的な見方・考え方を用いることで社会的事象を深く理解するための問いをつくることができることが強調されました。

最後に本授業のまとめとして,地理的な見方・考え方を活かす場面は社会科の授業だけでなく,ほかの授業や日常生活でも活かせること,具体的には修学旅行先の調べ学習で地理的な見方・考え方を用いて問いをつくり,その問いを追究することで事象を深く理解できることが確認されました。

授業を振り返って

地理的な見方・考え方は,これから地理学習を始める中学1年生の生徒にとって,たえず意識して活用することが期待されています。一方で見方・考え方は抽象的であり,生徒に教え習得させること,また活用させることには,難しさを感じることも多いかもしれません。今回の授業の意義として,地域の身近な題材を用いて見方・考え方を習得させ,同じような展開で他の社会的事象に活用させることで,見方・考え方の習得・活用を図った点にあります。また,なかなかイメージし難い見方・考え方をイラストを用いてモデル化し提示し,習得・活用の難しさを乗り越えようとした点も意義深いのではないでしょうか。

今回の実践でも,他校の生徒とつながることで,これまで自分になかった視点に気付いたり,考えが深まったり,専門家と対話することでより専門的な知見を得られたり,専門家に自分の意見を評価してもらえたりと,広域交流型オンライン学習の強みを再確認することができました。今後もオンラインならではの社会科授業を構想・実施してまいります。

この授業実践の関係者

授業実施者:金鍾成,草原和博
授業補助者:各中学校での授業担当教員
学校技術支援担当(東広島市内中学校):神田颯,大岡慎治,山本健人,見田幸太郎
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,清政亮,久我祥平
事務局機器担当②(福富中学校):鶴木志央梨,青山伸洋,宇ノ木啓太

この記事を書いた人
広島大学教育ヴィジョン研究センター
デジタル・シティズンシップ・シティ運営メンバー

広島大学教育ヴィジョン研究センター内のデジタル・シティズンシップ・シティ運営メンバーで、プロジェクトの実行運営を担当しています。