指導案・教材・YouTube動画
概要
2026年7月8日(水),広島,北海道,鹿児島を結び,18校23学級の5年生(計474名)および教育支援センターの子どもたちが参加する遠隔授業を実施しました。
今回の主題は,「米づくりのさかんな地域-教科書にのせたい,日本の農業・農家の姿とは?-」。子どもたちが普段使っている教科書に描かれた大規模な販売・主業農家の姿と,教科書には載っていない多様な農家の姿を比較・考察し,これからの教科書には「どのような農業を載せるべきか」を教科書編集者の溝口和宏先生に提案しました。授業では,広島大学の草原和博教授が全体進行を務め,各教室の進行を担任の先生が務めました。
・広島県内小学校7校11学級278名(東広島市立郷田小,板城小,志和小,高屋東小,平岩小,福富小,安芸高田市立向原小)
・北海道内小学校3校4学級92名(釧路市立清明小,中央小,北竜町立真竜小)
・鹿児島県内小学校4校4学級41名(鹿児島市立平川小,三島村立三島片泊学園,出水市立大川内小,徳之島町立花徳小)
・参観:肝付町立内之浦小,出水市立野田小,五島市立岐宿小,五島市立本山小
・米農家には教科書にのっている米農家だけではなく色々なタイプの農家さんがいることが分かった。
・渡辺さんや,岩見さん・いろいろな農家さんに会って話したいと思った。そして,東広島市だけではなく,全国の農家さんと一緒に考えたくなった。
・日本の農家は全員同じことをしているのではなく「副業」「主業」「米だけ」「米以外も」などなど日本の農家の人たちは一人一人違うことをしている。だったら次は世界の農家は日本と違うことをしているのか,また,その場合何が違うのか,何が同じなのかをもっと視野を広くしてまなびたい。
・じぶんたちの意見をいろんな人に言えたし,ほかの人達の意見もたくさん聞けたので,自分の意見と比べて,確かにな,と思った,次からも,ほかの人の意見を大切にしようと,今日の授業で考えました。
・県も違うし住む場所も違う様々な学校やクラス友達と一つの課題に対して考えたり意見を出し合ったりしてより良い答えに向けて考えられたことが楽しかった。何年後か5年生の社会の教科書に自分たちの考えがのるかもしれないということが楽しみ。


導入:見たこともない「カントリーエレベーター」がなぜ教科書に?
授業は,教科書に登場する「カントリーエレベーター」に関する〇×クイズからスタート。クイズを通して,米を保管するための大きな施設であることを知りました。
続いて,「みんなの住むまちで,これを見たことがあるか?」アンケートを実施しました。結果は,「いいえ(見たことがない)」が82%,「はい(見たことがある)」が13%。大半の子どもたちがカントリーエレベーターを見たことがありませんでした。そこで,草原教授から,「みんなが見たこともないようなカントリーエレベーターがなぜ教科書には登場するのかな?」と発問。子どもたちからは,「米づくりにとってカントリーエレベーターは大事なものだから」といった意見が出されました。
さらに草原教授は,授業前のアンケート結果を紹介しました。多くの子どもたちが田んぼを見たことがあると答えている一方で,カントリーエレベーターを見たことがない人が多いことを確認し,「田んぼは見たことがあるのに,なぜカントリーエレベーターは見たことがないのだろう」と揺さぶりました。そのうえで,前半の学習課題「なぜ教科書には,私たちがあまり見たこともない米づくりが出てくるのだろう? 」が共有されました。

見たこともないカントリーエレベーターが…?

展開1:教科書に登場する米づくり表現を説明する
展開1では,教科書に出てくる米づくりの特徴を整理しました。子どもたちはワークシートを使って,教科書の農家さんの米づくりを「①農家さんの名前と場所」「②作っているもの」「③土地の面積」「④販売が主か,自給が主か」「⑤主業か,副業か」「⑥農家の思いや悩み」の6つの視点から読解。子どもたちは,教科書をじっくり読みながら米づくりや農家の思いをワークシートに書き込んでいきました。
続いて,ワークシートにまとめた成果をもとに,子どもたちは教科書に載っている米づくりの特徴をあらわすキャッチコピーを考えました。子どもたちは「おいしいお米をたくさん作って笑顔をとどけたい農家」「全国の人を笑顔にする農家」「おいしいと言ってもらいたい (お米を作り続けている)超(ちょー)最強な農家」といったキャッチコピーを提案しました。
ここで,草原教授から「この教科書に載っている農家さんは,アルアルな農家さんか,珍しい農家さんだろうか」という問いかけがなされました。子どもたちは,全国の米づくりの販売・自給の割合,主業・副業の割合,平均耕地面積の資料をもとに,教科書に出てくる農家が「アルアルか」を判定。統計とのすり合わせで,販売を主としている点では比較的「アルアル」な農家である一方で,「主業」である点と「面積が広い」点では珍しいことを再確認しました。このように展開1では,教科書には「大規模」「ブランド米をつくる」「全国への販売」を特徴とする米づくりが描かれていることを定式化していきました。




展開2:教科書に登場しない米づくりを説明する
授業の後半では,教科書に登場しない別のタイプの米づくりに目を向けました。まず,草原教授から後半の学習課題「日本の米づくりの特色や課題を表すのに,どんな米づくりを教科書に載せるべきだろうか?」が提示されました。子どもたちは,最後に教科書編集者の溝口和宏先生へ提案することを見通しながら,教科書には描かれていない米づくりを調べていきました。
展開2では,東広島市の2つの田んぼから中継を結び,それぞれの農家さんにインタビューを行いました。一人目は豊栄町の渡辺さん。「台風が来る前に刈り取りができて,おいしいコシヒカリを作っている」「0.5haの田んぼをもっている」「先祖代々の土地をしっかり守っている」と語りました。
二人目は志和町の岩見さん。「ユメマツリは,害虫をよせつけない特徴がある」「化学肥料を使いたくないので,害虫に強い品種のお米を育てている」「0.3haの田んぼで米を,1.3haの畑で野菜も育てている」と述べました。どちらの農家さんとも,田んぼの光景や収穫仕立ての野菜,そして自然の虫の姿を見せながら,米づくり意義や悩みを語ってくださりました。
●悩み・苦労・工夫は何か?
・渡辺さん:「草刈りが体力的に大変。休みの日に朝5時から行っている」
・岩見さん:「シカを避けるために,田んぼの周りに電気でピリッとさせる紐をめぐらせている」「小さいころから生き物が好きで,薬を使わない農業がしたかった」
●販売か,自給か?
・渡辺さん:「少し販売している,最近は自給と販売が半々くらい」「普段は西条で整体師として働いていて,1か月に3日程度,農業に取り組んでいる」
・岩見さん:「すべて販売。主業」
この後,渡辺さん,岩見さんのお話を踏まえて,それぞれの農家さんの特徴をキャッチコピーで表現していきました。渡辺さんには,「限られた時間で米を頑張って育てる米米(マイ)スター」「整体師と農家の二刀流」。岩見さんには,「生き物を大事にする農家」「米と野菜の二刀流」といったキャッチコピーが与えられました。この活動を通して,子どもたちは各農家の経営上の特色を自分なりの言葉で概念化することができました。




終結:これからの教科書の米づくり表現を提案する
終結では,教科書に載せたい米づくりを溝口教授に提案します。①現行教科書の祢津さんや三輪さん,②渡辺さん,③岩見さん,④その他,の4つの選択肢から,「ぜったいに載せるべき農家(No.1)」と「次に載せるべき農家(No2)」を選び,Googleスライドに位置づけていました。その結果,絶対に載せるべき農家として最も票が集まったのは岩見さん,次に載せるべき農家として票が集まったのは渡辺さんでした。
「③渡辺さん」に選んだ学級に理由を尋ねると,「日本の統計的に多数派である副業農家さんの方が,日本の実態をよく表すのではないか」と答えました。「④その他」を選んだ学級の子どもたちは,「米とひまわりスイカを作っている自分たちのまちの農家を取り上げて欲しい」「3つの農家をのせて比較するといい」と述べ,日本の米づくりを一つのタイプだけでは表せないことを強調していました。
子どもからの提案を受けて,溝口教授からコメントをもらいました。溝口教授は「日本全体から見て珍しい農家さんを教科書に載せているのは,そういう米どころの大きな農家さんが「多くの人の食生活を支えている」ことを伝えたいから」。「しかし,渡辺さんや岩見さんのような農家もたくさんいて,日本の米づくりを伝えるのに大切なので,今日のことを担当者に伝えたい」と応答しました。子どもたちは,自分たちの意見が教科書づくりに関わる人に届くことに,手応えを感じていました。

岩見さんは絶対載せるべき!

教科書を手がかりに,日本の米づくりの見方を問い直す
本実践は,教科書の記述と子どもたちの米づくりに対する素朴な認識を出発点にしました。5年生の社会科教科書には,大規模で米を主業として生産・販売する農家の姿が描かれています。しかし,本実践では,小規模で米を副業的に自給する農家や,小規模ながらも主業として安全な米の生産・販売に努める農家を取り上げ,比較することで,教科書が伝える米づくり像を揺さぶろうとしました。
その結果,子どもたちは教科書が示す一つの「日本の米づくり像」を受け入れるだけではなく,多様な当事者と統計データとの対話を通して教科書を批判的に読み直し,自分たちなりの「日本の米づくり像」を再構成していきました。本プロジェクトでは,引き続き多様な他者や専門家とつながる場づくりを通して,子どもたちが既存の言説を問い直し,社会に向けて言説を生み出していく授業をデザインしていきます。
授業実施者Ch1:草原和博
授業実施者Ch2:瀧本耕平,井手歩実
授業補助者:各小学校での授業担当教員
副業農家(豊栄町)からの中継:神田颯
七三農園(志和町)からの中継:中西貴公,三井成宗
学校技術支援担当(東広島市内小学校):山口祐樹,濵田莉緒,橋本芽李,湯川茉琴,長野睦生,藤田陽輝,上中蒼也,宮﨑颯太
学校技術支援担当(北海道釧路市内小学校):玉井慎也,佐々島忠佳
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,岩切祥
事務局機器担当②(東広島市立平岩小学校):宮本侑弥,宇ノ木啓太,前絃葉
開催報告担当:中西美里
協力:豊栄町の農家・渡辺仁様,七三農園(出演:岩見潤治様)
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!




