指導案・教材・YouTube動画
概要
2023年5月17日,東広島市内小学校9校17学級(寺西小学校,川上小学校,原小学校,吉川小学校,志和小学校,高美が丘小学校,下黒瀬小学校,豊栄小学校,河内小学校)の4年生(507名)と鹿児島県徳之島町立花徳小学校1学級,北海道教育大学附属釧路義務教育学校2学級の4年生(55名)が参加し,「自然と人々のくらし」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は広域交流型オンライン学習企画初の取り組みとして,東広島市の小学校と,広島県外の小学校を接続しました。参加校の位置を活かして,「3つの地域の農業で,「とれる作物」「つくる時期」が違うのはなぜだろう?」をテーマに,気候や地形の違い,それに合わせた農家の工夫を探究しました。
北海道と鹿児島と東広島の違い
1時間目は,まず「3つの地域」に関する違いを捉えることからスタートしました。この時間では児童が各地域の地元自慢をしあいます。日本の南西に位置する徳之島町からは,学校の周辺にハイビスカスが咲いたりパパイヤがなったりしていること,桜の開花は1月下旬で,5月には海開きが行われることなどが紹介されました。一方で冷涼な北海道釧路市では,5月に桜が満開になったことが伝えられました。さらに東広島市からは,米づくりや酒造りが盛んで,ちょうど田植えが始まった様子が示されました。3つの地域が同じ日本にありながらも,季節感が大きく異なることを認識しました。そして,学習課題として「3つの地域を農業に注目して,徹底的に比べていこう」が設定されました。
次に,「3つの地域における農業の違い」を探究していきました。ここでは,米・ジャガイモ・さとうきび・りんご・バナナの5作物が,3つの地域で「とれる」「とれない」を予想します。児童らはGoogleフォームを通じて,各作物が3つの地域で作られているかを予想し,回答していきました。
予想が集まったら答え合わせです。草原教授から各地域の事実が示されました。米は東広島市でとれますが釧路市や徳之島町ではとれません。ジャガイモは東広島市,釧路市,徳之島町の全ての地域でとれますが,とれる時期は違います。さとうきびは徳之島町でとれますが,東広島市や釧路市ではとれません。りんごは東広島市でとれますが,釧路市や徳之島町ではとれません。バナナは東広島市や徳之島町でとれますが,釧路市ではとれません。これらの事実を知った児童からは,「なんで米が全国でとれないのか」「なんでリンゴやバナナが東広島市でとれるのか」「なんでジャガイモはとれる時期が違うのか」などの「不思議」や「変だな」が示されました。これらの疑問を受けて,「3つの地域で「とれる作物」「つくる時期」が違う理由」を探究していこう!という学習課題が設定されました。
とれる作物が異なるのは,「気温」のせい?
2時間目は,農業生産が3つの地域で異なっている理由について,仮説を立てるところから始まります。各学級から出た仮説はGoogle ジャムボード上で一斉に共有されました。その結果,多くの児童が,作物の採れ方が違う理由として「気温」を挙げていることが明らかになります。そこで,とれる作物や時期が違うのは,本当に気温なのかを検証していくことになりました。
まず調べたのが,ジャガイモの作り方です。ジャガイモは3つの地域で共通にとれますが,栽培時期が異なります(釧路は夏,徳之島は冬,東広島は夏と冬の2期作)。そこで,3つの地域の月別気温を示した折れ線グラフを見て,3つの地域は気温が違うこと,北ほど温かく,南ほど寒いこと,各地域ではジャガイモの生育気温(15度から20度)にあう季節にそれを栽培していることに気づきました。ジャガイモを手がかりに,仮説のとおり,気温と緯度が農業の違いに影響していることが分かりました。
次にリンゴの作り方を調べました。児童らの仮説に反して,緯度がさほど高くない(北ではない)東広島市でもリンゴが育てられています。それはなぜか。りんご栽培で有名な豊栄小学校の児童が率先して,その理由を説明しました。豊栄町は,標高が400-500mと高いために涼しいこと,特に冬になると10~30cmの積雪もあり,リンゴの生育に適した地域であることが説明されました。リンゴを手がかりに,緯度だけでなく標高も,気温と農業の違いに影響していることが見えてきました。
最後にバナナと米の作り方を調べました。なぜ暖かくない東広島でなぜバナナが育つのか,なぜ暖かい徳之島で米を作っていないのか。なぜ北海道は米どころなのに釧路では米を作っていないのか。緯度や標高だけでは説明できない農業の違いを,地域住民へのインタビューを通じて探究していきました。東広島のバナナ農園(勝梅園)では,ビニルハウスや加温機を使って年中暖かい気候を人工的に作っていること。徳之島では,1970年代の減反政策の影響で,米づくりから儲けの大きいサトウキビに転作したこと。釧路では,寒い気候と国の方針を受けて,米づくりから牛の飼育に変更したことが分かりました。このような事例から,農業の違いには人々の技術や国の政策が影響していることが見えてきました。
「とれる作物やつくる時期を決めている『自然の力』と『人間の力』では,どちらが大きいか」
授業の最後に,「とれる作物やつくる時期を決めている『自然の力』と『人間の力』では,どちらが大きいか」を検討しました。2つの言葉の間に不等号を入れる活動をしたところ,約6割の児童が「自然の力」が大きい,残る約4割の児童が「人間の力」が大きいを支持しました。川上小学校の児童に理由を問うと,「自然の力のほうが大きい」「でも勝梅園のように人間の工夫で暖かい気温をつくることができる」「でも自然を無理やり変えるのにはお金がかかって大変,自然の力は大きい」…と自分たちの意見が次々飛び出しました。こうした自然条件(緯度・標高)と人文条件(技術・政策)の強さをめぐる論争は,これからの米づくりの学習にもつながっていくことでしょう。
他の地域・他の県に地域認識を開いていく
2時間の学習を通して,児童の「自然と人々のくらし」に対する認識は次第に洗練されていきました。とくに「(徳之島で1月に桜が咲くことを聞いて)え~?」,「(東広島のビニルハウスの温度計の40度を見て)すご~!」「(釧路の教室にストーブがあることを見て)わ~!」。これらの児童の声は,様々な地域とつながることで得られたリアルな地域認識です。本授業は,教科書の世界や居住地域に閉ざされることなく,他の地域・他の県に地域認識を開いていくことで,5年生なりの「地理的な見方・考え方」を育てる社会科授業を提起した点に意義があります。
授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
勝梅園からの中継:田中崚斗,澤村直樹
学校技術支援担当(東広島市内小学校):海老名和華,小野郁紀,片岡望咲,國重和海,黒岩佳太,近藤郁実,重野聖怜,谷野善則,服部美紀,藤原武琉,松原信喜 ,村上遥大,山本亮介
学校技術支援担当(徳之島町立花徳小学校):川本吉太郎
学校技術支援担当(北海道教育大学附属釧路義務教育学校):玉井慎也,亀田真奈歌,岸本考史,瀬川正義,細野暉紘
事務局機器担当①(広島大学):小野創太,草原聡美,髙須明根
事務局機器担当②(川上小学校):内田智憲,両角遼平,吉田純太郎
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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