指導案・教材・YouTube動画
概要
2022年12月7日,東広島市内小学校2校4学級(原小学校,寺西小学校)の5年生(120名)が参加し,「情報を伝える仕事」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「情報を届ける仕事」をテーマに,地域のフリーペーパーや検索エンジン,動画配信サービス等の様々なメディアに注目し,情報産業が産業として成立している収益システムを探究することをめざしました。
『プレスネット』って新聞?
導入部では,一般的な新聞とフリーペーパーの違いを実感する場を提供しました。東広島市では,プレスネット社が「ザ・ウィークリー・プレスネット」を発行しています。地域のニュースや新店情報等が盛りだくさんの地元密着型フリーペーパーです。しかし,児童への事前アンケートによると,このプレスネットを見たことがあるのは僅か35.4%で,64.6%はその存在を認知していませんでした。プレスネットの記事内容や発行の目的まで気づいている児童はごく少数だったと推測されます。そこで,実際の紙面を提示しながら「プレスネットは『新聞』といっていいの」の問いを投げかけました。中には「(これは新聞ではなく)広告かも」と発言する児童も現れます。一連のやり取りを通して「東広島市には新聞には見えるが,普通の新聞とは少し違う新聞が配られているようだ」との緩やかな共通理解を作ることができました。それを受けて,本時の学習課題「プレスネットには(ふつうの新聞とは違う)どういう特色があるだろう?」が設定されました。
この学習課題に応えるべく,児童はプレスネットに関する調べ学習を進めていきました。まずプレスネット社の仕事を1分にまとめた動画を視聴します。さらにプレスネットと中国新聞との違いを見つけるため,プレスネットの発行数・発行頻度・記事の特色・価格・配布方法・配布先を調べました。児童らは,前時までに学習した中国新聞との比較を意識しながら,プレスネットの実際の紙面を眺めたり,ホームページを調べたりしていきます。その結果,次のことが分かりました。
・プレスネット社は毎週新聞を約60,000部発行している
・(中国新聞は毎日届くが)プレスネットは週に1回発行される
・(中国新聞は広島県や日本・世界のニュースが主だが)プレスネットはおもに東広島市の情報を発信している
・(中国新聞はお金を払って買うが)プレスネットは無料で手に入れることができる
・(中国新聞と同じように)プレスネットも車やバイクで家まで配達してくれる
・(中国新聞は約30%だが)プレスネットは東広島市内約80%の世帯に届いている
プレスネットの特色が浮き彫りになってくると,このような特色あふれるプレスネットの発行に込められた願い(=発行の目的)が気になってきます。プレスネット社にインタビューすると,「新聞を購読していない世帯や,新聞を読むことの少ない若い世代にも地元のニュースやお店の情報を届けるため,無料で新聞を配布しています。東広島市の活性化をはかることがプレスネット社のモットーです」との答えを得ました。
なぜプレスネットは無料なのか?
児童はここで新たな学習課題に直面しました。それは「なぜプレスネットは無料なのか」です。何ページにもわたる紙面を編集し,印刷し,届けるための費用を,だれが払っているのか。無料新聞を出すための工夫を児童に予想させると,2つの仮説が発表されました。1つは補助金仮説。地域の活性化をめざしているプレスネット社は,東広島市から補助金をもらっているのではないかというものです。もう1つは広告費仮説。紙面に地元の情報に関する広告・宣伝を載せることで,収入を得ているのではないかというものです。この仮説を検証するべくプレスネット社にたずねたところ,収入の大半は広告費に支えられていることが語られました。そして実際の広告料の値段表と掲載された広告を照らし合わせて見ていきました。「1面の下の床屋さんの広告は約30万円」「終面の某電器店の全面広告は110万円」と具体的な数字を知ると,児童らは「おおおー」と驚きを隠さずにはいられません。
こうして児童らは,プレスネットの特色が,東広島という地域のニュースと広告を載せた無料新聞(フリーペーパー)であること,またそれを発行できる理由が,広告にあることを見いだしました。
無料のメディアはなぜ無料で使えるの?
2時間目は,1時間目の学びを踏まえて,様々なメディアが無料で提供されているわけを調べていきました。事前アンケートの結果によれば,7-9割を超える児童がYouTubeやGoogle,Yahoo!を使ったことがあると回答しています。これらのインターネットメディアとプレスネットの共通点を尋ねると無料であることに気づき,そこから2時間目の学習課題「これらメディアがなぜ無料で使えるのだろう?」が設定されました。
今回は4つの学級が参加したため,それぞれの学級がYouTube,Yahoo,Google,LINEを分担し,無料になる理由を調べていくことにしました。実際にYouTubeで動画を再生したり,Yahooのトップページを開いたり,Googleで「塾」をキーワードに検索したりしていると,各学級では「ここに広告があるよ」と画面を指さす児童が現れます。担任教師は「この広告は誰が負担しているの」「この広告を押すとどんなページに移動するの(実際やってみよう)」「この広告ページが画面に表示されると,誰が誰にお金を払うの」などの追加発問を行い,広告掲載の意味を考えさせました。また,広告費以外にも(広告を消すサービスの)YouTube PremiumやLINEスタンプの存在などオプションへの課金にも気づき,広告主だけでなく,利用者がメディアにお金を払うことがあることも確認しました。調べ学習を終えてある児童は,「これまで無料だと思って使っていたメディアは,私たちの代わりに会社がお金を払っているから,使えていることがわかった」との気づきを述べました。
終結部では,本学の川口広美准教授からコメントを頂きました。川口准教授は,児童らが情報産業の収益システムを捉えたことを高く評価するとともに,①企業がわざわざお金を負担して広告を出している理由を考えてほしい,②情報を受け取るだけでなく,世界の人たちに情報を発信するためメディアを活用してほしい,とメディアとの付き合い方についてアドバイスしました。
まとめ:新しい情報リテラシー教育の提案
以上のとおり,本授業では,①プレスネットを手掛かりにして情報産業を支える広告(費)という概念を構築し,②それをインターネットメディアにも適用することで,情報産業の収益システムを批判的に再構築させる学習過程を実現しました。またパソコンを使った個人・共同の調べ学習の場を随所に設けました。目標や内容に限らず,方法の面でも情報リテラシーに重点化した情報産業の学習を提起できた意義は大きいものと考えられます。
授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
プレスネットからの中継:佐藤莉沙,田中崚斗,森本敬仁
学校技術支援担当:小田原瞭雅,國重和海,近沢菜々子,藤原瑞希,森俊輔,八木謙樹
事務局機器担当①(広島大学):神田颯,草原聡美
事務局機器担当②(寺西小学校):両角遼平,山下弘洋,吉田純太郎
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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