目次
この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
小寺池からの中継:國重和海,野津志優実
学校技術支援担当(東広島市内小学校):大岡慎治,小野創太,黒岩佳太,藤原武琉,松原信喜,村上遥大
学校技術支援担当(三島村立三島硫黄島学園):川本吉太郎
学校技術支援担当(浜中町立霧多布小学校):玉井慎也,佐々島忠佳
事務局機器担当①(広島大学):大坂遊,田中崚斗,草原聡美
事務局機器担当②(福富小学校):内田智憲,両角遼平,吉田純太郎

2023年9月13日,東広島市内小学校11校20学級(寺西小学校,板城小学校,原小学校,志和小学校,高屋東小学校,東西条小学校,高美が丘小学校,下黒瀬小学校,豊栄小学校,河内小学校,風早小学校)の3年生(514名)と,北海道浜中町立霧多布小学校3年生(5名),鹿児島県三島村立三島硫黄島学園の3・4年生(5名)が参加し,「災害から身を守る」をテーマとする遠隔授業を実施しました。日本の様々な地域の災害と防災対策を比較することを通じて,災害に対する備えのあり方について探究しました。

1時間目は,東広島,北海道,鹿児島それぞれの学校で行われている避難訓練を紹介し合うところからスタートしました。避難訓練は,小学生にとって身近な災害対策で,防災の課題を考える上で格好の素材です。また,3つの地域の避難訓練を比べることで,それぞれの地域で想定されている災害の違いや危機感の程度が浮かび上がります。
東広島からは,風早小学校の児童が訓練の様子を紹介しました。同校は安芸津町に位置する海に近い学校です。同校からは1年に1回,地震と津波を想定した避難訓練を行っていることが紹介されました。まず地震の発生を想定してグラウンドに逃げた後,次に津波を想定して高台にあるお寺へ避難する訓練を行っていることが示されました。また,2018年の西日本豪雨災害の経験を受けて,総合的な学習の時間に5年生が防災マップを作成していることが示されました。
北海道からは,霧多布小学校の児童が訓練の様子を紹介しました。同校は,北海道東部の浜中町にある小学校です。太平洋に面しており,1960年チリ地震による津波では,死者が出たり家屋が損壊する大きな被害に見舞われました。そこで,2週間に1回,津波を想定した避難訓練を行っていることが紹介されました。学校から高台の役場まで走って逃げる動画が共有されて,同校の高い防災意識や危機感が共有されました。また,あらかじめ児童の避難先を保護者と共有していく連絡票があることも紹介されました。
鹿児島からは,三島硫黄島学園の児童が訓練の様子を紹介しました。同校は,薩南諸島北部の硫黄島にある学校です。島には活火山の硫黄岳がそびえたっていて,噴火の被害が懸念されています。そこで,1年に2回,噴火を想定した避難訓練を行っていることが紹介されました。児童一人ひとりが,家庭や学校に備え付けのヘルメットを被って,海上保安庁の船に乗って島外へ脱出する訓練をしている様子が写真で示されました。また,島に近づく台風の被害とそれに対する備えの必要性についても語りました。
このような防災訓練の相互紹介を受けて,児童は,各地域の備えに感心する一方で,本当に災害が起きた時の被害も気になってきました。そこで学習課題として「災害に備えて,私たちは何をしたらいいだろう?避難訓練だけで大丈夫かな?!」が進行役の草原教授から示され,防災対策について学習する雰囲気が整いました。
この学習課題に応えるために,まず一人ひとりが災害の種類と,それが起きやすい場所を知ることから始めることにしました。今回は20の参加学級で4つの災害(浸水,土石流,津波,噴火)を分担して調べていきました。各学級の成果は小型のホワイトボードにまとめられ,Zoomのギャラリービュー機能で共有されました。以下は,各学級の報告の概略です。「どの災害でも周りより土地が低いところは特に危ないかも」と進行役の草原教授がまとめると,後述する熊原准教授が,「噴火の場合はあまり関係ありません,火山の噴出物は場所を問わず降ってきます」と補足しました。
・浸水:川の近く,コンクリートが敷き詰められたところ,土地の低いところ
・土石流:傾斜が急な山の近く,土地の低いところ
・津波:海の近く,土地の低いところ
・噴火:火山の近く
なお,土石流については,東広島市高屋の小寺池に近い5年前の災害現場から,熊原康博准教授が中継で解説を行いました。谷筋にそって土石流が発生し,大きな岩を運んできた痕跡を示すことで,災害の恐ろしさが生々しく示されました。ここで1時間目は終了です。

2時間目は,学習課題に応えるために,災害に対する社会の備えを調べていきました。今回は,20の参加学級で6つの施設(警戒看板,防災ラジオ,河川カメラ,自然災害伝承碑,防災倉庫,砂防ダム)を分担して調べていきました。児童らは地域学習用の副読本に掲載された資料も参考にしながら,「誰が,何のために」つくった施設かをまとめました。その成果は,Google Slideに入力され,全体で共有されました。以下は,各学級の成果の概略です。
・警戒看板:県が,いろいろな人に危険なところを知ってもらうために作った。
・防災ラジオ:市が,避難の情報を早く知らせるために作った。非常灯としても作った。
・河川カメラ:国や県や市が,川の水位の状況を知らせるために作った。
・災害伝承碑:昔の人が,亡くなった人の思いを受け継いでもらうために作った。
・防災倉庫:市や地域の人が,食べ物や水など生活に必要なものを入れておくために作った。
・砂防ダム:国や県が,土石流をくいとめるために作った。
県外の2校は,東広島市の学校が施設の説明をするたびごとに,私たちの町の防災施設を紹介してくれました。霧多布小は,津波に備える水門や防潮堤,標高表示看板などを,硫黄島学園は,噴火に備えるヘルメットや火山監視カメラ,耐熱シェルター,ヘリポートを紹介しました。3つの町で,①想定している災害の種類や災害に備える施設のカタチこそ違えども,②危険を周知したり,災害の影響を小さくしようとする施設の目的では似ていることがよく分かる発表となりました。

最後に,2時間の学習のまとめとしてアンケートに取り組みました。「防災訓練を行うだけでなく,一人ひとりが危険な場所を知り,みんなで対策施設を作っておけば,私たちは絶対に安全だ」。この主張に対する賛否を,一人ひとりの児童がタブレット経由で表明しました。回答は,全体のうち約40%が賛成,約60%が反対と,賛否が拮抗する結果となりました。もちろん正解はありません。子どもに理由を尋ねると,「訓練をしておけば十分に安心できる。だから賛成!」,「どれだけ準備しても思わぬことが起きるから『絶対』安心とは言えない。だから反対!」など,本日の学習や過去の経験をもとに,災害対策の可能性と限界について発言できていました。熊原准教授は,小寺池近くの災害伝承碑前から中継で,災害をほどよく恐れることの大切さを伝え,また子どもたちの学びの深まりを讃えました。

県外の小学校と結んで授業を行ったのは,2023年5月期に続いて2回目です。日本各地の小学校とつながることで,自然がもたらす災害の多様性を知る一方で,社会的備えの共通性に気づくこともできました。さらに自然災害への危機意識が異なる他校の取組を知ることで,自分たちの防災意識の(これでいいのか!?)を振りかえる機会になりました。
今後もEVRIは,東広島市内を越えて,全国に「広域交流型オンライン学習」のネットワークを拡大していきます。全国の自治体・学校の関係者の皆様,仲間になりませんか。参加希望のご連絡を待っています。

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!