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概要

2024年9月11日,東広島市内小学校9校13学級(原小学校,八本松小学校,小谷小学校,御薗宇小学校,板城西小学校,上黒瀬小学校,下黒瀬小学校,豊栄小学校,河内小学校)の4年生(344名)とスペシャルサポートルームの児童生徒(4名),豊栄フレンドスペースの生徒(2名),北海道浜中町立霧多布小学校(1学級6名),鹿児島県徳之島町立花徳小学校(1学級16名),鹿児島県鹿児島市立桜峰小学校(1学級9名),広島県廿日市市立平良小学校(1学級33名),高知県高知市立第六小学校(1学級33名)が参加して「自然災害からくらしを守る」をテーマとした遠隔授業を実施しました。今回は,「防災訓練だけで備えは十分か!?」と題して,自然災害に対する個人や地域,社会の備えの意義を知り,評価できることを目指しました。また太平洋に面して津波の危険のある霧多布小や花徳小,桜島の中で火山とともに暮らす桜峰小とつながることで,地理的条件による自然災害への備えの相違点と共通点に気づくことを意図しました。授業全体の進行は,草原和博教授が務めました。

各地の防災訓練を聞こう

本時は,異なる地理的条件下で暮らす学校が,各校の防災訓練について発表することから始めました。例えば,東広島市の板城西小は,年に1回,地震に備えて,机の下に身を隠したり校庭に走って逃げたりする訓練をしていると教えてくれました。津波の危険がある北海道の霧多布小は,月に1回,高台の役場に向かって階段を駆け上がる訓練をしていると発表してくれました。同じく津波の危険がある花徳小は,坂道を登って60mの高台に逃げる訓練をしていると教えてくれました。噴火の危険がある鹿児島県桜島の桜峰小は,ヘルメットをかぶって登下校したり,年に1回島から逃げる訓練をしたりしていることを報告しました。子どもたちは,それぞれの土地で,防災訓練の内容や頻度,そして真剣度が違うことに気が付きました。

ここで,オンラインアンケートを実施しました。参加した児童は,「防災訓練をしていれば,そなえは十分だ!」に「はい・いいえ」で答えました。結果を見ると,84.2%の子どもが,「いいえ」と考えていました。「いいえ」と答えた子どもたちは,「訓練だけではだめ」で「防災グッズや水」も大事と指摘しました。このように学校での防災訓練の限界に気が付いたところで,本日の学習課題「災害に備えて,私たちは何をしたらよいだろうか?」が共有されました。

この後は,導入の「①学校(防災訓練)」に加えて,「②個人にできること(ハザードマップを知る・読む)」や「③地域でできること(先人のメッセージを忘れない)」,「④国や市町村でできること(インフラを整備する)」の4つの視点から,自然災害への備えを分析していくように展開されました。

災害に備える「合言葉」をつくろう

展開1では,津波・噴火・土石流に備える合言葉を作る活動を通して,個人にできる備えについて考えました。ここでは,zoomのブレイクアウト機能を用いて,北海道(津波)・鹿児島(噴火)・東広島(土石流)のハザードマップを分担して分析しました。例えば,津波グループでは,北海道の「はまなか防災津波マップ(令和4年)」を分析しました。地図では,水で浸かる範囲がピンク色で塗られています。分からないことは地元の霧多布小の子どもたちに質問して教えてもらいました。そして,地図や写真を見て分かったことから,「高台へ逃げろ」「海に近づくな」といった合言葉を作りました。噴火グループでは「海に逃げろ」「シェルターに逃げろ」「山に近づくな」,土石流グループでは「山の谷間には近づくな」「山からはなれた高い場所に逃げろ」といった合言葉が作られました。子どもたちは,災害の種類によって危険な場所が違うことに気づくことができました。

次に,地理学を専門とする熊原康博教授に,土石流災害の場所から中継で解説いただきました。熊原教授は,高いところに囲まれた谷間で土石流が起こりやすいこと,土石流の速度は速くて人間は逃げることができないことを教えてくださりました。また,子どもが作った合言葉に対して「各災害にあった合言葉を作れていた」と評価してくださりました。ここまでの学習を踏まえて,私たちは,一人ひとりが,災害の種類とそれに応じた「危険なところ」を知ることの大切さを確認しました。

碑に込められたメッセージを読み取ろう

次に展開2では,過去に災害が起きた場所にある「碑」を紹介し合うことで,地域にできる自然災害への備えについて考えました。まず,霧多布小と桜峰小の子どもと熊原康博教授が身近な碑を紹介しました。霧多布小の子どもは,1960年に起きたチリ地震津波で亡くなった人を悼み,次の被害を出さないことを願う親子を模した碑があることを報告しました。桜峰小の子どもは,1914年の桜島の大噴火での被害と噴火が起こるまでの経緯を記した碑を紹介しました。熊原先生は,1945年の枕崎台風で小寺池を土砂で埋める大きな土石流が起きたことを記した碑があることを教えてくれました。これらの碑の内容を踏まえて,碑を作った人たちの思いやねがいを予想しました。参加した各学級からは,「忘れてはいけない」「これ以上たくさんの人が亡くならないように」「ここは危険だよ」というメッセージがあるのではないかと考えを述べてくれました。

ここで,熊原康博教授が子どもたちの発表にコメントをしてくれました。熊原康博教授は「意味をきちんと調べることができていた」「石に残すことで半永久的にメッセージを残すことができる」と述べました。また福山市の小学生は,校庭に残る自然災害伝承碑を調べて,それを国土地理院の地図に載せることができたことを紹介しました。ここまでの学習を踏まえて,地域で過去に起きた「災害を忘れない」ことの大切さを確認しました。

災害の備えの仲間探しをしよう

続いて展開3では,災害が起きそうな場所に作られている施設を分類する活動を通して,社会にできる自然災害への備えについて考えました。子どもたちは黒板に張られた9枚の写真をじっくり眺めます。写真には,防災行政無線や防潮堤,津波救命艇,噴煙状況カメラ,堰堤,退避壕,防災ラジオ,砂防ダム,防災倉庫が映っています。これらの9枚の写真を学級内で議論しながら分類(仲間分け)し,同じ仲間の写真にタイトルをつけていきました。最後に,参加した18学級の行った分類とタイトル付けを,Googleスライドで確かめていきました。分類はいずれの学級ともほぼ同じでしたが,タイトルには個性が出ていました。例えば,ある学級は,防災無線とカメラとラジオを「伝える」系,防潮堤と堰堤と砂防ダムを「止める」系,津波救命艇と退避壕と防災倉庫を「逃げる」系のように,各インフラの目的を表現してくれました。

次に熊原康博教授に分類に対するコメントをしてもらいました。熊原康博教授は「違う災害なのに同じ役割もつ施設があると気がついたのが素晴らしい」と述べました。また東広島市の川の水位を見張るために市が設置したライブカメラ映像と,そのカメラが映し出している現場のようすを中継で確認しました。そして,噴火に備えるカメラは山に,氾濫に備えるカメラは川に,そして津波に備えるカメラは海に向けられていることを確認しました。ここまでの学習を踏まえて,個人や地域の力ではできない,国や市町村がつくる防災インフラの重要性を確かめることができました。

あぶない所を知り,災害を忘れず,施設を作れば,そなえは十分か?

最後に,参加した児童は,「あぶない所を知り,災害を忘れず,施設を作れば,そなえは十分だ!」の命題に,オンラインアンケートで「はい・いいえ」で答えました。「いいえ」が61.5%,「はい」が38.5%でした。導入でのアンケートと比べて,「はい」が増えて,「いいえ」が減りました。これだけ人間が頑張っているんだから,自然災害が起きてもどうにかなる!と考えた子どもが増えたのだと考えられます。例えば,「はい」から「いいえ」に考えが変わったある子どもは,その理由として,「最初,設備で十分だと思ったけど,人間にとって想定外の災害が起きたらもっと危ない」と答えました。一方,「はい」と答えた別の子どもは「防災グッズやシェルター,救命艇を使えば助かるはず」と答えました。子どもたちは,①人間の知恵のすばらしさと②自然のもつ恐ろしさ,両者の間で判断が揺さぶられていたと考えられます。授業の最後に草原和博教授は,「各教室でも引き続きこの点について話し合いをしてみてね」と呼びかけました。

まとめ:「防災」の授業をオンラインで実施する意義

本授業を通して,自然災害の種類と防災の試みを,災害に真剣に向き合う現地の住む人のナマの声を聞きながら学ぶことができました。また今回の授業でも,東広島市,北海道,鹿児島県,高知県がつながることで,自然災害の多様性とその備えの共通性を認識することもできました。引き続きNICEプロジェクトは,様々な地域や学校をつなぎ,多様な経験や知識を持つ市民・専門家をつなげることで,公共的な課題を探究する授業を提案してまいります。

本授業の様子が,鹿児島市立桜峰小学校のHPでも紹介されました。こちらからご覧ください。

この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
災害現場からの中継:熊原康博,田渕雄一朗 ,牧はるか,森俊輔
学校技術支援担当(東広島市内小学校):青山伸洋,大岡慎治,神田颯,清政亮,久我祥平,澤村直樹,露口幸将,山本健人
学校技術支援担当(桜峰小学校):川本吉太郎
学校技術支援担当(霧多布小学校):宇ノ木啓太
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,小笠原愛実
事務局機器担当②(小谷小学校):三井成宗,𠮷田純太郎,田中崚斗
遠隔サポート:大坂遊

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!