指導案・教材・YouTube動画
概要
2025年6月18日,東広島市内小学校5校8学級(東西条小,志和小,豊栄小,河内小,吉川小)の6年生152名に加え,全国各地の小学校9校12学級(北見市立中央小学校,鹿児島市立前之浜小学校,鹿児島市立桜峰小学校,徳之島町立花徳小学校)の6年生60名,スペシャルサポートルーム,フレンドスペース,スクールSが参加し,遠隔授業を実施しました。今回の主題は,「縄文のむらから古墳のくにへ―前方後円墳がないところに歴史はないのか?―」。本授業は,前方後円墳の特徴や分布に注目しつつ,地域における歴史の有無を問い直すものです。子どもたちは自身の地域と他地域との比較を通じて,古代史を多様な視点から考えることができました。授業の全体進行を広島大学の草原和博教授が,各教室での進行を学級担任および大学のサポートスタッフが務め,双方向的な学びが展開されました。


導入:三ツ城古墳に目を向けて
授業は,東広島市にある三ツ城古墳に関するクイズと現地中継からスタート。学芸員の中山さんが答え合わせをしてくれました。子どもたちは,「前方後円墳の形状」「大きさ」「用途」「整備前後の様子」に関する○×クイズに取り組みながら,古墳の基本的な知識を確認しました。
続いて,古墳の公園が整備される前後の三ツ城古墳の写真を比較し,「なぜ荒れ果てた古墳跡を綺麗に公園に整備したのか」と問いかけました。子どもたちは,「昔の王の墓だからきれいにしておかないといけない」「偉人のお墓だから丁重に大事に扱わないといけない」と述べ,地域の歴史的価値や文化財保護の必要性を説きました。中山さんは,「末永く後世に伝えていく必要があるために復元した」と説明しました。
ここで,「後世に保存整備したい!」と思わせた三ツ城古墳の「すごさ」を,パンフレットから読み取る作業に取り組みました。子どもからは,「有力な豪族が埋葬されている」「昔通りの忠実な再現」「とても大きな古墳」のキーワードが共有されました。さらに学芸員による中継解説を踏まえて,三ツ城古墳の珍しい棺の二重構造や,鏡・玉・鉄製の道具などの副葬品とその価値,特徴的な朝顔型埴輪の意味について思索を深めました。
このように三ツ城古墳を事例に古墳の価値を共有したところで,「前方後円墳は,3~7世紀ごろの日本の様子を知るのに,どのくらい重要なのか?」が提示されました。導入を通して,子どもたちは前方後円墳の歴史的な重要性について考える意欲を高めていきました。


展開1:前方後円墳の重要性を問う
導入に続いて,「前方後円墳の重要度を10点満点で採点しよう」とするアンケートに取り組みました。アンケートの結果,多くの学校が前方後方墳の重要性に高得点を付け,価値を大きく見ている傾向がわかりました。高得点をつけた児童からは,「前方後円墳は日本に数少ないものだから大事」といった意見が挙がり,逆に低得点をつけた児童からは「前方後円墳だけで(当時の)全部わかるわけではない」「お墓以外にも重要な道具はある」といった理由が示されました。
続いて,児童は前方後円墳の分布図を確認し,自分たちの居住地が大和王権の影響下の「ウチ」「ソト」「境界」のいずれにあるかを確かめました。
分布のウチ:東広島市の小学校
分布のソト:北見市立中央小学校,徳之島町立花徳小学校
分布の境界:鹿児島市立桜峰小学校,鹿児島市立前之浜小学校
そして「前方後円墳がない地域には人がいなかったのか」「歴史はなかったのか」と問いかけたところ,多くの子どもは「歴史はあった」と反論しました。理由として,「アイヌの人たちが漁業や狩猟,畑作をしていたと学んだ(北見中央小)」「面縄貝塚で人骨が見つかった(花徳小)」「古墳の作り方が伝わっていないだけで,縄文や弥生の暮らしを続けていたのではないか(東西条小)」などが指摘されました。


展開2:地域の歴史を証明する
1時間目の問題提起を受けて,2時間目の前半では,前方後円墳がないところにも「歴史があった」ことを証明する活動にとりみました。さらに後半では,得られた証拠をもとに歴史があったことを証明する「歴史鑑定書づくり」にチャレンジしました。各学級は写真と簡潔な説明文を用いて「歴史鑑定書」のスライドづくりに取り組み,ペア学級とオンラインで鑑賞と交流を行いました。
鑑定書の作品例を紹介します。「ウチ」の学校は,三ツ城古墳をはじめとする前方後円墳の存在から,この地域におけるくにの存在を主張しました。一方「ソト」の学校は,加工された黒曜石や面縄貝塚で出土した人骨やアクセサリーの存在から,独自の生活文化の存在を主張しました。また,「境界」の学校は,九州最南端の前方後円墳(横瀬古墳)の存在や,奈良で発見された隼人盾を証拠にして,大和王権の影響を受けたくにや抵抗していた人々の存在を提起しました。




鑑賞会では「前方後円墳は大和朝廷から認められた権力者がいた証拠になる」「熊の形をした土器や貝塚,人骨などからも,当時の人々の暮らしや文化がわかる」「銅鏡が見つかったので中国との関わりが予想できる」といった気づきが共有されました。


終結:歴史の見方を問い直す
授業の終盤には,導入で実施した「前方後円墳の重要度」に関するアンケートを再度実施しました。アンケートの結果,高得点を付ける学級が増えましたが,なかには低得点を付けた子どもも一定数いました。点数を下げた子どもに理由を尋ねると,「前方後円墳がないところにも歴史があることがわかったから」「他の地域にも歴史があることを知ったから」と述べました。最後に草原教授は,3世紀から7世紀の日本列島には,いろいろな歴史があったことを指摘。前方後円墳は大和王権と関わりの深い地域の歴史を知るのには役立つが,前方後円墳では見えてこない地域の歴史にも目を向ける必要があることを提起しました。


多様な視点で歴史を学ぶ意味
今回の授業では,全国各地の歴史の交流を通して,歴史を複数の視点で捉えることに挑戦しました。特に,教科書には十分に記されていない大和王権の影響の「ソト」や「境界」の文化や暮らしに注目し,大和王権を中心とした歴史とそれ以外の歴史を可視化していきました。こうした学びは,既存の歴史観や社会観を見つめ直し,それらを他者と協働して再構築していく機会となります。引き続きNICEプロジェクトでは,デジタル公共圏を活用した対話的な学びを通じて,子どもたちの市民性を育む授業を提案してまいります。
授業実施者Ch1:草原和博
授業実施者Ch2:近藤郁実,瀧本耕平
授業補助者:各小学校での授業担当教員
三ツ城古墳からの中継:中西美里,藤本真奈
学校技術支援担当(東広島市内小学校):濵田莉緒,山本成瀬,手嶋高嶺,南浦涼介,松岡佑奈,小島拓歩,西川俊,長谷川智洋,圓奈勝己,横田亜美,野津志優実,森涼夏
学校技術支援担当(北海道内小学校):玉井慎也,大戸玲穂,佐々島忠佳
学校技術支援担当(鹿児島県内小学校):川本吉太郎,岩切祥,三井成宗,神田颯
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,上中蒼也
事務局機器担当②(広島市立基町小学校):宇ノ木啓太,晴佐久優花,新谷叶汰
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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