授業実践

【環境を守るわたしたち】環境をともに守る-水俣病は昔の話か,他所事か-

2025.03.05

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概要

 2025年3月5日,東広島市内小学校5校7学級(三永小学校,吉川小学校,志和小学校,高屋東小学校,上黒瀬小学校)の5年生(121名)とスペシャルサポートルーム,フレンドスペース,スクールSの児童生徒が参加し,「環境」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「環境をともに守る-水俣病は昔の話か,他所事か-」と題して,水俣病や身近な公害を手がかりに,環境を守る責任について探究しました。

公害問題○×クイズ!

 本時は,四大公害病の一つである水俣病に関する○×クイズから始めました。クイズは,「水俣病を政府が公害認定をしている記事は約60年前のものだ(○)」「水俣病の患者さんは熊本県に住んでいた人たち(だけ)だ(×,水銀は海を通じて鹿児島にも広がった・新潟にも患者がいた)」「いまの水俣の魚は安全に食べることができる(○)」の3問です。答え合わせは,熊本大学の藤瀬先生がしてくださりました。

 ここで,水俣湾を埋め立てて作られたエコパーク水俣から中継をつなぎました。子どもたちは汚染された水俣湾が埋め立てられ,広い公園になっていることを知りました。中継を見た子どもたちは,「魚が食べられるようになって熊本の人も喜んでいる」「当時の様子がどのように記録に残っているか気になる」といった感想を述べました。子どもたちは,水俣病問題は解決済みだと思っているようでした。そこで,1時間目の学習課題「公害は『終わった』『昔』の話か?水俣病を例に考えよう!」が提示されました。

水俣病は「終わった」のか?

 授業の前半では,水俣病は終わったと考えてよいか,アンケートをとることから始めました。結果は,「終わった」派が67.9%,「終わっていない」派が32.1%でした。「終わった」派の子どもたちは「埋め立てられているから大丈夫」「水銀がでてこないから解決済みだ」と言いました。他方,「終わっていない」派の子どもたちは「妊娠した子どもに水俣病が受け継がれているから終わっていない」と述べました。このように,数字上は「終わった」派がやや多いですが,両方の説が提起されました。

 次に,教科書記述から水俣病は終わっているか,終わっていないのか,について考えました。教科書を読んだ子どもたちは,「教科書にはまだ終わっていないと書いている」「患者と国で合意はできたけど,まだ問題は残っていると書いている」と発表しました。教科書記述の確認を通して,水俣病はまだ終わっていないという考えもあることに気づきました。

水俣病の終わりはいつか?

 続いて,草原教授は,「では水俣病は何をもって終わりと言えるのか」と問いました。次のア~クのどれが終わりとして適当か考えてもらいました。

水俣病の「終わり」と言えそうな出来事

ア:工場の排水がとまる(1968年)
イ:公害と認められる(1968年)
ウ:裁判で患者が勝つ(1973年)
エ:国と仲直り(1995,2010年)
オ:海がきれいになる(1997年)
カ:差別や間違いのうわさがなくなる
キ:健康のひ害がなくなる
ク:そのほか

 ここで,水俣から再度中継をつなぎました。中継先は「百間排水口」です。この排水口は水俣病の「原点の地」とされていて,海に有期水銀が流れ出た場所でした。子どもたちはホンモノの現場を見ることでいっそう水俣病への関心を高めていきました。

 先のア~クの選択肢のどれが「終わり」かを各学級で検討した後,一人ひとりの児童が3つ以内で「終わり」を選ぶアンケートを行いました。結果は多い順に,キが89.3%,オが61.6%,アが36.6%,クが24.1%,カが19.6%…となりました。「健康被害がなくなった」「海がきれいになる」ことが水俣病の終わりだと考える子どもが多かったようです。

 ここで,熊本県民3名に意見を聞いてみました。大学生の渕上さんは「水俣病の患者さんにも症状の差があるので,健康被害がなくなることが終わりだ」と述べました。水俣病について小学校で教えてきた志賀先生は「そのほか」を選び,「海がきれいになったことの事実は重要だけど,これからどのように行動していくのかを考えるべき。これからがスタートだ」と述べました。藤瀬先生も「そのほか」を選び,「熊本の方は水俣病に終りがないと考えている。実際,熊本の新聞記事を検索したところ,水俣病に関する記事は年間に500件ほどあった」と言いました。子どもたちにとって,そもそも終わったと考えていない熊本の人たちの語りにハッとさせられた子どもが多かったようです。

水俣病から学ぶ教訓メッセージをつくろう!

 前半の終わりには,これまでの学習を踏まえて,今の私たちへ水俣病から学んだ教訓・メッセージをつくる活動を行いました。子どもたちは,「わすれない」「未来につないでいく」「他人事としてとらえない」「みんなで考え,行動していこう」などのメッセージを作成してくれました。

 ここで,もう一度水俣から中継をつなぎました。今度は,水俣の慰霊碑からの中継です。碑には「二度とこの悲劇は繰り返しません」と刻まれています。また,碑の下には魚や貝などのオブジェがたくさん置かれています。子どもたちは,人間だけではなく,海や川の生物にも公害の影響が及んでいたことに気がつきました。

 前半の学習を通して,子どもたちは,水俣病について考えることを通して,公害と自分たちの生活との関係を言語化することができました。

公害は「よそ事」なのか?

 授業の後半では,自分たちが住んでいる東広島市を事例に,公害は「遠くの」「よそ」の出来事かを考えました。まず東広島市でも公害が起きていると思うか,アンケートをとることから始めました。結果は,「起きている」派が64.5%,「起きていない」派が35.5%でした。自分たちの住んでいる市で公害が起きているかについては,意見が分かれていました。そこで,2時間目の授業課題「公害は『遠く』の『よそ』の出来事か?東広島市を例に考えよう!」が提示されました。

 ここで,東広島市の公害苦情問合せ件数に関する資料を見てもらいます。資料を見ると,大気汚染や水質汚濁,騒音などの公害に対する苦情の数が書かれています。資料を見た子どもたちは「なぜ野焼きが公害なのか?」「大気汚染ってどうやって起こるの?」といった公害に対する疑問を持ちました。

 そこで,公害問題に関わる東広島市役所の人に,子どもたちがインタビューを行いました。インタビューの際は,ブレイクアウト機能を使って2つのグループに分かれました。一方のグループは不法投棄についてインタビューしました。その結果,「ばれない場所に不法投棄されやすい可能性があること」「毎年少しずつ不法投棄が減っていること」「家庭ごみやタイヤ,家電などがよく捨てられていること」を確認できました。もう1つのグループは,悪臭や騒音・振動,地盤沈下についてインタビューしました。その結果,「飲食店や畑,養鶏場の近くで悪臭が問題になっていること」「建設現場の近くでドリルなどの騒音・振動が問題になっていること」「人によってうるさいと思う音の程度が違うので,みんなが満足できる解決策を考えるのが難しい」といったことを確認できました。このように,子どもたちが自分たちの関心のある公害について調べることができました。

公害を止める責任は誰にあるか?

 終結では,公害を止める責任が誰にあるのか,アンケートをとりました。選択肢は,「会社」「国県市」「私たち」「そのほか」です。アンケートの結果,「会社」が16%,「国県市」が27.2%,「私たち」40.8%,「そのほか」が16%でした。「私たち」を選んだ子どもは,「1人ひとりがごみを減らしていけば,ごみは減るから」と答えました。「そのほか」を選んだ子どもは,「全部に責任がある。私たち国や会社が全部責任をもつことで公害を止めることができるから」と答えました。

 最後に,これまでの授業を踏まえて熊本大学の藤瀬先生に意見を求めました。藤瀬先生は,「当時,工場でつくっていた安いプラスチック製品を国民が使わなければ,公害を止めることができたかもしれない。それを求めた私たちこそ責任を感じるべきだ」と述べました。藤瀬先生の意見を受けて,草原教授は消費者としての責任という考え方を紹介しつつ,公害に対する責任について考えてもらうよう促しました。

さまざまな視点から市民としての責任を考える

 今回の授業では,子どもたちは環境に対する市民としての責任を多面的・多角的に考えることができました。例えば,環境の視点,被害者の人権の視点,人間の健康の視点,海や川の動物の視点,消費者の視点などを意識できました。これは,中継を通して,さまざまな土地の,さまざまな声に耳を傾けた成果といえます。ここに広域交流型オンライン学習の魅力があります。引き続きNICEプロジェクトでは,デジタル公共圏をつくりだす授業を提案してまいります。

この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
東広島市役所からの中継:神田颯,見田幸太郎,後藤嘉希
水俣市からの中継:川本吉太郎
学校技術支援担当(東広島市内小学校):三井成宗,清政亮,久我祥平,川本吉太郎,野津志優実,天野珠希,上中蒼也,手嶋高嶺,澤村直樹,林知里,鶴木志央梨,山本健人,大岡慎治
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,小笠原愛美
事務局機器担当②(吉川小学校):宇ノ木啓太,岩切祥,戸崎夏帆,吉田純太郎

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!