南浦 涼介(広島大学)
ためしに授業のアイディア出してみた
「授業をやってみませんか」の話からしばらく経ってから「いくつか授業のアイデアを出してください」ということになった。
草原先生は緻密に見えて図太いのか,実はずさんなのかはわからないのだけれど,実は僕はこの時点でもまだ,この事業が何かはよくわかっていなかった。(「ためしにアイデアを」と言われて「はーい」と素直に返事をした僕もまた,図太いのか,ずさんなのかもしれない……)
ともあれ,「東広島市の多言語・多文化共生のアイデア」ということだったのだけれども,そんなにかんたんにアイデアが生まれるわけでもない。かの手塚治虫も藤子不二雄もみんなアイデア出しには苦労していたはずだ。アイデアはゼロからうまれるわけではなく,修正と積み重ねの上に存在するのだ。
で,自分のこれまでの引き出しの中をあらためてひっかきまわしてアイデアの原本をつくってみることにした。アイデアの元ネタは,実は前任校の教養教育の授業で行っていたものだった。多言語や多文化社会のありかたに関する授業を大学1年生に行っていた。これはかなり教材研究を重ね,(自称)学生にも人気で評判の授業だった。ということで,これを下敷きにすることにした。
まずはとにかくアイデアをたくさんだすのがいいだろう。ということで,当時の授業のネタから小中学生にとってもおもしろく学びになるもの,東広島市の多言語多文化共生にとっても意味をなすものをふまえて,下記をリストアップした。
- 例1 やさしい日本語は,だれにとってやさしいの?
- 例2 多言語表記はいくつまで?─看板の中にこめる正義─
- 例3 饅頭名統一大論争! 今川焼・大判焼・二重焼・回転焼,勝つのはどれだ!?
- 例4 「絶対に笑ってはいけないニホンゴ!」のやさしさを探れ
- 例5 外国語がうまくなるってどういうこと?─外国人同士で日本語を使うときから─
- 例6 あなたと私はあいさつでつながれるのか?
- 例7 私たちはみんな「東広島人」になれるか?
- 例8 「広島弁」は生き残れるか?
- 例9 世界のことわざを翻訳してみよう
授業アイディアと育成する力のマトリックス表
おお,今見てもけっこうおもしろそうなアイデアがあるなあと自画自賛。ただこれだとよくわからないところもある。ということで,下のようなマトリックスをつくって,それぞれのアイデアがどんな力をつくるかの観点からつくりなおしてみました。
例に込められたタイトルはその後検討。「もう少しキャッチーに」という(新人漫画家にとっての地獄の編集長のような)草原先生の言葉に,「キャッチーさのセンスはいろいろだけどなあ……」とぼやきながら,まあそれでも自分でもよくわからんものもあるしなあとつくりなおし。
最終的には,次のような形で市教委への提出と相成ったのだ。
時期 | 内容 | 学校・学級作りとの関係 | 内容が伴う観点 | ||||||
街のグローバル化 | コミュニティ | コミュニケーション | ことばを分析する | ことばを提案する | 言葉の力関係 | 言語と言葉の関係 | |||
5月 | やさしい日本語のやさしさとは? | 学級づくり 学校づくりとの連関 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
7月 | 「○○弁」は生き残れるか? | 転入生も含めて「自分たちの身近なもの」への目線 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ☆ | |
10月 | 上手に外国語をつかいこなすってどういうこと? | 外国人の人が日本語を用いることをみることで,学身近な外国からの友人の日本語の捉え方を見直す | ☆ | ○ | ★ | ||||
12月 | 多言語表記は何個まで? | 市内の多様な言語を使う人たちへの目線を持つ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
2月 | 私たちはみんな「東広島人」になれるか? | まとめとして,「誰もが東広島人」であることの視点をつくる | ☆ | ★ | ○ | ||||
番外 | 「●●まんじゅう」はなんて呼ぶべき? | 番外の朝の時間などで使える小活動 | ○ | ○ | ○ | ☆ |
「社会科」以外で授業を行うことのむずかしさ
なぜ僕は「まんじゅう」の名前を最後までやりたかったのかは今になると謎。「回転焼」「大判焼」「今川焼」の闘いはおもしろいんだけれどなあ……広島は二重焼きとか言うしなあ……。
ただ,東広島市教育委員会として検討するときにここで出たのは,これまで実施されてきた「社会科」の場合は,学校は自分たちが年間計画の中でやることになっている社会科の単元をオンライン事業の授業に代替することができるので手が挙げやすい。
でも,こういう「総合」的な授業は,東広島市では総合的な学習の時間はすでに年間計画で市のカリキュラムがかなり動いており,「入れる隙間がない」ということもある。多文化共生の授業は多岐の場所にかかわりつつも,「ここ」という場所がないのだ(だから日本ではなかなか実施されない弱さを常に持つ)。
なので,初年度ということもあって,このなかから3つ程度を市教委で検討してもらい,成案とすることになった。
かくして,2024年度に
- 5月 「やさしい日本語」の「やさしさ」って何だ?
- 11月 外国語を「上手に」つかいこなすってどういうこと?
- 1月 外国語の案内板,どの言葉をのせる? たくさんのせる?
を実施することに決まったのだ。
2023年の春に広島大学にやってきました。「先生」の仕事は23年目,大学の先生の仕事は14年目,広島大学の先生の仕事は2年目の古米のような新米です。授業や多文化共生の教育の仕事が大好きですが,ラーメンも好きです(最近控え中)。
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