南浦 涼介(広島大学)
多言語お知らせをさがして〜広島市内を探索
1月某日朝。僕は広島市の中心部,基町にいた。東広島市外から参加することになっている基町小に,内容の説明とともに,教材として近隣にある多言語掲示を探しに来ているのだった。
基町小学校への訪問にはまだ1時間ほどある。そこでまず,小学校の近隣にある地域のショッピングセンター(商店街)を歩くことにした。もともと地域自体が外国の人も多く住む地域であるから,きっと多言語表記のものも多くあるんじゃないだろうかと思ったからだ。
それほど広い商店街というわけではない。ただ,案外「多言語表記」が多いわけでもない。もちろん「全くのゼロ」というわけでもない。いくつか発見できたのは,マンションの柱などに立っている,市で造られた「避難指示」などの看板である。あるいは,道路の工事をしているため「入ってはいけません」の看板だったり。


こうしたしっかり印刷されているもので,とりわけ「注意を促す」ものは多言語になっているものが見られた。ただ,例えば商店街のそれぞれのお店に,お店の人が多言語表記をつけるというようなものはあまり見られないのだなと思った。
それでもいくつか,地域の自治会のイベント案内のポスターやゴミの出し方などに中国語が使われていたりするのを見つけた。思ったよりも「多言語表記」って多くないんだなあと思いながら,学校訪問の時間が近づく。(ちょうどその頃に開いた,中国の方がやっている八百屋さんは,お店の品物がたくさん,なんと「中国語だけ」で書かれているものもあって,これもすごく面白かった! ただ勝手に写真を撮るわけにもいかないので記憶に留めるにしている笑)
「多言語お知らせ」が意外と少ないのはなぜ?
学校の校長室で,今回の実践にも参加してもらえるかどうかの案内をし,地域にある多言語表記を教材として探しているという話を校長先生ともした。
「ありますあります」と校長先生。写真にとってくださっていたようで,見せてもらったのだ。ただ,僕がさっき見たものと割と重複していた。
「たしかにですね。ただ,案外店の人や地域の人が『サッと』つくったような多言語表記ってみかけないんですねー」と僕がいうと,校長先生,「たしかにそうですね−」とのこと。
校長先生との話では,どうも,「多言語」にするためには,なんとなくつくる側が「ちゃんとその言語のことを知っていないとつくりにくい」という意識が働くからか,躊躇してしまうんじゃないか。その結果,「公的なお金でしっかりとつくる」ようなものでないと多言語表記になりにくく,そのため,内容も「絶対必要な,安全にかかわるようなもの」に限定されていくんじゃないかということだった。
「ただ,地域のほうでも,外国の人との共生は大切だという意識はかなりでるようになっていて──」ということで,それで自治体のイベント案内などに中国語をつけてみることなどが試みられるようになってきているということだった。
たしかに,その言語を知らないと多言語表記をつくるって,心理的にハードルがあるのだなあということで,新しい「多言語表記づくりの難しさ」を知ったのだった。
東広島市にもあったぞ,多言語お知らせ
東広島市にもどって,今度は東広島市で外国の人も多く利用するところで「注意系」ではない,「サービス」や「役立ち」系の多言語表記がないかと思って,サンスクエアにあるコミュニケーションコーナーに行ってみた。入ってみると,やはり,こうした外国の人が利用することが前提になっている場所は「多言語」にあふれていた! 本の貸し出しについて,イベントについて,日本語教室の案内について,いろいろな「多言語お知らせ」がある。
中でも素敵だったのは「ランドセルの貸与」の多言語お知らせ。外国から転校してきたときに,日本の学校で当たり前のように使っているランドセルを持っていないし,値段も高いということで,ここでランドセルを貸与したり譲ったりするしくみがある。このお知らせは素敵だなあとおもっていた。

こうしたフィールドワークを経て,「多言語お知らせ」がどうしても「注意系」になりやすい背景を知ったり,「サービス系」「役立ち系」のものが少しはあることや,その大切さや豊かな感じの大切さを知り,このこと自体を子どもたちと考えていくのがいいなと,改めて思ったのだった。
2023年の春に広島大学にやってきました。「先生」の仕事は23年目,大学の先生の仕事は14年目,広島大学の先生の仕事は2年目の古米のような新米です。授業や多文化共生の教育の仕事が大好きですが,ラーメンも好きです(最近控え中)。
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