指導案・教材・YouTube動画
概要
2026年6月10日(水),広島・北海道・鹿児島の15校27学級の5年生(計658名)と,各地の教育支援センターの子どもたちが参加し,遠隔授業を実施しました。
今回の授業の主題は,「あたたかい土地/寒い土地のくらし-土地でとれる作物を決めるのは,気温と緯度だけか?-」。米とリンゴという身近な2つの作物に着目し,「とれる・とれない」の理由を,緯度・標高・気温・水といった自然の力と,農家の工夫・国の方針・ライバル作物・食生活の変化といった人間の力の両面から多面的・多角的に考えました。授業では,広島大学の草原和博教授がコーディネーターを,担任の先生が各教室の指導を務めました。
広島県内小学校9校21学級562名(寺西小,郷田小,平岩小,高美が丘小,豊栄小,河内小,龍王小,向原小,上下南小)
北海道内小学校4校4学級71名(大楽毛学園,苫前小,館小,中央小)
鹿児島県内小学校2校2学級25名(平川小,尾母小)
・いろいろな県が,それぞれの地域に合った農産物を作っていることが分かりました。ほかの県の5年生と勉強して,自分たちだけでは考えられないこともあり,「そういう考えもあるんだ」「確かにそうだな」と考えを深められました。
・この授業を通して,日本だけでも大きな気温の差があり,それによって農作物にも影響があることが分かった。そして,気温的には作ることが可能な農作物でも,国の方針などによって作らないことがあることが分かった。
・みんなの意見や,みんなの考えを大切にしたい。他校の人とつながって授業するのは,みんなの意見を知れるから楽しいし,大切だと感じた。また機会があれば,いろいろな人とつながって授業したい。自分から発表することや意見を出して,友達や先生と交流することも大事だと思った。
・緯度や気温以外にも,自然の力や人の力で土地の作物が決まることを初めて知りました。なので,私の地域の作物はどのようにして決まったのか,調べてみたいです。
・授業最後の天秤のところで,私は自然の方に天秤を傾けましたが,今考えると,どちらも半々だと思いました。


導入:日本の南北の広がりと作物
授業は,参加校の地域の気温クイズから始まりました。子どもたちは,それぞれの地域の気温が進行教員の予想よりも低いと思う場合はマル,高いと思う場合はバツを体で表しながら予想しました。最北の苫前小は18℃,中間に位置する上下南小は18℃,同じ広島県内の寺西小は24℃,最南の尾母小は25.5℃でした。各地の気温を比べることで,子どもたちは,日本が南北に長いことや,緯度の違いによって気温が変わることを確認しました。また,同じ広島県内でも地域によって気温に違いがあることにも気づきました。
ここで,草原先生は「緯度が違うと,他にどんな違いがあるのか」と発問しました。子どもたちは,「海産物が違う」「農作物が違う」「家のつくりが違う」といった考えを共有しました。これらを踏まえ,学習課題「土地でとれる作物は,緯度と気温で決まるのか?」が提示されました。
展開1:自然条件に注目して仮説をつくる
展開1では,まず,学習課題に対して4択アンケート(①はい,②少しはい,③少しいいえ,④いいえ)で自分の考えを表明しました。結果は,91%の子どもが①②を選び,「土地でとれる作物は,緯度と気温で決まる」仮説を支持。一方,学級別に見ると「いいえ」の割合が高い学級もあり,館小学校の子どもからは「標高も影響するから,緯度と気温だけで決まるというのは言いすぎだ」といった意見も出されました。
続いて,米とリンゴに注目し,この仮説を検証しました。子どもたちは,米の生産量上位5県と生育に適した気温(17-25℃),リンゴの生産量上位5県と生育に適した気温(6-14℃)の資料を手がかりに,北海道・広島県・鹿児島県でそれぞれの作物がとれるかを○×で予想しました。結果を全体で確認すると,米については北海道・広島県で「○」が多く,鹿児島県では予想が分かれました。リンゴについては,北海道では「○」が多く,広島県では「△」,鹿児島県では「×」が目立ちました。


ここで,参加校の児童への聞き取りと中継映像で予想を検証しました。すると,北海道釧路市の大楽毛付近では米がとれないこと,北海道北見市と広島県の豊栄町でリンゴがとれること,鹿児島県の徳之島町では田んぼが見られないことなどが共有されました。
検証を踏まえて,草原先生は「変だな,おかしいな」と思ったことを各学級で出し合うよう促しました。子どもたちからは,「青森県の近くなのに,なぜ北海道はリンゴが△なのか」「米の生産量2位の北海道に,なぜ作るところと作らないところがあるのか」「リンゴに適した気温なのに,なぜ豊栄だけでとれるのか」「暖かい鹿児島で,なぜ米がとれない場所があるのか。同じ県でとれる所ととれない所があるのはなぜか」といった疑問が寄せられました。このように,展開1を通して,子どもたちは「土地でとれる作物は,緯度と気温で決まる」仮説だけでは説明できない事例もあることに気づいていきました。




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展開2:専門家と仮説を練り上げる
展開1を受け,授業者は子どもたちの疑問を,「なぜ東・釧路市だけは米が×か」「北海道はなぜ青森の近くなのに,リンゴが△なのか」「なぜ豊栄だけはリンゴが○か」「なぜ徳之島町では米が×か?場所によって違うのはなぜ」に整理しました。展開2では,まず各学級が4つの疑問から自分たちが最も気になるハテナ(疑問)を1つ選びました。さらにそれについて仮説を立て,大学スタッフのファシリテートのもと,他の学級や専門家とともにブレイクアウトルームで仮説を練り上げていきました。
A:なぜ北海道東部・釧路市だけは米が×か
(専門家:北海道開発局職員の阿部さん・高橋さん・旭さん,農家:浅野牧場の浅野さん)
・気温が低く稲作が難しい
・1950年代のパイロットファームや1970年代の酪農振興といった国の方針が大きく影響し,東部では稲作よりも酪農が選ばれてきた
B:北海道はなぜ青森の近くなのに,リンゴが△なのか
(専門家:中央農業試験場の吉田さん)
・マイナス30℃にもなる寒さではリンゴが育たない
・人気品種「ふじ」が青森では作れても北海道では作りにくく「儲かるリンゴ」が育てられない
・北海道北部では「腐らん病」という木の病気が発生しやすい
C:なぜ豊栄だけはリンゴが○か
(農家:小石川観光りんご園の落合さん)
・豊栄は広島県の中でも北に位置することに加え,海抜約400mの高地にあり涼しい(100m上がると約0.5℃下がる)
・豊栄が「リンゴのとれるほぼ南限」にあたる
D:なぜ徳之島町では米が×か?場所によって違うのはなぜ?
(専門家:徳之島町郷土資料館学芸員の大屋さん)
・「暑すぎるから」「台風が多いから」という予想に対し,大屋さんがかつては島全体で米を作っていた白黒写真を提示
・国の方針で米の生産量を減らすことになり,より儲かるサトウキビやマンゴーへと転換した
・「とれるけれども作っていない」
この活動を通して,子どもたちは,最初に立てた仮説を専門家の説明と照らし合わせながら修正していきました。作物の生産は,気温や標高といった自然条件だけでなく,国の方針や農家のもうけを求める工夫,地域産業の選択といった社会条件にも左右されることが見えてきました。




終結:作物を決めているのは,自然の力?人間の力?
終結では,草原先生が,授業を通して出てきたキーワードを8枚のカードに整理し,それを「自然の力」(緯度・標高・気温・水)と「人間の力」(農家のもうける工夫・国の方針・ライバル作物の存在・食生活の変化)に分類しました。そのうえで,「土地でとれる作物を決めているのは,自然の力か,人間の力か」を,天秤の図を手がかりに,児童が体を天秤のように両手を動かしながら(自然の力を重視するならば左に傾ける,人間の力を重視するならば右に傾ける)考えました。
子どもたちの意見は分かれました。自然の力を重視した子どもからは,「標高とか水,気温で作物が決まっている」「自然の中でも,気温と標高が大きい」といった意見が出されました。一方で,人間の力に着目した子どもからは,「人間が作るものを決めているのではないか」「国の方針も関係している」といった考えが示されました。
子どもたちの考えは最後まで一致することなく,作物づくりを説明するには自然の力だけでも、人間の力だけでも不十分であることに気付き始めていました。最後に「これからも悩み続けながら,自然とくらしの関係を考えていきましょう」と締めくくりました。


地域や立場を越えた学びをデザインする
本実践では,緯度や気温,農業のあり方が大きく異なる地域の学校がつながりました。子どもたちは,自分たちの地域では当たり前にとれる(とれない)作物が,他の地域では必ずしも同じではないことを,他校児童の証言や現地中継を通して実感しました。こうした地域の違いに出会うことで,「なぜだろう」と問いを立て,作物と土地の関係を探究するきっかけが生まれました。
また,農業の専門家や現地の方とつながることで,子どもは自分たちの仮説を確かめたり,時には反論を受けたりしながら,説明をつくり直していきました。広域交流型オンライン学習では,今後も地域や立場を越えた人々の出会いと対話を活かし,社会の見方を広げ,深めていく授業をデザインしていきます。


授業実施者Ch1:草原和博
授業実施者Ch2:瀧本耕平,井手歩実,山本成瀬
授業補助者:各小学校での授業担当教員
山花・浅野牧場からの中継:大戸玲穂
豊栄・小石川観光りんご園からの中継:小笠原周哉
ブレイクアウトルームのファシリテーター:玉井慎也,神田颯,三井成宗,川本吉太郎
学校技術支援担当(東広島市内小学校):岩切祥,橋本芽李,山田悠華,長野睦生,藤田陽輝,中西美里,宮崎颯太,梶山彩佳,上中蒼也
学校技術支援担当(北海道釧路市内小学校):佐々島忠佳
学校技術支援担当(広島県府中市内小学校):三井成宗
学校技術支援担当(鹿児島県徳之島町内小学校):川本吉太郎
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,神田颯
事務局機器担当②(東広島市立寺西小学校):宮本侑弥,宇ノ木啓太
協力:北海道開発局釧路開発建設部(出演:阿部秀之様・高橋英也様・旭大我様),北海道立総合研究機構農業研究本部中央農業試験場(出演:吉田昌幸様),小石川観光りんご園(出演:落合善人様),徳之島立郷土資料館(出演:大屋匡史様)
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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