授業実践

【広島空港「学びの拠点プロジェクト」】空港とはどんなところ? 空港はどのように変わるべき?

2025.03.03

指導案・教材

概要

 広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)及び広島国際空港株式会社(HIAP)は,2025年3月3日(月)に「広島空港 学びの拠点プロジェクト」セミナーを開催しました。本セミナーには,東広島市内小学校2校3学級(河内小学校,入野小学校)の5年生(44名),北海道利尻富士町内小学校2校2学級(鴛泊小学校,利尻小学校)の5年生(16名),北海道奥尻町内小学校2校2学級(奥尻小学校,青苗小学校)の4年生(13名)が参加し,「空港とはどんなところ? 空港はどのように変わるべき?」と題した授業を行いました。広島空港と北海道の利尻空港を徹底比較することで,空港の役割と開発・拡張の是非を深く探究することができました。

 HIAPは,広島空港を「ネットワークの基盤」「地域における拠点」「サービスの拠点」「安全・安心の拠点」としての機能に加えて,「学びの拠点」としても位置付け,学校教育への貢献と地域創生をめざしています。この活動の一環で実施されたのが,本セミナーです。EVRIが広域交流型オンライン学習で培ったノウハウ(教材開発・授業づくり・オンライン配信)を活かし,昨年度に続く2回目の空港セミナーを行いました。進行は草原和博教授が務めました。

空港と私たちのくらし

 セミナーは,前半と後半の2部構成です。まず,セミナーに参加した学校の共通点を確かめました。子どもには,東広島・利尻島・奥尻島の3枚の地図と航空写真を見比べてもらいます。資料によると,いずれの学校も最寄りの空港まで車で15~30分の距離にあるようです。この共通点に基づいて,空港近隣の学校同士で学ぶことを確かめました。

 ここで,6つの参加校の児童に,飛行機に乗った回数を尋ねました。アンケートの結果は,広島の子どもたちは,0回が64.4%,1~2回が20%,3回以上が15.6%だったのに対して,北海道の子どもたちは,0回が20.8%,1~2回が16.7%,3回以上が62.5%でした。結果を見た子どもたちは,「なぜ広島の子どもたちは飛行機に乗る回数が少なく,北海道の子どもたちは多いのだろう」と疑問を持ちました。そこで,前半の学習課題として「同じ空港に近い学校でも,なぜこんなに空港との関わりに違いがあるのだろう?」が設定されました。

 この問いを受けて,子どもたちはこの課題に対する仮説を立てました。北海道の子どもは,「北海道の島はフェリーや飛行機しかないけど,広島は地下鉄や新幹線が通っているから(飛行機を使わない)」と仮説を立てました。広島の子どもは,「広島は車で隣の県に行けるけど,北海道は飛行機に乗らないと他の所に行けないから,(飛行機を)使う機会が多い」と予想を立てました。こうして,空港と私たちとの関わりを探究する準備が整いました。

3つの空港の違いを探そう!

 授業の前半では,3つの空港の違いを調べる活動を通して仮説を検証していきます。

 まず空港から中継を行い,広島空港と利尻空港の様子を比べました。広島空港からの中継では,韓国に飛行機が今まさに飛び立つ瞬間のようす,羽田行きなど多数のジェット機,3000mの滑走路,たくさんのカウンターやお店・レストラン,国内に加えて外国行きの飛行機の時刻表が載った電光掲示板を見ることができました。一方,利尻空港からの中継では,一機も飛行機がいない滑走路のようす,プロペラ機の模型,1800mの滑走路,小さなカウンターや午後2時間しか開かないお店,一日一便の札幌(丘珠)行きの時刻表が載った電光掲示板などを見ることができました。

 空港職員さんへのインタビューでは,広島空港と利尻空港,それぞれの利用者数やライバルを教えてもらいました。広島空港の山中さんは「広島空港は年間300万人が利用している」「観光客や仕事で使う人が多い」「新幹線がライバル(東京までの時間では飛行機が勝っている)」と答えました。利尻空港の柏谷さんは「利尻空港は年間5万人が利用している」「病院に行ったり遊びに行ったりするし,観光客も使う」「フェリーがライバル(札幌までの時間では飛行機が勝っている)」と説明してくださりました。

 さらに,各空港ならではの,とっておきのヒトやモノを紹介してもらいました。国際空港でもある広島空港からは,航空管制官,税関,家畜防疫官の話を聞くことができました。例えば,広島空港の航空管制官は,ヘッドセットを使いながらパイロットと通信する様子をデモンストレーションしてくれました。税関や家畜防疫官は,外国からの国内に不法なものの入ってくるのを監視しているお仕事が紹介されました。一方,柏谷さんは,地方の小さな利尻空港には,航空管制官,税関,家畜防疫官はいないけれども,雪を取り除く大きな除雪車がたくさんあることを教えてくれました。このように,実際に空港を見たり,働く人の話を聞いたりすることで,3つの空港の特徴を知ることができました。

空港のキャッチフレーズをつくろう!

 中継やインタビューで分かったことを踏まえて,空港と私たちとの関わりに違いがある理由をあらためて発表してもらいました。子どもたちは,「海に囲まれているか,(陸で地続き)かの違い」「北海道では,おばあちゃんの家や病院へ行くときなど普段から飛行機を使う(広島では日常的に飛行機は使わない)」と答えました。このように,周囲の地形や空港の役割の違いで,空港と私たちとの関係が変わることに気づくことができました。

 前半のまとめとして,子どもたちには各空港の違いと個性をピタリと伝えるキャッチフレーズを作ってもらいました。

子どもたちが作ったキャッチフレーズ

〈広島空港〉
・観光にぴったり!にぎやかな広島空港
・年間利用者数300万人の人が安全に乗れる。
・海外旅行に行けるよ,広島空港 など
〈利尻空港〉
・生活のための利尻空港
・札幌に早く行ける利尻空港
・身近で便利な利尻山が見える綺麗な空港 など
〈奥尻空港〉
・旅行,病院に行くときに便利な空港
・島民わりがつかえる!空港
・速い・安い・間違えない奥尻空港 など

このように,子どもたちは,島のローカル空港と国際空港との比較を通して,空港の特色と機能を自分たちの言葉で表現することができました。

「空港を大きくしたい!」賛成?反対?

 授業の後半では,前半でとらえた空港の特色を踏まえて,これからの空港の在り方を考察しました。まず広島空港の山中さんに,広島空港の歴史を教えてもらいました。山中さんは「最初は広島市の海辺にある小さな空港だった」「その後,大きな飛行機をたくさん飛ばすために,三原市に空港を移転させて大きな空港をつくった」「空港の周りには,ゴルフ場や公園,駐車場などもできて発展している」と解説しました。山中さんのお話を踏まえて,草原和博教授は「利尻空港や奥尻空港も,広島空港のように大きくするべきだ。滑走路を長くして,行き先や便数を増やすべきだ!外国まで飛ばすべきだ!(みなさんどうですか)」と提案しました。

 ここで,草原先生の提案に賛成か?反対か?を問うアンケートをとりました。結果は,広島の子どもたちは,賛成が22.5%,反対が77.5%でした。他方,北海道の子どもたちは,賛成が15.4%,反対が84.6%でした。どちらも反対意見が多い結果となりました。反対理由として,北海道の子どもたちは「空港を大きくするよりは,お店を立てたほうがいいし,あまり乗る人がいないから」「滑走路を伸ばすと自然を破壊してしまって,利尻のいいところがなくなってしまう」と述べました。賛成理由としては,広島の子どもたちは「一日一便しかないから,空港がつぶれてしまうんじゃないか」と意見を述べてくれました。

 続いて,利尻と広島の大人の意見を聞いてみました。利尻の観光業者(ツアーガイド,民宿を経営)の西島さんは,「観光客が増えると,観光業者の仕事が増えるので利尻空港を大きくするのは賛成」と語りました。一方で利尻空港の柏谷さんは,「空港が大きくなると,自然破壊やごみの問題,島外の人とのトラブルが起きるかもしれないので,どちらかというと反対」と述べました。広島空港の山中さんは「広島空港が大きくなったことで,多くの人に広島の魅力を知ってもらえた」のは良いが,「働き手が足りなくて困っている」「たくさん飛行機が飛ぶと,周辺の住民の皆さんから飛行機やヘリの音がうるさいという苦情」もあったことが紹介されました。このように空港の拡張をめぐっては,いろいろな意見があることが分かりました。

「空港」のこれから

 終結では,もう一度,草原先生の提案に賛成か?反対か?を問うアンケートをとりました。結果は,広島の子どもたちは,賛成が10.3%,反対が89.7%でした。他方で,北海道の子どもたちは,賛成が7.7%,反対が92.3%でした。広島も北海道も反対意見が増えました。意見が変わった人に理由を聞いてみると,「空港を大きくすると,綺麗な島の自然がなくなってしまうから賛成から反対になった」の理由が多数寄せられました。子どもの意見を聞いた西島さんは,「お客さんを増やそうとすると環境に負荷がかかるので,どこまで大きくするかは考えないといけない」とも答えました。草原和博教授は,空港を大きくすれば「有名になる,お客が増える,もうかる,外国とつながる」というメリットがある一方で,「自然が壊れる,人が足りなくなる」といったデメリットがあるとまとめました。

 最後に,広島空港の山中さんからメッセージをいただきました。山中さんは「空港は生活に欠かせない場所」「この授業をきっかけに空港に興味をもってもらい,将来空港で働いてみたいと思ってくれたらうれしい」「広島と北海道で交流できたらいいですね。札幌と広島の間には1日2便,飛行機が飛んでいますよ」と話してくださりました。

 今後もEVRIは,学校,自治体や企業と連携したプロジェクトを実践して参ります。東広島市以外の機関も歓迎いたします。ご関心があれば,お問い合わせください。

このセミナー実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
広島空港からの中継:田中崚斗,見田幸太郎,松岡佑奈,清政亮,蓮見千颯
利尻空港からの中継:川本吉太郎
学校技術支援担当(東広島市内小学校):上中蒼也,山本健人,後藤嘉希,三井成宗,岩切祥,戸崎夏帆
学校技術支援担当(北海道内小学校):野津志優実,宇ノ木啓太,佐々島忠佳(北海道教育大学釧路校),大戸玲穂(北海道教育大学釧路校)
事務局機器担当(入野小学校):神田颯,中西美里,鶴木志央梨

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!