南浦 涼介(広島大学)
ALTさんにお話を聞こう
今回の授業「外国の言葉が上手ってどういうこと?」では重要な教材の1つに,ALTの方へのインタビュー動画があった。
「外国人同士で日本語を話すより,日本人に日本語を話すときのほうが緊張する」ということの意味を子どもたちに考えてもらうための重要な動画だ。
そもそも誰に話してもらうのがいいか,ということがあった。最も初期の計画では,広島大学の教員で,国際学会に英語で挑むときの気持ちを題材にしようとしていた(これは,福岡伸一『できそこないの男たち』(光文社新書, 2008年)の中にある国際学会におけるエピソードをもとにしていた(pp.20-21))。ただ,検討会の際に「子どもたちにとっては国際学会なんて遠すぎるだろう」と言うことで別案が必要になり,教育委員会事務局の指導主事さんから「ALTはどうだろう」というアイデアが出た。なるほど,ALTの先生にとってたしかに「日本語を話す」というのはとても緊張することなのかもしれない。そうしたことでSIPスタッフの三井さんから東広島市教育委員会に連絡を取ってもらい,市教委指導課の指導主事の瀧本さん(外国語担当)からALTさんを2名紹介してもらった。
実際この授業をつくるにあたっては,これまで築かれてきたさまざまな場所での人間関係がすごく機能していることがわかる。こういうことをしたいのであれば,あの場所でこういう人がいる。それならこの方向からおねがいをすればうまくいく。こういうノウハウが全体の中で共有されているのだ。
実際,仕事をするというのはそういうネットワークがつくられていくことでもある。その点でそれはどの仕事でも同じなのかもしれない。実際「社会科は脚で稼ぐ」というのはこの奮闘記でも何度か触れてきたし,実際ベテランの教材研究を大切にする先人の先生方はそのことをよく仰られてきた。ただ教材研究の文化が次第に少なくなっていている今,このことは改めて重要なことだろうなと思う。
ALTさんとの汗かきインタビュー
さて,ALTさんとの打ち合わせ,同じくT1を行う草原先生とSIPスタッフで東広島市教育委員会に伺い,そこでALTさんとのお話を収録することになった。アメリカから来たルーカスさんと,ニュージーランドからきたエミリーさん。趣旨を伝えながら,(じつはこれも僕が英語でまず伝えたのだけれど,やはり汗をかいた。人はみんなネイティブの人に話すのが一番緊張するのだ)「何語が得意か」をお互いに紹介しあう。エミリーさん「フランス語,少し」,とかルーカスさん「英語→日本語→スペイン語」とか。実はこのときの「得意な順に言葉を並べる」は,このときの授業の導入にも活かされた。
実は収録の時はかなりいろいろな話をした。というよりは,案外インタビューにおいて「聞きたいこと」というがスッと聞けるということは少なく,今回は60分くらいの長い「おしゃべり」になった。最後の最後に,一瞬僕の頭の中に「まずいぞ,おしゃべりとしては楽しいし充実しているけれど,子どもたち向けの動画コンテンツとしては明確な言葉で得られていない……」という焦りが気をもたげる。最後に,意を決して「すみません,動画にしなければならないので,もう一度聞きたいです!」と投げかけた。みんな笑いながら応じてくれ,そこから「子どもたちの前で話すのは結構関係ができていないと日本語はドキドキする」「『え?』と返されるとつらい」というルーカスさんの言葉をもらうことになった。これは子どもたちにもきっと伝わるんじゃないかなというとても大切な言葉だった。今回のインタビューが難航したのは基本的にALTさんのお二人が,授業や学校をとても「楽しい」と捉えているからなのであって,だからこそ「困っていること」を教えてもらうことに時間がかかったのはある意味でしかたないことである。一番大事なのは,そう,自分なりに仕事を楽しむことなんだよね。

さて,1分にまとめるぞ
というわけで,研究としてのインタビューだとちょっとあれだけれども,ここまでの蓄積の上でもう一度コンテンツとして話してもらうわけだから良いのだけれど,「話してほしいことを明確に話してくれる」わけではないという相手のある教材というのは,汗をかくポイントです。
そして,帰り道,SIPスタッフの動画作成担当の宇ノ木さんの「ああ〜,60分の収録を1分にするのか〜」のつぶやきを私は忘れません…(本当にありがとうございます)。そう,子ども向けにしていくためには,こうした生の素材を,明確に,わかりやすく,1分程度にしていくのです。
宇ノ木さんの編集の腕はすごいのです。でもそれも含めて,「キャプションをつけよう」「音が割れている」「前後を入れ替えよう」とこだわりのスタッフ・教員からの指示を受けながら,宇ノ木さんの珠玉の編集による1分インタビュー動画が完成したのです。珠玉!
2023年の春に広島大学にやってきました。「先生」の仕事は23年目,大学の先生の仕事は14年目,広島大学の先生の仕事は2年目の古米のような新米です。授業や多文化共生の教育の仕事が大好きですが,ラーメンも好きです(最近控え中)。
-
アクティビティ
-
アクティビティ
-
アクティビティ