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【2026.03.20】【イベント開催報告】DCC3年次報告会「人口減少社会において「学びの公共圏」をつくる~遠隔ではない、学校を越えた協働・対話としてのDCC授業~」を開催しました

2026.03.20
  • 発表

2026年3月20日(金・祝)に、「人口減少社会において「学びの公共圏」をつくる~遠隔ではない、学校を越えた協働・対話としてのDCC授業~」と題して、「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」3年次報告会を鹿児島大学稲盛会館およびZoomウェビナーのハイフレックスで開催しました。大学教員や教育委員会、学校教員などの教育関係者、学生を中心に88名(対面40名、オンライン48名)の皆様にご参加いただきました。

はじめに:DCC事業報告の趣旨説明

開会に際して、本研究開発責任者の草原和博教授(広島大学)より、参加者の皆さまへのご挨拶がありました。
デジタル・シティズンシップ・シティ(DCC)プロジェクトは、公教育における地域格差・機会格差の是正を念頭に、「どんな場所でも、どんな立場の人も、共に学ぶことのできる公教育をつくる」ことをミッションとする研究開発プロジェクトであることが確認され、今次報告会のねらいとして次の3つが述べられました。
まずは、DCCの実現に向けて企画・運営している広域交流型オンライン学習(以下、DCC授業)を体験していただき、その価値や面白さ、可能性を感じていただくことです(第1部)。次に、2025年度のDCC授業実践について、異なるアクター(現場教員・教育委員会指導主事・現役高校生)より、それぞれの立場から見えるDCC授業の意義や可能性について報告いただくことで、DCC授業の実際や横展開の状況を全体で共有することです(第2部)。
さらに、これらの成果報告を踏まえた教育関係者との対話を通じて、DCCが子ども・学校・自治体・大学にもたらす価値を探究することです(第3部)。
以上を通じて、本シンポジウムでは、教育インフラとしてのDCCの社会実装に向けた進捗状況と今後の展開可能性を発信することが述べられました。


その後の報告会は、大きく3部構成で実施されました。

第1部 模擬授業:DCC授業を体験してみよう!

第1部ではDCC授業のデモンストレーションを行いました。

取り上げた題材:事故や事件からくらしを守る(小3・社会科)

2025年11月26日に実施した小学校社会科「事故や事件からくらしを守る-徳之島の警察署の場所はこのままでよいか?-」授業を取り上げ、対面会場の参加者は小学校3年生になりきって授業(チャンネル1)に参加しました。

チャンネル1の様子:仮想教室で対話をひろげる

チャンネル1参加者は、4つの仮想クラス(尾母小・亀徳小・母間小・手々小)に分かれて、それぞれの学校の児童として意見を考えたり、発表したりしました。実際のDCC授業で徳之島の子どもたちが考えた警察クイズやフォーム回答、グループワークを展開しました。
授業では、本プロジェクトで開発したAI学習支援システムを活用した意見収音・テキスト化やAIによる要約・分析、アンケート機能なども披露されました。
T1である草原教授の全体進行のなか、T2(普段は学級担任)の滝沢潤教授川口広美准教授金鍾成准教授神田颯教育研究推進員(広島大学)による学級内活動のファシリテートが展開され、参加者の多様な意見を取り入れながら「警察署を島内のどこにお引越しさせるか/させないか。その理由は…」といった公共的な課題について、白熱した議論が展開されました。大人たちの発表後には、実際の授業での児童の応答が、11月の授業動画を投影することで共有され、子どもたちの意見との共通点や相違点が確認されました。

チャンネル2の様子:チャットを介したコミュニケーション

なお、オンライン参加者に対しては、普段、教育支援センターや校内フリースクールなどに通う不登校児童生徒が参加するチャンネル2が配信されました。チャンネル2では、顔出し・声出しなしのチャットベースのコミュニケーションで授業に参加できます。
チャンネル2の進行者は、おなじみの「たっきー(瀧本耕平 東広島市教育委員会)」と「いくちゃん(近藤郁美 広島大学教育学部生卒業生)」がペアで務めました。二人の軽快なやり取りやオープンな問いかけを通じて、オンライン参加者はチャットに自由な意見や疑問、気づきを書き込んで盛り上がっておりました。

模擬授業を終えて:会場全体で共有した「没入感」

以上の模擬授業を通じて、DCC授業(チャンネル1・チャンネル2)の実際の雰囲気を参加者全体で共有することができました。最初は戸惑ったり、緊張したような表情も見られましたが、授業の中盤・後半にかけては、積極的に意見を表明したり、他者の発表を傾聴している様子が見られました。また、AIの分析結果を深くうなずきながら見ている様子も印象的でした。

第2部 実践報告:DCC参加者の声から考える

第2部の実践報告では、大きく3つのテーマについて報告いただきました。

(1)学校・地域を越えてつながる

一つ目のテーマは「学校・地域を越えてつながる」です。荒木保徳氏・今福茂氏(鹿児島市立桜峰小学校)、芝原理正氏(徳之島町立尾母小学校)より、過去に参加したDCC授業についてご報告いただきました。なお、本セッションの進行は、川本吉太郎特任助教(広島大学)が務めました。
今福氏は、小学校4年生社会科単元「自然災害からくらしを守る」授業を取り上げ、授業に参加した経緯や実際の子どもたちの学びについて報告しました。特に、オンラインで全国の学校に発表するために、桜島での防災訓練や過去の災害について学習を深めるなかで、校内に設置されている桜島爆発記念碑に注目するようになり、結果として自校や地元への興味関心が高まったことが授業に参加した成果として共有されました。
荒木氏は、多文化共生編「外国の言葉が上手とは?」を取り上げ、外国語科として位置づけて実践した学びの成果を報告しました。複式学級を有する小学校の割合が50%を上回る鹿児島県の実情に鑑みると、DCC授業に参加する価値は高いこと。また外国語学習として多言語・多文化共生を取り扱うことには必然性があり、多様な言語的・文化的背景を有する学習者とオンラインでつながることができる本学習の意義が述べられました。
芝原氏は、1年間を通じて複数回実施した「オンライン平和学習」を中心に報告しました。今年度は、2025年9月に広島県の平和学習について語り部や東広島市内の小学生の発表を聞きました。それを受けて第2回(2025年12月)では、「子ども平和サミット」として、北海道奥尻町、広島県広島市、熊本県南阿蘇村の子どもが、それぞれの土地で行われている平和学習の成果を発表・交流しました。最後に、第3回(2026年1月)には、米国や韓国で語られている原爆投下の歴史的意味を学びつつ、日本のそれを発信する学習を行いました。このような年間を通じた平和学習を通じて、「平和」に対する視座を高め、認識を再構築させる契機となったことが述べられました。
最後に、これからDCC授業に参加する方へのメッセージとして、荒木氏より「まずは一度参加してみること、その一歩目が大事。一度参加すれば、DCC授業の意義や価値が必ず見つかるはず。」とのお言葉をいただきました。

(2)不登校の学びをデザインする

二つ目のテーマは「不登校の学びをデザインする」です。第1部の模擬授業でチャンネル2の進行を務めた瀧本氏(東広島市教育委員会)と近藤氏(広島大学教育学部生卒業生)が登壇しました。なお、本セッションの進行は、三井成宗特任助教(広島大学)が務めました。
両氏からは、チャンネル2の配信システムや3つの異なる参加スタイル(①見学・視聴型、②副音声解説型、③観察参加型)、学習者に対する心理的安全性への配慮、運営支援者としての授業解説の難しさや面白さ、などが述べられました。(チャンネル2の紹介動画はコチラ
加えて、実際にどのような雰囲気でチャンネル2の配信を行っているかのデモンストレーションが行われました。参加のハードルを下げるために、あえて敬語ではなく口語でコミュニケーションしている姿、お互いをニックネーム(たっきー・いくちゃん)で呼び合っている様子、中継などの場面ではチャンネル1に注目させるとともに、発問や学級内活動の場面では運営支援者が引き取り、チャットベースでのやり取りを活性化させる工夫などが語られました。

(3)総合的な探究の時間をリデザインする

三つ目のテーマは「総合的な探究の時間をリデザインする」です。2025年度よりDCCは、高校生を対象に「総合的な探究の時間」でオンライン学習を企画しております。本学習は、「先端研究開発を考えるオンライン探究学習」と銘打ち、内閣府SIP第3期課題「海洋安全保障プラットフォームの構築」や「スマート防災ネットワークの構築」の採択チームと連携をして、それぞれの研究開発のELSI(Ethical, Legal and Social Issues:科学技術の進歩に伴う倫理的,法的,社会的な問題)やPRI(Responsible Research and Innovations:責任ある研究・イノベーション)について探究するものです。
報告者には、本探究学習に参加した全国3校(熊本県立濟々黌高等学校、長崎県立佐世保南高等学校、広島県立広島国泰寺高等学校)の高校生が登壇しました。なお、本セッションの進行は、宇ノ木啓太研究員(広島大学)が務めました。
はじめに、宇ノ木研究員より、現状の高校総探の課題が指摘されました。それは教師・生徒・研究者の「総探疲れ」です。そして、この課題を解決する方策として提案されたのが、大学が最先端の研究者や専門家をコーディネートすること、それをオンラインで結びつけて生徒が対話すること、テーマを明確に設定し短いスパンで探究のサイクルをまわすこと、です。

次に、授業に参加した3校の生徒へ公開インタビューが行われました。生徒の率直な回答を一部抜粋します。

Q1.同じテーマを70分×2回で探究する学習はどうでしたか?

・通常の探究は個人作業中心でテーマ設定や情報収集に悩みやすく、やる気が低下しがちだが、今回のような「2時間完結」の形式は取り組みやすく理解しやすいと感じた。
・交流活動の時間に制限があることで議論がだれず、初対面の他校生とも効率的に意見交換でき、校内外の多様な視点に触れられた点が良かった。
・対話を通じて情報を得る形式や、多くの学校とつながることで意見の量と質が高まり、新たな考えが生まれる点に新鮮さと価値を感じた。
・探究の進め方に段階的なヒントがあり、次に何をすべきかが分かりやすい一方で、簡単すぎず適度な難しさがあって良かった。

Q2.授業を受ける前後で「先端技術」や「社会問題」の見方に変化はありましたか?

・レアアース問題について、当初は日本が採掘・活用することを肯定的に捉えていたが、授業後は国際的な利害調整や他国との関係性も踏まえて考える必要性に気づいた。
・先端技術や社会問題に対して「難しそう・自分と無関係」という認識から、「身近で自分たちも関われるもの」へと意識が変化し、学ぶ意欲が高まった。
・授業を通じて、専門家には高校生の意見も重視されていると実感し、主体的に知ろうとする姿勢が生まれた。
・これまで深く調べなかった分野についても、ニュースや記事を自ら追うようになり、継続的に関心を持つようになった。

第3部 パネルディスカッション

第3部では、「DCCが子ども・学校・自治体・大学にもたらす価値とはなにか?」をテーマにパネルディスカッションを行いました。パネリストとして、次の6名が登壇しました。なお、話題提供者兼コーディネーターは草原教授が担いました。

ご登壇いただいたパネリストの皆さま(五十音順)

大迫 誠(鹿児島市立桜峰小学校・校長)
木田 博(鹿児島市教育委員会・教育DX担当部長)
佐々木 恵美(鹿児島市立前之浜小学校・校長)
蓮浦 顕達(広島県教育委員会事務局・教育センター所長)
福 宏人(徳之島町教育委員会・教育長)
溝口 和宏(鹿児島大学・教育学部長)

まずは、各パネリストより第1部・第2部の感想をいただきました。

シンポジウム参加の感想

  • 第2部の高校生のコメントにこそDCCの本質があり、「どんな子どもを育てたいか(育てるべきか)」という公教育の理想の形がそのまま体現されていたと感じた。(大迫氏)
  • オンラインは特別なものではなくなった一方で、教員の負担感は変わっていない。負担軽減のための環境整備の重要性を実感した。(木田氏)
  • 参加した本校の児童が「来年も絶対参加した方がよい」と語るほどである。DCC授業の学習の価値と満足度の高さを感じている。(佐々木氏)
  • DCC授業を継続的に観察している。教員研修の視点からも有効性があるように感じる。不登校支援とDCCとの接続可能性も見えた。(蓮浦氏)
  • 離島・へき地教育の経験を踏まえ、DCC授業のようなコストを抑えつつ教師が前向きに関わることができるフラットな関係性を構築する必要性を感じた。(福氏)
  • シンポジウムを通して、デジタル時代の教育インフラとしてのDCCの可能性を実感した。遠隔だからこそ実現できる授業が構想・実施されている。(溝口氏)

次に、DCCの強みと弱み、今後期待することについて語っていただきました。

DCCの強みと弱み、今後期待すること

  • 地域を越えた授業実践を通して、子どもが自分の居住地を相対化しながら探究し、発表、交流する学びに可能性を感じた。(福氏)
  • DCCは複数教員が同時に授業を体験・共有でき、授業技術の継承にも資する仕組みとして評価できる。(木田氏)
  • 授業実践を通してテクノロジーの活用法を体得できるし、他校の教員がもつ指導技術も学べるなど、教員と子どもの双方に価値があると感じた。(蓮浦氏)
  • DCCは、挑戦を促す教育文化を育む。ゼロから価値を生み出す教員を育成する場になっている。(大迫氏)
  • 学校間連携で学びが拡張し、授業後も子どもが探究を継続したくなるような深い学びが生まれていると感じた。(佐々木氏)
  • DCCは、教室と社会をつなぐ越境的学びに価値がある一方で、持続的に展開するための人材育成や仕組みづくりが課題である。(溝口氏)

その後は、各パネリストに対して個別の質問が投げかけられました。各人による日本の公教育に対する展望や、DCCの可能性に関する応答は以下の通りです。

草原:デジタル学習基盤は地方の学びをどう変えるか?

木田氏:デジタル化と生成AIの進展により、教師は知識伝達者からファシリテーターへ転換し、評価も成果からプロセス重視へ変わっていく必要がある。

福氏:デジタル活用により学校間の壁や従前の教師-児童間関係が変化した。特に離島・へき地では、遠隔授業の充実によって学びの機会が大きく広がることが期待される。

草原:次期学習指導要領の重要な論点である「柔軟な教育課程」「二階建て構造」の観点から見て、DCCの取組が参考となる点は?

蓮浦氏:不登校支援の「居場所づくり」は進む一方で、学習の機会や質の保障は十分でない。DCCを多様な選択肢の一つとして位置づけ、子ども自身が選べる仕組みが重要である。

草原:DCCに参加して大学や社会に期待することとは?

大迫氏:DCCは多様な社会の入口に触れられる「物産展」のような場である。子どもの関心を広げ、将来の探究につなげる役割がある。

佐々木氏:DCCは教員にとっても学びが深く、授業研究に向けた意欲向上の機会となっている。現場同士の継続的な連携強化が求められる。

溝口氏:DCCは地理的・経済的格差を超えて学びを保障できる点に価値がある。今後は教員養成や教育実習にも遠隔授業を取り入れる予定である。

おわりに:総括コメント

最後に、報告会のまとめとして、総括コメントを、西村訓弘氏(三重大学・ポスコロSIPプログラムディレクター)、河村雅之氏(内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 大学改革・ファンド担当室企画官)よりいただきました。

西村訓弘氏(三重大学・ポスコロSIPプログラムディレクター)より

DCCを一つの研究開発プロジェクトに位置づけるポスコロSIPでは「人口減少を機にひらく未来社会の在り方」を追求している。不可逆的に進む人口減少社会において、これまでの制度が時代状況にマッチしない現象が起きており、今までのやり方を続けると、どんどん社会が不便になってしまう。そこで必要なのはマインドチェンジであり、それを実証するのがポスコロSIPである。DCCはその鍵となる存在であることを再確認した。
DCCは「気づきを与える→視野を広がる→考えが変わる→膨大なデータを駆使して調べる→自らで考え、発信できる個人を育む」といった新たな学びのサイクルを確立している点で評価できる。これまで当然のように日本で行ってきた「地域(地方)で子どもを育てる」ことの本質的な意義を、DCCを通して再考する必要がある。

河村雅之氏(内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 大学改革・ファンド担当室企画官)より

内閣府として、本事業にご尽力いただいている皆様に心より御礼申し上げる。第6期科学技術基本計画においては、Society5.0の実現を掲げており、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、経済発展と社会課題の解決を両立する「人間中心の社会」を目指している。この方向性は第7期でも引き継がれる予定である。そうした中で、ポスコロSIPは次年度に4年目を迎え、研究開発から社会実装のフェーズへと着実に移行する。DCCにおいても、今後はその実装を一層推進していただくことを期待するとともに、内閣府としても最大限の支援を行ってまいりたい。

本シンポジウムの意義は、DCCが単なる遠隔授業の枠を超えて、人口減少社会における新たな教育インフラとして機能し得るという点を明らかにしたことです。とりわけ、地域格差・不登校・教員負担といった複合的課題に対して、複数の学校・複数の主体を接続することで学びのデジタル公共圏を再構築してきたこと、特に課題を探究できる場が示された意義は大きいと考えます。今後は、このモデルをいかに持続可能な制度として定着させるかが問われる段階にあります。
これからも本プロジェクトでは、DCCの全国展開、社会実装に向けてチャレンジを続けてまいります。ご期待ください!(2026年度の授業の年間スケジュールはコチラ

なお、本シンポジウムの様子は、2026年3月30日の南日本新聞朝刊「人口減社会の学校 遠隔で広域交流を 鹿大でシンポ」でご紹介いただきました。

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