指導案・教材・YouTube動画
概要
2026年1月21日(水),東広島市・北海道釧路市・伊達市・鹿児島市・徳之島町など全国15校25学級,計539名と,SCHOOL“S”・教育支援センター・校内教育支援センター(SSR)が参加しました。今回の授業のテーマは,「新しい日本,平和な日本へ―日本は平和な世界のために何ができるか―」。日本・韓国・アメリカの原爆に関する歴史認識の違いに注目し,異なる考えをもつ人々とも対話し続ける重要性について考える授業でした。授業の全体進行は広島大学の金鍾成准教授と草原和博教授が担当し,各教室の学級担任が指導にあたりました。また,同大学のアメリカ出身のRussell Sarwar KABIR助教にゲスト参加していただき,三国の視点を踏まえた原爆の恐ろしさと平和の大切さを伝えることに関する意見交換を行いました。


導入:日本の原爆,世界の原爆
授業は,日本・韓国・アメリカ出身の3人の先生による平和イメージを聞くことから始めました。草原先生からは「折り鶴」「ノーモア・ヒロシマ」,ラッセル先生からは「ピースコープ」,金先生からは「南北統一」が共有され,国や人によって平和のイメージが異なることを実感しました。
次に,子どもたちにも平和,特に原爆に関する学びについて聞いてみました。子どもたちからは「一発でまちが破壊され,多くの死人が出た」「東京大空襲や沖縄地上戦など,広島以外の被害も学んだ」「ほかの国にも落とされたくない」「放射能が多くの命を奪った」といった学びが共有されました。日本では,被害者としての視点や原爆の不使用が強く意識されているようでした。
では,韓国とアメリカでは,日本の小学生と同じように原爆を学んできたのでしょうか。金先生とラッセル先生の答えはNoでした。韓国では日本による植民地支配からの独立という文脈が強調され,原爆被害についてはあまり触れられないこと。アメリカでは被害に加え,戦争を早期終結させた正当な手段としての側面が強調されていること,原爆を落とした「エノラ・ゲイ」を学んだと紹介されました。
このような原爆に関する学びの違いを踏まえて,「自分たちが学んでいることと異なる考えをもつ他国の人に,原爆の恐ろしさと平和の大切さは伝わるのか?」という問題が導き出されました。そこで,本時の学習課題「原爆について異なる考えを持っている人々に,どのように原爆の恐ろしさと平和の大切さを伝えれば良いかを考えよう」が提示されました。

なにが起こったのかは学んだよ!

日本とは違います!
展開1:原爆に対する異なる語り
授業の前半では,日本・韓国・アメリカの原爆に関する教科書記述の比較を通して,原爆に関する歴史認識の違いを確認しました。
まずは各国の教科書を読みながら,原爆についてどのような記述がなされているのかを調べました。日本の教科書では,原爆による被害やその恐ろしさ,平和の大切さに焦点が当てられていました。一方,韓国の教科書では,韓国の独立が強調され,原爆に関する記述は見られませんでした。アメリカの教科書では,原爆の被害について言及しつつも,「戦争を早期に終わらせるための手段」として原爆使用に肯定的な見解が記されてもいました。
こうした違いを踏まえて,子どもたちは韓国の金先生,アメリカのカビール先生に,自分たちが感じた疑問や意見を問いかけました。
●「なぜ韓国では日本の原爆が落とされた事が嬉しい出来事なのか」「なぜ万歳といったのか」
→韓国では,日本による植民地支配について学ぶ。例えば,名前を変えさせられたり韓国語を禁止されたりした。日本の降伏は韓国の独立につながる重要な出来事ととらえられている。
●「韓国ではどのように平和学習をしているのか」
→韓国で平和学習といえば,原爆ではなく,「(南北の)統一学習」として学ぶ傾向がある。
●「原爆を落としたことについてどう思っているのか」「なぜアメリカは原爆を落としたのか」
→個人的には残念なことだと思っている。当時のアメリカ市民は原爆を投下するという情報を知らなかった。原爆を作っていた人たちも,自分たちが何のために働いているのかは知らなかった。
●「日本の教科書とアメリカの教科書では死者数が違うのはなぜか」
→難しい。国民を納得させるためではないか。
→かけた予算に見合った効果があることを示したかったのではないか。
●「なぜ日本だけに原爆を落としたのか」
→日本だけではなく,対ドイツを想定して,自分たちの国を守るために原爆を開発していた。
●原爆の被害者の約1割は朝鮮人だったことも伝えたい(金先生)
●時間が経つと人の考えは変わる。今のアメリカ人は,被爆者の語りから苦しさに目を向けるようになってきていることを伝えたい(カビール先生)

小学校社会科教科書を読んでみる!



展開2:異質な他者との対話
授業の後半では,原爆について異なる考えを持つ人々に,どのように自分たちの思いや願いを伝えるかを考える活動に取り組みました。
まず,子どもたちは「なぜ私たちは原爆の恐ろしさや平和の大切さを伝えたいと思うのか」という問いについて,各教室で話し合いました。「日本は世界で唯一原爆を落とされた国で,世界に恐ろしさを伝えないといけない」「核兵器が世界にまだ残っているかもしれないから」「戦争や核はあってはならないと思ったから」など,様々な思いが語られました。

だから伝えたほうが良いよ!

ユニークな意見は・・・
続いて,韓国やアメリカの人々に何をどのように伝えれば良いのかを考える活動を行いました。具体的には,「原爆をどのように伝えたらいいだろうか?」というテーマについての対話文に当てはまる発言を考えてもらいました。この活動では,ブレイクアウト機能を活用して2~3学級の班に分かれ,韓国かアメリカどちらかとの対話文を担当してもらいました。子どもたちはT2のファシリテートのもと,相手の立場や学んできたことの違いに配慮しながら,どのように平和についての考えを伝えるのか提案し合いました。
例えばあるグループでは,「①日本:平和のためには,二度と原爆が使われないことが大事だと思います」→「②韓国:でもね,韓国からすると戦争を起こした日本が悪い」→「③日本:でもね,軍人だけでなく関係ない一般人も巻き込まれてしまうからよくないよ。原爆のせいで韓国人も犠牲になっているよ」といった対話を構想してくれました。子どもたちの考えに対して,金先生は「韓国では日本による植民地支配の歴史が本当に傷になっていて,それが未だに続いている」「そういう状況の中で日本も被害を受けたという語りを聞くと,自分たちが韓国の人々が知っている考えと何か合わない」「一方で,韓国の人々もぜひ日本の被害から学んで,戦争なき世界や原爆の恐ろしさについて考えてほしいと思った」と応答しました。
また,別のグループでは,「①日本:平和のためには,二度と原爆が使われないことが大事だと思います」→「②アメリカ:でもね,アメリカの兵士を守るための作戦なんだ。日本が仕掛けた戦争なんだから仕方ない」→「③日本:でもね,原爆を使うと亡くならなくても苦しんじゃうよ。アメリカが被害を受けたらどう思う?」という対話を提案してくれました。これを受けてカビール先生は,「アメリカも被爆者の物語や詩から学んでいってほしい」と応答しました。




終結:対話と学びを通じた気づき
授業の終盤では,のん太アンケートを用いて「今日の学習を通して学んだこと・感じたこと・考え直したこと」を答えました。回答からは,平和を願ったり原爆の恐ろしさを再確認したりする子どもたちに加えて,国による考え方の違いに驚きや戸惑いを感じた子ども,他国の意見を尊重したり自身の意見を再考する必要を感じた子ども,原爆投下を防げたものとして捉え直す子どもや原爆の被害を外国に伝えたり対話していきたいと思った子どもがいました。
・戦争はしないほうがいいとみんな考えてるとおもっていたけど,今日の学習で韓国やアメリカなどと少し考え方が違うと知ってびっくりしました
・相手の視点を知らないと自分たちが考えていることはうまく伝わらないことを感じた
・外国の立場を考えることの難しさを感じた
・様々な国の意見がたくさん聞け,自分たちだけの考えではなく,ほかの国の意見も尊重しようと思えた
・原爆の被害となくさないといけない理由を考え直した
・日本が原爆の,完全な被害者だと思っていたけど,アメリカはアメリカの理由があって,原爆を落としたことが分かった
・いろいろな立場の人を聞いて,最初は原爆を投下したアメリカが悪いと思ったけど,日本も悪いと思った。日本は韓国を支配して苦しめていたから
・原爆はもしかしたら防げたのではないのかと思いました
・原爆は良くないし韓国やアメリカの人にも原爆のたった一つの爆弾でこのような被害が出ているのを知ってほしい
・原爆を一生落とさせないように対話を大切にする
授業の最後には,金先生は「日本だけが世界の平和を作れるわけではないので,異なる考えを持っている人々とも対話すること,そして対話し続けることが重要」「授業は皆さんの『でもね』で終わったが,それを聞いた韓国やアメリカの人々もまた『でもね』があるかもしれない」「その『でもね』がいつかは『そうか』という言葉に変わることを願っています」と述べ,授業を閉じました。


困難な歴史についての公共的な対話
今回の授業実践では,日本・韓国・アメリカという異なる立場の人々とつながりながら,原爆という困難な歴史について対話する機会となりました。子どもたちは,時に感情的になったり戸惑ったりしたかもしれませんが,必ずしも日本と同じように学んでいるわけではない相手の立場に立って,平和について考えていく必要性に気づくことができました。NICEプロジェクトでは,今後もこのような公共的対話の場のデザインを通じて,子どもたちがよりよい国際社会をつくっていくことのできる学びの機会を創出してまいります。
授業実施者(Ch1):金鍾成,草原和博,Russell Sarwar KABIR
授業実施者(Ch2):瀧本耕平,近藤郁実,井手歩実
授業補助者:各小学校での授業担当教員
学校技術支援担当(東広島市内小学校):松岡佑奈,西川俊,湯川茉琴,手嶋高嶺,神田颯,宮﨑颯太,新谷叶汰,三井成宗,森涼夏,長野睦生,川本吉太郎,小笠原周哉,小笠原愛美,小島拓歩,濵田莉緒,圓奈勝己,中西美里,横田亜美,宮本侑弥
学校技術支援担当(北海道内小学校):大戸玲穂,佐々島忠佳
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,岩切祥
事務局機器担当②(高屋西小学校):宇ノ木啓太,山口祐樹
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
-
授業実践
-
授業実践
-
授業実践




