授業実践

【先端研究開発を考えるオンライン探究学習】災害の「自分事化」はどうすればできる??―リスク情報の発信をめぐる論点争点―(2)

2026.03.10

指導案・YouTube動画

授業の概要

2026年3月10日(火),全国3校(広島県立広島国泰寺高校,長崎県立佐世保南高校,熊本県立済々黌高校)をオンラインでつなぎ,先端研究開発を考える探究学習を実施しました。本授業は「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」事業の一環として行われ,総勢75名の高校生が参加しました。1月22日に実施した授業に引き続き,「災害の「自分事化」はどうすればできる??―リスク情報の発信をめぐる論点争点―」をテーマに,「RRI(Responsible Research and Innovation:責任ある研究とイノベーション)」を視点として,高校生が先端研究開発の成果を踏まえ,その活用や改善のあり方について提案しました。

本授業は,内閣府戦略的イノベーション(SIP)第3期課題「スマート防災ネットワークの構築」と連携して実施。国立研究開発法人土木研究所と中継をつなぎ,研究者と対話しながら学習を進めました。授業の進行は,広島大学の草原和博教授が全体進行を担当し,各校では担当教員が進行を務めました。

導入:RRIの復習

授業の導入では,前回(1月22日)の授業内容を振り返りながら,「RRI」の考え方を確認しました。生徒たちは前回の授業で,先端研究開発の成果を批判的に検討しました。防災研究者の槌谷さんと栗林さんは「仮想洪水体験のリアルさについての意見をいただいたので開発に活かしていきたい」「LINEですぐに情報を得られるのがよいという意見があり励みになった」と感想を述べ,生徒の意見に応答しました。生徒からは,「どれだけ自分事としてとらえられるかが大事」「VR機器は高齢者には難しいのではないか」「一市民として研究開発にコミットすることが大事」が挙げられました。

先端研究開発を批判的に検討するだけでなく,改善案を研究者に提案することをねらいとして,本時の学習課題「『災害リスクを自分事化できるように情報提供すれば,人は避難する→被害は減る』この仮説をどう思う? 高校生(主権者)の視点から研究者に意見(代案・反論)を提起しよう」が示されました。

展開:RRIの実践・第2弾

展開部では,スマート防災研究者が前提としている仮説を検討し,高校生が改善案を研究者に提案しました。

はじめに,2つの記事(池田論文・中須論文)を手がかりに,仮説を検討。各校の代表者が論文を読み,考えたことや感じたことを発表しました。生徒からは「避難所での女性の居心地の悪さを解決するためには女性の防災担当者を増やすことが必要不可欠」「同じ災害でも性別や置かれた環境によって被害の大きさが違うことに衝撃を受けた。災害は社会のゆがみを増幅させる装置であることを痛感した」といった意見が出されました。研究者からは、「女性研究者の割合は1~2割程度にとどまっている」「貧富の差ほどではないが,浸水しやすい地域は、地価が安い傾向がある」との応答がありました。

生徒の発表や研究者からのアドバイスを確認した後,新たな仮説を作成しました。「科学者は,もっと(   )を考慮したら,災害の被害を減らせるのではないか」の括弧に当てはまる言葉をAI学習支援アプリで意見を整理しました。その結果,高校生の意見では,①「体験のリアリティ強化」(現実に近い避難行動),②「包摂化」(多様な人が使える/置き去りにしない),③「社会化」(認知・普及・参加を増やす仕掛け)の視点が多数を占めるとともに,④情報の信頼性・説明責任(誤情報・非公式感・限界の伝え方),⑤プライバシー/データ倫理(GPS・位置情報の扱い)の視点の少なさが指摘されました。

続いて,Zoomのブレイクアウトルーム機能を用いて,6グループに分かれて,防災研究者に提案書を提出する活動に取り組みました。担当教員や大学スタッフのファシリテートのもと,「仮想洪水体験(ゲーム)or浸水リスク伝達(LINE)のシステム開発は,もっと(   )したらよい」という形式での提案書をまとめていきました。その結果,「高齢者も仮想洪水体験できるように,町内会でVR体験会をしてはどうか」(包摂化),「LINEポイントを付与することで,浸水リスク伝達システムの普及をはかってはどうか」(社会化),「LINEのユーザー層や発信力を考慮して,外国人ユーザーの多いWhatsAPPなど他のアプリを使ってはどうか」(包摂化)などの案が示されました。提案の作成にあたっては,コメント機能を使って,他グループのGoogleスライドに賛否を書き込んだり,ブレイクアウトルームに研究者を招いて直接質疑したりして,提案をブラッシュアップしていきました。

終結:RRIの振り返り

終結部では,各グループの提案に対して防災研究者やAIからフィードバックが寄せられました。栗林さんと槌谷さんからは,「高齢者など具体的なキャラクター設定ができるようにしてはどうか,避難所での生活も体験できるようにしてはどうか、などの提案を参考にしたい」「多くの人に知ってもらうことが一番大事と教えてもらった」「『ポイ活』を取り入れていくのは重要と思った」などと,生徒の提案にコメントしました。生徒の提案活動を分析したAIは,「(もっと)社会化の視点からどのように改善したらよいかを明示してはどうか」「具体的な対象者を設定してはどうか」などの代案が示されました。

最後に生徒は振り返りのアンケートに回答しました。参加生徒の86.3%が,本授業で「RRIに参画した実感がある」と回答。さらに,本授業を通じて「考えたこと・学んだこと」の記述では,以下のような先端研究開発のあり方が指摘されました。

記述アンケートの抜粋

● 防災は自然の状況とその自然被害の大きさだけが関係するのではなく,常日頃から解決が求められている社会問題が災害時に一気にしわ寄せをしてきていると思った。ジブンゴト化するためには,リアリティを追及すると同時に様々な場面・人に合ったVRにしていくことが必要であると思う。
● 日本の防災関係の仕事についている人は女性が少ないという話がありましたが,今回この防災の授業を受けている人は、済々黌視点で見ると女子生徒が多かったように思います。私たちが主体的に防災を発信していくことが大切なのかなと思いました。
● 研究者の方への提案書を作成する中で、学校をまたぎ様々な方とお話しすることで自分にはなかった考えに触れることができ、自分本位ではなく外国の方や高齢者の方など、多様な人々に配慮することなどが大切だなと感じました。

最後に,防災研究者の石塚さんは,「自分たちが気づいていない視点もあって今後の研究開発に活かしていきたい」「様々なステークホルダーや研究者サイドが感じるリスクが,受け手サイドにとってもリスクとして感じられるかについての情報をいただくことができた」と述べました。授業のまとめとして,草原教授は,①多様な人々を包摂するような情報提供や,②行動変容を促す仕組みづくりの重要性を提起し,授業を閉じました。

研究者と高校生の対話の場をデザインする

本時をもってスマート防災SIPチームとの2回シリーズの授業実践を終えました。本実践は,科学技術をめぐるELSI(倫理的・法的・社会的課題)の探究に高校生も一市民として参画する場を創出したところに意義があります。参加した高校生には修了証を交付し,今後のキャリア形成に活かしてもらうことも期待しています。今後も本プロジェクトでは,科学技術のELSIを公共的対話のテーマとして取り上げ,研究と市民との対話の場をデザインしてまいります。

この授業実践の関係者

授業実施者:草原和博
授業補助者:各高等学校での授業担当教員
土木研究所からの中継:神田颯
学校技術支援担当:三井成宗,川本吉太郎,上中蒼也,岩切祥,宮本侑也,宮崎颯太
事務局機器担当①:宇ノ木啓太
事務局機器担当②:草原聡美
議論サポーター:𠮷田純太郎,正出七瀬
協力:内閣府戦略的イノベーション(SIP)第3期課題「スマート防災ネットワークの構築」サブ課題Bの皆様(出演:栗林大輔様・槌谷雄太様・石塚宗司様)

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!