指導案・教材・YouTube動画
授業の概要
2026年2月18日(水),東広島市,北海道釧路市・釧路町・奥尻町・苫前町,熊本市,鹿児島県鹿児島市・徳之島町など全国16校30学級,計751名と,SCHOOL“S”・教育支援センター・校内教育支援センター(SSR)が参加しました。今回の授業のテーマは,「環境をともに守る―水俣病は,昔の話か,他所事(よそごと)か?―」。本授業では,四大公害病のひとつである水俣病に注目し,公害問題の解決とは何か,そして自分たちの地域と公害がどのように関わっているのかを探究しました。授業の全体進行は広島大学の草原和博教授が担当し,各教室の進行は学級担任が担当しました。


導入:公害の歴史
本授業は,水俣病に関する○×クイズから始めました。「水俣病が見つかって今年で70年?(○)」「水俣病の患者は熊本県にいる?(△)」「水俣の海では今,魚をとったり泳いだりできる?(○)」といった問いに対し,児童は身振りで回答。熊本大学の竹中准教授が,答え合わせを通して,現在の復興してきた水俣の様子を説明してくださいました。
続いて,公害の定義や水俣病が起きた当時の様子を教科書から読み取ってもらいました。公害の定義を確認したところで,水俣病の原点「百間排水口」からの中継をつなぎ,水俣病が工場から排出されたメチル水銀によって被害を及ぼした公害であることが共有されました。
ここまでの感想を問うと,子どもたちからは「もう汚くなさそうだった」「地域の人が協力しあってきれいになったんじゃないか」という声があがりました。水俣病から復興してきた歴史の語りが出てきたところで,前半の学習課題「水俣病のような公害問題は解決済みといってよいか?」が提示されました。


展開1:水俣病は解決済み?
展開1では,まず,学習課題「水俣病のような公害問題は解決済みといってよいか?」についてアンケートをとりました。結果は,「もう解決した」が15.5%,「まだ解決していない」が84.5%。未解決だと考えている子どもが多数でしたが,少なからず意見は割れていました。
意見が割れている理由を探るため,水俣病に関する年表を見て,各学級で解決と言えるタイミングとその理由をスプレッドシートに整理しました。全体的には「その他」「水俣湾がきれいに」を選んだ学級が多く見られました。子どもたちは「今は無くなっているだけでまた起こるかもしれないから」と水俣の未来を考えた意見や,「海がきれいになって水銀が確認されなくなったから」という見解を述べました。また,熊本の小学校の子どもからは「裁判所で認められただけじゃまだ助かってないと思うから未解決だ」といった考えも共有されました。
ここで再度,熊本大学の竹中先生に議論についてコメントをいただきました。竹中先生は,熊本の学校では水俣病と差別・偏見の問題を学んでいることを紹介してくださいました。また,現在も熊本では水俣病に関するニュースが報じられていることや,いまだ誤った理解が見られることにも言及されました。さらに,水俣病の慰霊碑から中継をつなぐことで,過去の悲劇を繰り返さないことが願われていることも学びました。
前半の最後には,水俣病が私たちに教えてくれることをメッセージとして表現する活動に取り組みました。子どもたちは「二度と公害を起こしてはならない」「正しい知識を未来に伝える」といった教訓を表現。前半を通して過去の出来事である水俣病を現在や未来につなぐことができました。


どのタイミングだと思いますか?


展開2:公害はよそのまちの話?
後半では,「公害はよそのまちの話か?」という問いのもと,子どもたち自身の地域に目を向けました。まず,地域ごとにブレイクアウトで分かれ,各自治体の公害苦情件数の統計資料を見て気になったことを公害の専門家にインタビューしました。
Q. 野焼きはなぜ多いのか?
A.例えば米農家さんが、もみ殻や稲わらを焼くことも野焼きです。農業で出たごみを焼かずに片付けるのは難しいです。住民から火事が怖い、喉が痛くなるといった苦情が出ることがあるので、頻度を下げてもらうことが必要です。
Q. 騒音が多い理由は?
A. 釧路の人口は約15万人。車もたくさん走っているし,工場があるから。
Q. 釧路市が苦情多い理由は?
A. 苦情を寄せる人,寄せない人がいる。報告しないと公害はそのままになる。
Q. 水俣病以外の水質汚濁はあるのか?
A. 住民の生活や工場から排出される油などによって水が汚れることもある。
Q. 井芹川のPFASとは何なのか?
A. 有害な有機フッ素化合物。さまざまな場所で検出されている。原因は究明中。


続いて,「私たちのまちに公害を起こさないために,誰こそ頑張るべきか」という問いについて,ブレイクアウトルームで他校と意見交流を行いました。各ルームでは,「まずは自分たちがごみを減らす工夫をすべきだ」という個人の責任を強調する意見や,「国や市がルールを整えて,会社にルールを守らせるべきだ」という公的機関と企業の関係を強調する意見など,多様な立場からの意見が出されました。また対話を通して,「どれか一つではなく,それぞれが協力し合うことが大事」という考えに至る学級も見られました。
後半の最後には,専門家の竹中先生が,「個人でできることもするが,会社や行政もしっかり取り組まないと公害は減らない」と述べ,各主体の協力の重要性を強調しました。また,AIによる意見の整理では,個性的な意見として,そもそも「ゴミを出さない製品を作ればよい」という提案が紹介されました。子どもたちは,企業の第一義的な責任と,関係機関の連携(写真のパソコン画面を参照)との間で,判断が揺れ動いていたことが伺えます。


終結:私の公害の学び
終結では,再度,「水俣病のような公害問題は解決済みといってよいか」という問いについて記述式アンケートを実施しました。
・未解決だと思う。理由は,これからも同じようなことが起きないように,もっと多くの課題に取り組むべきだと思うから。
・解決済みである。理由は国や県などの自治体もそれなりの対策を打ち,水俣湾もきれいになったから。
・未解決である。理由はまだ水俣病の後遺症などで苦しんでいる人がいるから。
・未解決。理由:環境が良くなったりしても,患者さんの傷(心)や病気は治らない。
このように,子どもたちは理由をもとに,水俣病のような公害問題の解決について自身の意見を表現することができました。授業の最後には,エコパーク水俣から中継をつなぎ,埋め立てられた現在の様子を映し出しました。授業のまとめとして,草原先生は,エコパークのようにきれいになったことやお金による救済を解決とする考え方と,健康被害が続いていることや正しい知識を語り継ぐことの重要性を強調して未解決とする考え方があると述べ,授業を閉じました。


地域や立場を越境する公害学習
本授業では,水俣病を手がかりに,「公害問題は解決済みといえるのか」「公害はよそのまちの話か」という二つの問いを軸に学習を展開しました。これらの問いを,①異なる地域(広島,北海道,熊本,鹿児島)や立場の人(子ども,市役所,専門家)をつなぎ,②多様な意見が交わるデジタル対話の場をデザインすることで,探究に導くことができました。事後協議会で報告された熊本の小学校の様子として,「水俣病のような公害問題は解決済みといってよいか?」の問いに,たとえ少数でも「解決済み」の答えがあったことに驚きの声があがったそうです。公害のような公共的課題では,地域や立場で受け止め方にギャップが生じることがありますが,そのことが露わになった瞬間でした。本プロジェクトでは,引き続きデジタルを活用した公共的対話のための学校のあり方を構想してまいります。
授業実施者(Ch1):草原和博
授業実施者(Ch2):瀧本耕平,近藤郁実,中西美里
授業補助者:各小学校での授業担当教員
水俣市からの中継:川本吉太郎
東広島市役所からの中継:後藤嘉希
学校技術支援担当(東広島市内小学校):上中蒼也,山田悠華,梶山彩佳,宮﨑颯太,岩切祥,守田渚,井戸浩太,宮本侑弥,藤本真奈,佐古優花,小笠原周哉,新谷叶汰,圓奈勝己,松岡佑奈,神田颯,石黒陽菜,藤田陽輝,小島拓歩,戸﨑夏帆,長野睦生,横田亜美,野津志優実
学校技術支援担当(安芸高田市教育支援センターあすなろ):三井成宗
学校技術支援担当(北海道内小学校):廣岡咲彩,山瀬美結,山口藍,深見智一,新田絢香,石澤大季,大嶋和希,寺沢菜花,玉井慎也
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,佐々島忠佳
事務局機器担当②(乃美尾小学校):宇ノ木啓太,大戸玲穂,髙田一花
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
-
授業実践
-
授業実践
-
授業実践



