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概要
2025年1月15日,東広島市内小学校4校4学級(乃美尾小学校,入野小学校,三津小学校,風早小学校)の6年生(94名)と広島市立基町小学校の6年生(15名),スペシャルサポートルーム,フレンドスペース,スクールSの児童生徒,そして,韓国の福興初等学校の5・6年生(3名),同じく韓国の京畿道水原市社会科教員(1名)が参加し,「日本とつながりの深い国々」をテーマとする遠隔授業を実施しました。今回は,「外国を理解するための視点を学び,韓国をより深く理解しよう!」と題して,地理,歴史,政治,経済,文化の各視点から外国を理解する方法と,対話を通じて外国理解を行う重要性を探究しました。本授業は,単元「日本とつながりの深い国々」の導入として,(韓国以外の)様々な国の特色理解へと学びを拡張させ,国際理解を深めていく契機となりました。
韓国ってどんな国?
本授業は,事前アンケートの問い「韓国ってどんな国?」に何と答えたか確認することから始めました。まず,子どもたちに韓国についてのイメージをたくさん出してもらいました。そして,出してもらったイメージをワードクラウドの形でまとめました。結果を見てみると,「イカゲーム」「トッポギ」「サムスン」といった単語が目立ちます。あまり目立ちませんでしたが,「植民地」「twice」などの単語も見られました。
ここで,日本の子どもたちが韓国に抱いているイメージについて,韓国の先生や子どもたちはどのように受け止めたのかを聞いてみました。韓国の先生は,「思っていたより(日本の)皆さんが韓国について知っていてびっくりした」「K-POPや軍隊など様々なことに関心があるとわかった」「「韓国が分断国家であることも知ってほしい」などと感想を述べました。韓国の子どもたちは,「イカゲームが世界的に有名だということがわかった」「K-POPが世界に広がっていることがわかった」「BTSについて知っていることにびっくりした」と感想を述べました。このやりとりから日本の子どもたちによる韓国理解と韓国の人たちの自国理解にはある程度のギャップがあることが確認されました。そこで,本授業のめあてとして,「外国を理解する視点を学んで,韓国の特色をもっとうまく言えるようになろう!」が設定されました。
外国を理解するための視点を学ぶ
授業は,大きく分けて 2つのパートで展開されました。
授業の前半部では,身近な生活やこれまでの学校での学習を振り返ることを通して,外国を理解するための視点を学びました。まず韓国調査隊と称して,身近な生活の中の韓国を資料から調べてもらいました。ここでは,ネットニュースグループ,チラシ広告グループ,まちかど写真グループに分かれて学級ごとに調べていきます。例えば,ネットニュースグループは,Yahoo!ニュースの「国際」や「韓国」に関するタブを見て調査し,韓国のいちごの価格高騰や鳥インフルエンザの流行,大統領の逮捕などのニュースが日本でも注目されていることが分かりました。他にも、携帯のチラシを調査したチラシ広告グループからは「サムスンという韓国の会社がスマホを作っている」といった気づきが、空港の写真を調べたまたまちかど写真グループからは,「1日2便韓国に飛行機が飛んでいる」「案内が韓国語の文字で書いてある」「韓国から日本に旅行に来ている人もいる」といった気づきが共有されました。このように,身近な生活の中に埋め込まれた,たくさんの韓国との関わりに気づくことができました。
続いて,学校で学んできた韓国を教科書から調べてもらいました。ここでは,社会科教科書(歴史編の原始・古代,中世・近世,近代・現代,政治・国際編の日本とつながりの深い国々)を学級ごとに分担して調べてました。そして,調べた成果を1学級につき3つ程度に絞ってスプレッドシートに入力してもらいました。スプレッドシートには,「渡来人」「仏教」「秀吉が朝鮮に大軍を送った」「焼き物」「韓国併合」「大阪のコリアンタウン」といった言葉が見られました。このように,身近な生活の中だけでなく,これまでの社会科学習の中でも,韓国とのつながりをたくさん学んできたことに気づくことができました。
次には、韓国の子どもたちや先生から,韓国の中では日本はどのように学ばれている/教えているのかについて発表してもらいました。韓国の子どもたちは,「日本のアニメをよく見ている」「日本によって朝鮮が植民地支配されたこと,そこから独立するために様々な運動をしたことを学校で学んだ」など韓国での学びを共有してくれました。韓国の先生は,「最も近くて,最も遠い国である日本」という表現を用いながら、地理的に近いことによる肯定的な交流と様々な争いや対立の歴史が混在していることを教えてくれました。このように,韓国における日本の学びは,日本における韓国の学びと違うことに気づくことができました。
実際に,韓国の先生に聞いてみる!
視点を活用しながら,対話を通して外国をより深く理解する
授業の後半部では,前半で学習した視点を活用しつつ,韓国の人と実際に対話することを通して,日本と韓国の相互理解を深めようとしました。まず草原教授が前半部の調査結果をまとめました。例えば,アニメや仏教などの行き来を「情報の交流(文化)」と名付けるなど,子どもの調査結果から韓国を理解する複数の「視点」の概念化を図り,さらにそれを「視点カード」として可視化していきました。視点カードとして,以下のものが提示されました。
①ヒトの移動(社会):旅行,遊びなど
②情報の交流(文化):アニメ,マンガ,仏教など
③モノの輸出入(経済):スマホ,自動車など
④国の外交や対立(政治・歴史):竹島,植民地など
⑤気候やその影響(自然・地理):寒い,キムチなど
続いて,これら5つの視点を使って,日本の小学生と韓国の小学生・先生がお互いの国のことについて質疑応答しました。まず広島の学級が,韓国の人たちへの質問を1つ作ります。そして,Google翻訳を使って韓国の子どもたちに質問し,実際に答えてもらいました。例えば、以下のようなやりとりがありました。
日本:「おすすめのお土産や観光地はありますか?」
→韓国:「私の地域で有名なのはコチュジャンと登山コース」
日本:「韓国で人気の自動車メーカーは何ですか?」
→韓国:「ヒュンダイ,キア」
日本:「韓国で日本製のものは何がありますか?」
→韓国:「ジェットストリーム(ボールペン)」
日本:「日本製の車はありますか?」
→韓国:「レクサス,トヨタ」
日本:「学校の授業で日本語を勉強することがありますか?」
→韓国:「高校の第二外国語で選べば学ぶことができる」
日本:「日本に対してどんなイメージがありますか?」
→韓国:「優しい」「食べ物がおいしい」
日本:「日本に来たいですか?」
→韓国:「最近,韓国では日本への旅行がブーム」「今週日曜に広島に行く」
続いて,韓国の子どもたちや先生からも広島の小学生に質問をしてもらいました。韓国の子どもたちからは「日本の有名なスポーツ選手は誰ですか?」「日本では独島についてどれくらい学んでいるのですか?」という質問が,先生からは「皆さんの将来の夢について教えてください」という質問がありました。日本の子どもたちは以下のように回答しました。
韓国:「日本の有名なスポーツ選手は誰ですか?」
→日本:「大谷翔平,三苫薫,八村塁,高橋蘭…」
韓国:「日本では独島についてどれくらい学んでいるのですか?」
→日本:「竹島は日本の領土だということを勉強した。でも,竹島について韓国と領土を争ったことも勉強した」
韓国:「皆さんの将来の夢について教えてください」
→日本:「声優,プロ野球選手…」
このように,日本と韓国の人々が実際に対話をすることを通して,お互いの国の理解を深めることができました。
これからの学びへ
終結では,まず草原教授が,あらためて日韓の対話を5つの視点から整理しました。自動車に関する「モノの輸出入(経済)」や旅行先に関する「ヒトの移動(社会)」,竹島・独島問題に関する「国の外交や対立(政治・歴史)」といった視点が使われていたことを指摘しました。他方であまり使われなかった視点として「自然・地理」(例:広島から韓国は1時間10分,広島から東京は1時間20分で,韓国の方が近い!)を挙げました。焼き物の技の伝来は,歴史と文化の2つの側面から捉えられることも補足しました。
本時の終わりにあたって,「視点を決めて,韓国に対する理解をまとめよう」という課題に取り組みました。子どもたちからは,「かん国とは日本との歴史の関係が深いところだ」「韓国とは日本の車、ボールペン、スマホなどが輸出されているところだ」といったまとめが見られました。このように,子どもたちは外国を理解する視点を獲得するとともに,キムチやタレントに焦点化された当初の韓国像を拡張していく姿が見て取れました。最後に金准教授から,「5つの視点を意識し,実際に対話することを大切にしながら学んでいきましょう」とまとめられました。
国同士の相互理解に向けて
本時の授業は,自国のソトにいる他者と直接対話するところに特色があります。日韓両国の子どもたちが自分たちなりの関心と資料を基に外国に目を向け,ナマの他者と対話をすることは,国同士の相互理解を促すきっかけになったと思われます。オンライン学習は,空間的制約を越えて外国と交流する機会を創り出すことができます。引き続きNICEプロジェクトは,地域や国といった空間を越えて公共的な課題について意見を交わす公共圏を生み出す授業を提案してまいります。
授業実施者:金鍾成,草原和博
授業補助者:各小学校での授業担当教員
学校技術支援担当(東広島市内小学校):三井成宗,近藤郁実,山本健人,濱田莉緒,清政亮,圓奈勝己,上中蒼也,大岡慎治,川本吉太郎,中西美里,新谷叶汰,澤村直樹,見田幸太郎,松岡佑奈
事務局機器担当①(広島大学):神田颯,久我祥平,草原聡美
事務局機器担当②(三津小学校):宇ノ木啓太,横田亜美,林千里,田中崚斗,野津志優実
「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!
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