授業実践

【多文化共生】学校の当たり前を問い直す―「正しく話す」だけでいい?思いが届くことばとは?―

2026.05.13

指導案・教材・YouTube動画

授業の概要

2026年5月13日(水),東広島市内小学校3校8学級(造賀小学校,木谷小学校,龍王小学校)の3~6年生217名,広島市立基町小学校の6年生1学級13名に加え,各地の校内/校外教育支援センターの子どもたちが参加し,「多文化共生」をテーマとする遠隔授業を実施しました。

授業の主題は「学校の当たり前を問い直す―「正しく話す」だけでいい?思いが届くことばとは?―」。授業では,広島大学の南浦涼介准教授と草原和博教授が進行を務め,外国につながりのある児童が在籍する学校も参加しました。子どもたちは,日常的な外国語経験を振り返りながら,外国語が「上手」とはどういうことかについて問い直していきました。

導入:外国の言葉を話す経験を振り返る

授業の冒頭では,子どもたちが日常の中でどのような言葉にふれているのかを確かめるため,事前アンケートの結果を共有しました。アンケートでは,「日本語・英語以外の言葉を話せる」と回答した児童がすべての参加校におり,スペイン語やアフガニスタンの言葉など,さまざまな言葉を使う子どもたちがいることが分かりました。また,基町小学校からは,半数の子どもが中国語やネパール語を話すことが紹介されました。

次に,担任教師に対して,話すことのできる言葉とその自信の程度についてインタビューを行いました。先生方は,日本語には自信があり,英語には少し自信があるものの,ペルシャ語,タジク語,中国語,ドイツ語などにはあまり自信がない,という回答がありました。続いて,ALTのラナさんにも話を聞きました。ラナさんは,英語,スペイン語,タガログ語,日本語を話すことができる一方で,日本語を話すときは「ナーバス」になると語りました。これらのやり取りを通して,外国語を話すことへの不安は,子どもだけでなく大人にもあることが共有されました。

その後,子どもたちにも「英語を話す自信があるか」を尋ねました。結果は,「自信がある」が10.9%,「少し自信がある」が34.3%,「あまり自信がない」が29.2%,「自信がない」が25.5%でした。自信をもっている子どもがいる一方で,半数以上の子どもが英語を話すことに十分な自信をもてていないことが分かりました。こうした結果を受けて,授業のめあて「外国が『上手』な人ってどんな人だろう?」が提示されました。

展開1:外国の言葉が話し上手な人ってどんな人?

授業の前半では,外国語が「上手」な人について,話す側の視点から考えました。題材として取り上げたのは,新幹線の英語アナウンスです。授業では,①流暢な自動音声によるアナウンスと,②たどたどしさはありながらも車掌さん自身の声で話すアナウンスの2種類を聞き比べました。

子どもたちに,どちらのアナウンスがよいと思うかを挙手で尋ねたところ,意見はおよそ半数ずつに分かれました。①を支持する児童は,「間違えることがない」「正しい発音ができている」「聞き取りやすかった」と理由を述べました。一方,②を支持する児童は,「頑張って伝えたいという思いが伝わるから」「英語が苦手な人も聞きやすい」と話しました。TSUNAGU(仮)がまとめてくれたように,子どもたちは,「発音の正しさ・すらすら」と「相手が理解できるゆっくり・優しさ」のどちらを重視するかで,異なる考えをもっていることが分かりました。

ここで,南浦涼介准教授は,「なんで車掌さんは練習をしてまでわざわざ放送を自分でやろうとしているのか」と問いかけました。子どもたちは,車掌さんが英語の練習をしている動画を視聴し,あえて生の声でアナウンスをする理由について考えました。子どもからは,「(自分たちが学校の放送委員で練習をしているときと同じように)お客さんが聞き取りやすくするために一生懸命練習をしているんじゃないか」などの意見が出されました。

こうしたやり取りを通して,子どもたちは,話し手にとっての「上手さ」には,「早く」「スラスラ」話すことだけでなく,相手に一生懸命気持ちを伝えようとする姿勢も含まれることへと視点を広げていきました。

展開2:外国の言葉が聞き上手な人ってどんな人?

授業の後半は,外国語が「上手」な人について,聞く側の視点から考えました。まず基町小の外国から転校してきた子どもの校内放送に取り組む様子を動画で視聴し,「どんな気持ちで放送しているのか」を予想しました。子どもからは「みんなの前で放送するのはドキドキしているのかも」「不安なのではないか」との声が寄せられました。実際に基町小で放送委員を務める子どもは,「ドキドキしている」「今でも日本語は難しい」と話していました。

次に,基町小の校内放送を,教室の子どもたちはどのような気持ちで聞いているかを予想しました。基町小以外の子どもは「大丈夫かな」「頑張っているな」と応援しているのではないかと予想しました。実際に基町小の児童にインタビューしてみると,「たどたどしくても,すらすらでも同じように聞いている」「実はいつも集中して聞いているわけではない」といった声が聞かれました。そこから,基町小においては「当たり前」の光景であることが見えてきました。

さらに,なぜそのような光景が基町小学校で「当たり前」になっているのかを,校長先生に尋ねました。校長先生は,基町小学校には外国につながりのある児童が半数以上在籍しており,委員会活動でも,子どもたちが国や言葉の違いにかかわらず役割を担っていることを紹介しました。また,友だち同士で支え合いながら活動していることも語られました。

こうした展開を通して,子どもたちは,外国語の「上手」について,聞き手の視点や,多様な言葉や背景をもつ友だちとともに過ごす学校文化について考えることができました。

終結:「上手」の意味を考える

授業のまとめとして,子どもたちは,「外国の言葉が「上手」な人とは○○○な人である」という文章を考え,発表しました。参加学級から示された文章は,以下の通りです。

成果物にも現れているように,子どもたちは,外国語の「上手さ」を,流暢さだけに求めていたわけではありませんでした。むしろ,話し手が練習を重ねて伝えようとする姿勢や,聞き手が「間違っても大丈夫」と相手を受け止めることなど,多様な考えが示されました。最後に,南浦涼介准教授は「いろんな上手さがあるということを大事にして,これからもいろいろな言葉の勉強を頑張ってほしい」と述べ,授業を閉じました。

多様な学習環境を生かす学習デザイン

本授業では,「外国語が『上手』な人ってどんな人だろう?」という問いを通して,子どもたちは,外国語の「上手さ」を正確さや流暢さだけでなく,相手に思いを届けようとする姿勢や,それを受け止める聞き手のあり方から考えました。今回の授業では,造賀小学校の日本語での放送委員の経験,木谷小学校での外国人参観者との出会い,龍王小学校のALTとの関わり,基町小学校の外国につながる児童による校内放送など,各学校の経験や状況が学習に生かされていました。子どもたちは,新幹線の英語アナウンスや基町小学校の校内放送を手がかりにしながら,それぞれの学校生活と結びつけて,ことばを通して他者と関わることの意味を考えていきました。引き続き,本プロジェクトでは,多様な背景をもつ他者と共に生きる力を育む公教育のあり方を,授業実践を通して探究していきます。

この授業実践の関係者

授業実施者Ch1:南浦涼介,草原和博
授業実施者Ch2:瀧本耕平,木村真之,井手歩実,宮﨑颯太
授業補助者:各小学校での授業担当教員
学校技術支援担当(東広島市内小学校):山田悠華,山本成瀬,後藤嘉希,上中蒼也,岩切祥,中西美里,小笠原周哉,湯川茉琴,三井成宗
学校技術支援担当(広島市内小学校):川本吉太郎,梶山彩佳
事務局機器担当①(広島大学):草原聡美,長野睦生,神田颯
事務局機器担当②(広島市立基町小学校):宇ノ木啓太,山口祐樹,宮本侑弥

この記事を書いた人
SIP staff
三井・川本・宇ノ木・神田

「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」プロジェクトメンバーである三井・川本・宇ノ木・神田が更新しています! ぜひ、本記事を読んだ感想や疑問・コメントをお寄せください!